第34話
久しぶりに逢えたのに とは思うが、話せただけでも良かった
そう思い、歩いていたが
いつの間にかそれは早歩きとなり、軈て(ヤガテ)は駆け足になっていた
濃い霧の中を突っ走り、霧が晴れて光りに目が眩み、僕の意識はフェードアウトした
――――――
――――
――
「………ぁ…………」
意識を取り戻して、僕は声を出そうとしたが、上手く言葉が発声出来なかった
喉が渇いているのか、少しヒリつく様に痛む
見覚えのない真っ白な天井に、鼻をつく薬品の匂い
記憶にはないが、僕は今病院のベッドで寝ている様だ
右手に温もりを覚えてそちらに視線だけを動かすと、母が僕の手を握って椅子に座ったままベッドに顔をうつ伏せて寝ていた
状況が読み込めず、視線と思考を巡らせていた
たしか僕は、あの日何時も通りの朝を迎え、 “幼馴染みと一緒に” 学校に向かっていたはずだ
僕は何時も通り幼馴染みの家に迎えに行って、
何時も通り変わらない通学路を歩いて、
何時も通り他愛のないお喋りをして、
何時も通り笑っていたら………
身体中に走った鋭い痛みと浮遊感
響き渡る甲高い悲鳴と車の急ブレーキによるゴムが地面と擦れて鳴る不快な音と、温かい温もりと、生暖かい液体
嗅ぎ馴れた幼馴染みの匂いと、日常では嗅ぐ事のない深く鉄臭い臭いが僕を包んで………
そこまで思い出して、やっと気付く
僕は―――
僕と幼馴染みは車に跳ねられたのだと
やっとそこまで思い至り、僕はパニックになる
「―――っ!!!
潤!
潤!!
母さんっ、潤はっ!?」
母を叩き起こして幼馴染みの事を興奮気味に尋ねる
いきなり、勢いつけて起き上がったのだから車に跳ねられた僕の身体は痛いと悲鳴をあげていたがそんな事は二の次だ
僕をこちらに引き戻してくれたのはきっと、いや、絶対にあの幼馴染みだ
幼馴染みが 戻れ と追い返してくれたからこそ僕は今こうして生きている
だが、僕は幼馴染みがこちらに戻って来ている処を見ていない
況してや、幼馴染みは僕が戻るのを見守ってくれていて、あいつは一歩足りともこちらに歩いていなかった
厭な予感しかしない
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