第6話

『仕事、休みたいなって。』



「仕事?」



『そう。』




頷く代わりに、今度はあたしのほうから口づける。


ワザとちゅ、と音を立てて彼を見つめれば、「それは感心しないな。」なんとも面白みのない返事に内心タメ息を出た。



穏やかに目元を細める彼。あたしの髪を宥めるように梳く。まるで子供をあやすみたいに、彼は優しく優しく包み込んでくれる。




それをたまらなくもどかしくおもう。





「まだ引継ぎが残ってるんじゃないのか?それとも寿退社が決まって気が抜けた?」




耳元にクスリという笑い声が落ちてくる。


彼は穏やかに目を細めると、額にひとつ、キスをくれた。





『違うけど…、でもたまには冒険したっていいんじゃない?』



「二人でサボることが?」



『そうそう。昨日と同じワイシャツとネクタイで遅刻するの。』



「二人で?」



『うん。二人で。』




首を傾げ、わずかに目を丸くした彼に、『もちろん香水も一緒。』楽しむように言う。

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