第36話 人生ゲーム



「さ! 最初は何する? とりあえず、桃次郎電鉄100年からやる?」



 帰らせる気ゼロじゃねーか

 何時間かかると思ってんだ? そんなのやり始めたら絶対に帰れないだろ。



「100年なんて絶対今日中に終わらないだろうが。仮にするのなら3年とか10年とかだろ」


「え? なに言ってるの石橋。今日は泊まりでしょ? オールでしょ?」



 まじで帰らせる気なかったのかよ。



「いや、普通に帰るけど……夕方には」


「は? 夕方? せっかく夜にタコパしようと思ってたこ焼き機を買ったのに……?」



 そのたこ焼き機、今日の為に用意したやつだったのかよ。



「……………………別に、いいんだけど」



 そう言いながらしゅんとした表情でたこ焼き機を片付けようとするそんな寂しそうな背中を見ながら、ため息をつく。


 俺は真由と軽く頷き合ってから改めて麗華に話しかける。



「あーなんか、たこ焼きの話をしていたらたこ焼きの口になってきたなーもう今日はここでタコパでいいかー……な? 小日向?」


「うん。そうだね。私もみんなでタコパしてみたいな」


「……二人とも、私に気を遣ってるでしょ?」



 うわ、めんどくさ……



「俺がお前に気を遣うと思うか?」


「……確かに、石橋だし」



 そこで素直に納得するのは釈然としないが、まぁいいだろう。


 とりあえず、晩御飯の件はこれで終わりで、オールお泊まりの件は触れないでおく。 



「人生ゲームとかないのか?」


「あ、買ってあるよ」



 山のようにある遊び道具の中からゲーム機とゲームソフトを持ってきた麗華。2人は特に異論はないとのことでとりあえず人生ゲームで遊ぶことに。 


 チュートリアルを終えて、プレイヤー名を記入してゲームスタート。


 ゲームが進行していき、3人とも子供ゾーンを抜け出して大人ゾーンに突入していく。


 3人とも同じ高校に入学したが、卒業後、道は分かれた。


 俺は大学には行かずにそのままフリーター。真由は一流の大学へ進学。そして麗華は企業して大成功。現在所有金はダントツのトップだ。


 この時点で随分と差がつけられている気がするが……まだまだ人生ゲームは声からだ。


 俺のターンが回ってきて、5マス進む。


「ん? これは……結婚マス?」



「「っ!?」」



 マスに止まった俺以上に二人の顔が強張った。



「い、石橋……誰と結婚するの? ま、まさか私の知らないどこの馬の骨か分からないやつと……」



 妙にワタつきだす麗華。なんでそんなに顔を青ざめているのか分からないが、とりあえずゲームの説明をみる。



「……どうやらプレイヤーの中からルーレットで結婚相手を選ぶみたいだな」



 えっと……1〜5が出たら麗華で6〜10が出たら真由と結婚か。


 ルーレットが回り始める。


 

「…………………………」



 ちょっと、月島さん。顔が近い近い。


 隣からの圧力にやりにくさを感じながら、ストップボタンをした。

 


 結婚ルーレットの結果は4。


 つよしさんはれいかさんと結婚しました! 



「!!」 



 目を輝かせる麗華。



「ふ、ふ〜ん。ま、仕方がないから結婚してあげるよ。石橋」


「ああ、そうかい。ありがとう」


「言っておくけど、我が家はかかあ天下で石橋は私の尻に引かれてる設定だから」


「そうか、その無駄に細かい設定はいつ活かされるんだろうな」



 それにしてもゲームとはいえ、麗華と結婚かぁ。当て馬がヒロインと……浪漫はあるかな。



「あ、でも勘違いしないでね? これはあくまでゲーム。ただの遊びなんだから現実とごっちゃにしないように」


「わかってる」



 その後、麗華と結婚したことにより、二人の踏んだマスの効果が共有されることになった。


 麗華の豪運のおかげで、フリーターだった俺が今や一流企業の取締役だ。月島麗華効果すごい。


 そして、俺の会社に真由が入社するという展開に。



 そしてこのゲーム。なんと、ここからが本番だったのだ。



「あれ、このマス……不倫マス?」



 真由が止まったマスは不倫マス。なんでこんなクソみたいなマスを用意しているのか疑問だったのだが、嫌な予感がした。



 ……もしかして不倫相手は。



 つよしくんは真由さんと一夜を共にし、不倫関係になりました



 やっぱりっ……!!



「………………」



 さっきまでのウキウキ気分だった麗華の表情が一気に曇る。



「石橋!! 浮気したの!? 真由と!? 私がいながらっ……!! エッチなことしたんだ!?」


「……えっと、その、ごめんね? 麗華ちゃん」


「うわああああああああ!!」



 頭を抱える麗華はちょっと楽しそうな真由。



「お、落ち着け……これはあくまでゲームの話。だろ?」


「!! そうやって誤魔化そうってワケ!?」 



 なにこいつ。理不尽すぎる。



 なんか、混沌になっていくな……俺たちの人間関係。


 ゲームの中のつよしくんは二人と関係を持ちながら、コマを進めていく。


 そしてある真由がコマに止まってしまった。



「あ、出産マスだ」 



 つよしくんとまゆさんの間に男の子が生まれました!



「わ、私との子供まだ生まれてないのに……」



 さらに曇る麗華の表情。



 つよしさんとれいかさんは仮面夫婦の称号を会得しました!



 おいやめろ!! なんなんだこのゲームは!? 煽ってるのか!?



「か、仮面……夫婦……」


「えっと、ご、ごめんね? 麗華ちゃん……」


「うわああああ!! その言葉はもう聞きたくないぃぃ!!」 



 俺たちの人間関係がドロドロになっていく……



「わ、また出産だ。これで10人目だね……石橋くん。その……え、えっちすぎないかな?」

 

「いや、その……それは別に俺のせいでは」


「石橋!! なんで私との子供は作らないの!?」


「それはお前が出産マスに止まっていないからだ」



 そしてこの泥沼化しきった関係についに終止符がうたれた。



「ん? トラブルマスか」



 つよしくんは誰かに刺されて死にました。なにもかもおしまいです。お疲れ様でした。最下位確定です。



 ………………は? クソゲーか?



「ふん。自業自得なんじゃない?」



 隣の麗華がジロリと睨む。


 その後、真由は10人も子供を育て、貧しくも騒がしく、幸せな人生を送っていった。


 それと比べて麗華は日本の5本の指に入るほどの資産家になり、大金持ちになるが、孤独でどこか寂しい人生を送った。



 結果は麗華は圧倒的差を出して1位。



「……よ、よかったな。1位独走だぞ」


「……全然嬉しくない」



 すっかり落ち込んでいる麗華をみて、俺は真由と軽く頷き合ってから改めて麗華に話しかける。



「ほら、いい感じの時間になったし、タコパの食材を買いに行くぞ」


「…………うん」



 真由と二人で傷心の麗華を慰めながらスーパへと向かう。


 スマホでこのゲームの評価を見ると案の定、ボロクソに叩かれておりクソゲー扱いされていた。

 





 

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