なな

脇役くんの恋愛事情

第8話

「―――好き、です――」




堅く握った手が、震えた


怖かった


フラれる事もだが

男の僕が同じ男の彼に告白しているからだ


彼が 僕(男)に告られた と、言い触らし、笑い者にするとは考えられなかったが

もう、今までの様に “ただのクラスメート” には戻れない


もしかしたらこれから避けられるかもしれない


そう考えると、とても怖かった


でも


今日僕が彼に告白したのには 理由 がある


別に、罰ゲームとかではないのだけれど




「…………ごめん……


……俺、好きな奴がいるんだ……


ごめん」


「……うん………知ってる………」




そう、呟く様に俯いたまま言葉に表す




そう


僕は知っていた


彼に好きな人がいる事も

それが僕でない事も


知っていた



知っていながら、僕は彼に告白したのだ




「………え?」




彼は僕の呟きに目を見張る


何故? と、彼の瞳には疑問符が浮かんでいた


まぁ、普通は確かに疑問に思うだろう


フラれると分かりきっているのに告白する その意味が、理由が、理解出来なかったのだろう


僕も彼の立場だったらきっと彼みたいに理解出来なかっただろう




「僕、知ってたよ


貴方に好きな人がいる事


だから、例え告白してもフラれる事も


でも


だから、 それ が “告白しない理由” にはならないよね?」




そう尋ねると、彼は小さく、

だが、とても鋭く、息を飲んだ


きっと、これで僕が言いたい事も彼に伝わったと思う


この告白の意味も 理由も

きっと解ってくれる


賢明な彼なら僕の意思に 小さなエールに 気付いてくれる



そう信じて 僕は彼に告白した


これは、実る事のない恋だったけど、

意味の在る 有意義な恋だったと信じている


信じていたい




「………ありがとう……」




ぽつりと呟かれた感謝の言葉


それを聴けただけで、フラれてしまったのに、胸がほっこりと、暖かくなった

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