第21話

そしてドアが閉まる直前に見えた兄ちゃんの携帯


その携帯の画面は着信を知らせていた


ドアが閉まって、小さくくぐもった兄ちゃんの声が聞こえてきた


今日は平日


父さんと母さんは昨日から出張に出ていて、明日まで帰って来ない


現時刻は8時ちょい過ぎ


いつもなら兄ちゃんはとっくに仕事を始めている時間だ


そこで俺はやっと気付く


今日は平日なのにまだこの時間に家に兄ちゃんが居る違和感に


そういえば、俺が倒れた時兄ちゃんは仕事に行く直前だった


俺が居間で倒れたのを見た兄ちゃんは鞄放り投げて駆けつけてくれたんだったっけ


それから俺に付きっきりで2階の俺の部屋までおぶってくれて…



…ダメだ


今日の俺、兄ちゃんに迷惑かけっぱなしだ


お鍋の中のお粥を全部食べ終わった処で兄ちゃんが水と薬を持ってきてくれた




「…お、ちゃんと食ったな


ほれ、薬と水


飲んで早く風邪治せ馬鹿」




あーあ、何とかは風邪ひかないって言うのになぁー? と、軽口を叩きながらも看病してくれる兄ちゃん




「………ごめん……」




声が、沈んだ




「……あ?」


「……迷惑かけて…ごめん……


…俺なら大丈夫だからさ、仕事行ってきなよ!


遅刻だよ?」




慣れない作り笑いでそう急かす


兄ちゃんは今まで1度も仕事を休んだり、遅刻した事がない


だから仕事場での信頼も厚かったりするのだ


だが、今日は俺のせいで遅刻してしまった


あの電話はきっと、仕事場からのものだったのだろう




「……あん?


何言ってんだ馬鹿


今日俺、仕事休みだっつーの


どんだけ俺と一緒に居たくねーんだよ


こーゆー時くらい甘えろ馬鹿


…全く、可愛くねー奴」




そう嘯いて俺の頭を撫でた兄ちゃん


その優しさに、ちょっとだけ泣きそうになった


今日、本当は仕事だったのに嘘ついて、きっと俺が後ろめたく思わない為に…




「じゃっ、可愛くねぇ弟よ、薬飲め」




人がちょっと感動している時にそれをぶち壊しやがった兄




「………ヤだ」


「……あ゛ぁ?


なんだと、このクソ弟


人がちょっと優しくしてやってたら付け上がりやがってよぅ


あ゛んコラ」




頭を撫でていた手が止まり、握り潰す様に力一杯掴まれる




「いいい痛い痛い痛いっ!!!


ごめん!


ごめんってば、にーちゃん!!


ちゃんと薬飲むから離して!!」

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