第33話 修羅場な地獄
「ご主人! ちょっと時間いただきますよ!!」
朝食を食べ終わって早々、机をドン! と叩きながら雛乃が吠えてきた。
これからきっと面倒くさいことを言い出すぞ。
「小日向さんに続いて今度は同じクラスの千秋さんですか!? ご主人!! ちょっと手当たり次第過ぎやしませんか!?」
ほら、面倒くさい話だった。
「ちょっと外見が可愛くなったからって。はーやだやだ。ご主人ってああいうタイプの子が好みなんですね。言っておきますけど、ああいうタイプは本気になると痛い目に遭うんですから」
「いきなりどうした……」
「千秋さんとの距離感がちょっとおかしいんじゃないかって思うんです。まるで同姓同士の距離感ですよあれ!」
こいつ……妙なところは鋭いな。
「ちゃんとわかってるから、千秋はああいうやつだし。お前が心配しるようなことはしねーよ」
「は? なんですか、その俺だけはあいつを理解してますよ感は……」
ジロリとした視線がこちらに刺さってくる。
もうダメだ。これ以上なにを言っても無駄だな。
こういう時は脳みそをスルーモードにして適当に聞き流すのが一番だ。
千秋直伝『とりあえずこれ言っておけば女との会話は成り立つワード』を活用するとしよう。
『俺もそう思う』
『さすがだな』
この2ワード。とりあえず、共感して褒めておけばいいらしい。
「ていうかお主人、いつまで月島さんとの仮面恋人を続ける気なんですか?」
「俺もそう思う」
「ですよね〜クズ島先輩が流した噂の影響力はなくなりましたし、ここは仮面恋人解除の為に何か手を打った方がいいんじゃないですか?」
「俺もそう思う」
「ですよね! ふふん。ご主人任せてください。この状況を解決できる秘策があります!」
「さすがだな」
「まぁ? 私は超超超優秀なご主人の相棒ですから。至らないご主人を立てるのも右腕である私の役目ですからね」
「さすがだな」
「ご、ご主人。今日はやけに素直ですね……まぁいいでしょう。さっき言った秘策なんですけどズバリ! 月島さんの前で私たちがいちゃいちゃすれば良いんですよ!!」
「俺もそう思う」
「決まりですね!!」
「…………え?」
なにが決まりなんだ?
まずいな。脳死で『とりあえずこれ言っておけば女との会話は成り立つワード』を使って聞き流してたからなにを話ていたのか全然わからないぞ……
「それじゃ! 私ちょっと用事で出かけますね!」
「ああ……」
やる気が満々な姿に不安を覚えながらも雛乃を見送った。
翌日
授業の終了を知らせるチャイムが鳴る。
ようやくお昼ご飯ということで、授業で疲れたクラスメイトたちがそれぞれの昼ご飯を取り出し、グループを作り始めた。
とりあえず、雛乃が教室から出ないように指示を受けているのでそのまま待機。
「…………」
教室中にこいつはいつになったらここから出ていくのだろうという疑問の視線がチラチラと刺さる。
おかしいな……このクラスに来て結構たってるのに、転校初日からなにも変わっていない。
「石橋、いくよ」
バン! と教室のドアを開ける麗華。
千秋との1件以来、なんか教室まで迎えに来るようになった。
俺を呼び出すために麗華が教室に来るのは日常茶飯事になったのか、以前のように他のクラスメイト達は騒がなくなった。
違う。そういう変化は望んでいない。
雛乃には教室に居るように言われたが、これ以上は無理だな。
「今日はお弁当作らなかったんだ」
「ああ、そうだな。ちょっと起きるのが遅くてな」
お弁当を作ってるのが雛乃だと麗華には言っていない。理由は面倒くさくなるから。
「ふーん。購買寄って行く?」
「ああ」
流石に雛乃でもこの状況では割り込んでこないだろう。余程の空気の読めない馬鹿野郎じゃない限りー
「あ! 強くんー!!」
空気の読めない馬鹿野郎が来てしまった……
案の定、ざわめき始める教室。クラス中の視線は一気にのほほんとしている雛乃の方へ向けられる。
なにを隠そう桜井雛乃……容姿がかなり優れている為、めちゃくちゃモテるし有名人だ。
このクラスの中にも玉砕した男子もいるだろう。
そうなると……
「つよしくんってもしかして石橋のことか?」
「は? マジかよ……あの人。桜井さんにまで手を出したのか?」
「いったいどういう関係なんだろう?」
ざわめく空気をものともせずニコニコとしながら近づいてくる雛乃。さっきの強くん呼びといい、ぶっちゃけ嫌な予感しかしない。
しかも今一番この場に居て欲しくないやつが隣にいる。
おそるおそる麗華の様子を伺う。
「は? 強くん? は?」
月島麗華、あまりにも衝撃的すぎてバグったか……
「はいこれ、今日のお弁当! 今日は一緒にご飯食べよ〜」
「は? お弁当? は?」
こいつ、やりやがった……!! 最悪のものを最悪のタイミングで渡して来やがった!!
「あれ? あなた、月島さんですよね? 初めまして。私、強くんの幼馴染み桜木雛乃って言います。いつも私の強くんがお世話になってます」
嘘だろ、なんかいきなり幼馴染設定が生えてきたんですけど。ゲームでは石橋強と桜木雛乃が幼馴染みという設定はなかったはず。
「……私の? 幼馴染み? 石橋? どういうこと? 説明して?」
そんな無茶な。俺だって今知ったのに……
さらにどよめくどよめく周り、頭を抱える俺、真顔の千秋。ニコニコと笑っている雛乃。今まで見たことない目つきで俺を見つめる麗華。
なんだここは……地獄か?
「私たち、小さい頃からの付き合いで、ずっーと一緒にいた。それはとっても仲良しの幼馴染みなんです。ね? 強くん」
戸惑いと混沌が支配するこの空気を破ったのは、雛乃だった。強引に俺の腕を取ると、抱きつくように身体を寄せてくる。
「小さい頃は一緒にお風呂とか入ったり私をお嫁さんにするって……」
存在しない記憶だ……
「お、おお風呂!? お嫁さん!?」
麗華さん。やめてください。俺のネクタイを掴まないでください。まったく身に覚えがないんです。
「し、小学校くらいの話だろ……」
おそらく、多分……きっとそう。
「あ、そ、そうだよね……ふ」
俺の適当な言葉に安堵し、鼻で笑った麗華。よかった。なんか回復したようだ。
「勝負あったね。所詮は幼馴染み。恋人である私の方が断・然! 特別だったね。桜井さんだっけ? なんかごめんね?」
ドヤ顔で胸を張る麗華。
一体、なんの勝負だったのだろうか? まぁ、知らなくていいや。それよりも早くこの地獄の会話終わらないかな。
「私は強くんと寝ましたけどあなたは?」
雛乃の一言で教室が静まり返った。
二股、修羅場、三角関係、不穏な単語が聞こえてくる。
雛乃の核爆弾発言を聞いた麗華がギギ……と俺に顔を向けてくる。
……冷や汗が止まらない。
ドヤ顔をしながら再び口を開ける雛乃。
おいやめろ、もうしゃべるな。これ以上状況を悪化させないでくれー
「それと、私は強くんと『おはよう』から『おやすみ』までエブリデイ一緒ですけどあなたは?」
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