第5話 ギフト 2
リンゴと一緒にスティック型携帯食(カ〇リーメイトに見えるが決してそうではない)を食べて昼ご飯終了。
王子の側には常に護衛が控えていなきゃいけないので、二人だけで残されると部屋間の移動もしづらいのがつらい。
あ、トイレと風呂は大丈夫。寝室に隣接していて、移動的にはノーカンの扱い。
その辺は乙女ゲームの設定の影響かもしれない。水洗トイレと風呂はひっそりと当たり前に存在している。
ベッドに転がっていたヒューに手招きされて、よいしょと隣に横になった。
僕たち従者は、主のセディ様とベッドで一緒に寝ることが多い。
添い寝ではない。
同じベッドに黒髪が二人寝ていたら、一瞬どっちかわからないだろうと暗殺者の気を逸らすためだ。
そのために特別に用意した大きなベッド。
複数利用前提の大きさがバレているらしく、ちまたでは第一王子は両刀遣いで節操のない色好みだと噂が流されているらしい。
正妃様のイメージ低下作戦の一つだ。
男子寮内に娼婦を何人も連れ込んだり、可愛い男子生徒に次々と手を出しているらしいよー。ちなみに、お付きの僕はそんな現場を一度も見たことない。
両刀……第一王子を貶める噂を片っ端から流しているんだなと思っていたけれど。
今回の騒動で、セディ様は女じゃなくて男が本命だと知ってしまった。
婚約者もいるんだし、勝手に女の方が好きなんだろうと思っていたよ。
でもよくよく思い返してみれば、婚約者の悪役令嬢だけでなく、セディ様はどんな女に対しても塩対応。
ポーズじゃなくて、本当に女には興味なかったのか……。
「……ねえ、ヒュー。
セディ様が同性愛者って前から知ってたんですよね」
体調を崩している王子という設定なので、昼間から横になっている同僚に声を掛ける。
どうした、と閉じていた彼の黒い瞳があらわになった。
モブだから地味だけど、彼もなかなか整った顔をした男前だ。
あまり崩れている容姿じゃ、影武者の意味がない。
僕もどちらかというと緊張感のない顔なので、セディ様の影武者を演じる時は必死にきりっとした表情を心がけて――それは今は関係ないか。
「あー……うん。ずっと対外的には性癖……って言い方はアレだけど隠されていたな。
婚約をしていた公爵家の庇護が必要だったし。知っていたのはごく一部の従者だけ。
あー……だからおまえが教えられていなかったのは仕方ないぞ。極力伏せてたんだから」
そうなのか、と僕は頷く。
僕が教えられていなかったのは仕方ない。従者内でも家格的には男爵家は下っ端だから(ギフトは別問題)。
高位貴族である伯爵家のヒューぐらいでないと、重要な秘密の共有はできないんだろう。
「あ、こいつ誤解している……まあ、まだいいか」
謎のため息をついたヒューは、次の瞬間には悪戯っぽい表情を浮かべていた。
「――ところでアレク。
セディ様は同性の方が好みだとカミングアウトされた訳だ。
世間に大っぴらに広まることはないだろうが、今後セディ様も行動を自重することはなくなると思われる」
悪役令嬢という婚約者がいたからこれまで表立って遊ばれることはなかったが、今後は違うということだな。
頷いた僕にヒューは続けた。
「もしかしたら、俺やお前といった従者を欲の解消に使われるかもしれない」
!!!!!
思わず僕は目を大きく見開いた。
そ、そうか。対象が男ってことは、この男子寮という名の閉鎖空間でも、気軽に相手が調達が出来るってことになるのかな……?
セディ様も十八歳。
ここではなく、城にそういうお役目の方が待機していたり、もしくは高級娼館のプロを相手にされているんだと思ってた。
手近で解消されるようになるのか? もう性的志向は秘密じゃないんだから。
はっ、そういえば!!
「それで僕、学園入学前に男同士のセックスの仕方を教えられていたのか!」
「ちょっと待ったアレク! まさかおまえ非処女?!」
こちらは小声だったのに、なぜか大声で確認してくるヒュー。
バレる。声でセディ様じゃないってバレるぞ?
潜んでいる敵や暗部皆が気づいている、マッチポンプ状態だから今更かもしれないけど。
それに僕は男なので、処”女”は間違っている。
「もう男を経験してるのか?!」
「え、聞くんだ。
恥ずかしいな、言わなきゃダメ?」
「あ、当たり前だろ!
おま、俺たちはセディ様に仕えているんだから。従者が互いの情報を共有するのは基本だ」
前のめりになって問いただす同僚に、ふっと笑ってしまった。
僕の養父は出来る男だからね。ちゃんとやり方を、一から学ばせていたのか。
ようやく今にして意味が分かった。
用意周到ー。
「最初から最後まで。
前戯から挿入、フィニッシュ後始末まで、王都の某高級娼館で実地研修済」
「ま、まさか……」
「ひととおり、全て”見学”している!」
前世も今世も、通しで〇年童貞ですが何か?
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