じゅーさん
風邪
第20話
ピピピピ ピピピピ
兄の大きな手によって、俺が口にくわえていた体温計が引き抜かれる
「……38度7分…
完璧に風邪だな、こりゃ」
「う゛…」
「ちゃんと寝とけよ
今何か食えるもん作ってくるから
あ、その後薬飲めよ」
そう言って、有無を言わせずに兄ちゃんは部屋を出て行った
「う゛ぅー……」
久しぶりに風邪をひいてしまった
風邪をひいたのなんて、何年ぶりだろうか と、ベッドの上で退屈な俺はぼんやりする頭で考えてみる
高校入ってからは今まで1度もなかったし、中学でも1度も風邪をひいていなかった
と、思う
仰向けに寝ていた俺は、ドアの方へと寝返りをうつ
なんとなく、寂しかった
そのまま何分かジーッとドアを見詰めていたら、兄ちゃんがお盆に1人用の小さいお鍋と同じく小さめのお玉と茶碗と蓮華を持ってきてくれた
ベッドの横のテーブルにお盆を置いて、そのまま椅子に座った兄
「お粥、作ってきたから食え
こんぐらい食えんだろ」
顎でお鍋を指す兄ちゃん
些か失礼だとは思うが、いつもはこんなに優しくないから、なんとなく気味が悪い
「ぁ、ありがとう…」
ちょっと照れ臭くて、声が尻すぼみになった
お鍋の蓋をとり、茶碗にお粥をよそう
お粥を蓮華で1口分掬い、ふぅふぅと冷まして食べる
「……ん、おいし…」
素直な感想が俺の口から溢れる
それを聞いた兄ちゃんの口角が少し上がる
「当たり前だ
俺が作ったんだからな
…っと、薬と水持ってくるからちゃんと食っとけよ」
そう言い残して兄ちゃんは部屋を出る為、俺に背を向ける
俺はその背中に小さくお礼を呟く
「……ありがと……」
「……どーいたしまして」
どうやら聞こえていた様だ
部屋から出る直前にそう言った兄ちゃんの口角はさっきよりも不敵につり上がっていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます