第33話

僕は周囲をぐるりと見回してみるが、辺りは濃い霧に包まれていて良く見えない


そして僕の心の中に小さな不安が生まれ始める


いきなり壊れてしまったのか、時間の進まない携帯


1m以内でも下手したら見えないくらいの濃い霧


進んでも進んでもたどり着けない学校


僕は静かにパニックになっていた


どうしたら良い?


とりあえず携帯画面を操作して、友達に電話を掛けようとしたその時、懐かしい声に呼ばれた




「…あれ?


朱鷺音(トキネ)…?」




声のした方を見れば、懐かしい顔がそこにあった




「潤(ジュン)…」




僕は酷く安堵して幼馴染みの名前をぽつりと呟いた




「お…まえ……、何やってんだよこんなところで!」




いきなり肩を強い力で掴まれて怒鳴られる


何故、彼にそんな事を言われているのか解らずに目を白黒させる


僕が口を開こうとするとまた幼馴染みが怒鳴る




「お前、今直ぐ帰れ!


元来た道くらいいくら方向音痴のお前でも分かるだろ!?」


「え…?


いや、でも、学校…」


「良いから!!


学校なんて良いから早く帰れ!」


「………っ、分かった…


……お前も一緒に帰るんだよな…?」




幼馴染みの嘗て(カツテ)ない様な剣幕に圧され、僕は渋々と了承すると共に尋ねる


訊かなければ幼馴染みは独りで先に行ってしまいそうで


まるで 独りで帰れ と言われている様で


そんな厭な予感が的中して欲しくなくて……


幼馴染みは目を一瞬悲しそうに伏せるものの、直ぐに僕の目を見て力強い言葉をくれた




「…大丈夫、直ぐにお前の後追って来るから


だから先に行っててくれよ、直ぐに追い付くから」




ふわりと、僕の大好きな笑顔でそう言うから


僕は考える間もなく、大きく頷いた




「んっ


絶対だからな!」


「おぅ、約束


だから早く行け」


「分かった


…またね!」


「……、おぅ」




僕は幼馴染みに背を向けて元来た道を戻りだす


少しの間、幼馴染みからの視線を感じていたが、不意にそれが消えた


きっと、霧のせいで僕の姿が見えなくなったのだろう

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る