第4話

その鋭利な顔つきは"彼"とは全然違う。


綺麗に整えられた黒髪の、切れ長の瞳を隠すまぶたも、その男らしい腕で、あたしを力強く抱き締める仕草も、視聴覚室での"彼"とは全然違う。



彼はもっとあどけない顔をしていた。




チョコレート色の髪も、ニカッと笑ったときに突き出る八重歯も、正直、セックスとはかけ離れているくらいに幼かった。




それでも彼はあたしを求めた。




暗幕の裏側で、力強く、衝動的にあたしを貪った。




その不自然なギャップが、あたしはものすごく大好きだった。





「――…香澄?」




ふと背中へ回された腕に力がこもる。


彼の胸に納まっていた顔を上げれば、彼はもう一度「香澄(かすみ)?」と呟いた。



切れ長の瞳は眩しそうに細められている。





『ごめん、起こした?』



「いや、起きてたのか?」



『うん。5分くらい前に。』




そう言えば、彼は「そうか。」と、ゆっくりとした動作で唇を押し当ててきた。

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