第32話 友達の悩みゴト



 チンチンチン〜♪



「……う?」



 スマホの着信音で目が覚める。


 誰だよ……こんな深夜に……


 目を擦りながらスマホを見ると画面には千秋雫の文字が。


 時間は深夜1時。


 ……スルーしよう。


 スマホを置いて再び目を閉じると


 ピコン


 ピコン


 ピコン


 ピコン


 今度はスタンプ連打攻撃を仕掛けてきやがった。


 そして再び、通話着信。



「……なに?」


『今から会える? ラーメン食べに行かん? チャーシューがめちゃくちゃ乗ってるコッテコテのラーメン食べたい』


「いくわけないだろ。なんじだとおもってんだ?」


『ちょっと、聞いてほしいこともあるんだけど……』


「……ガチなやつ?」


『ガチのやつ』


「………………」


『ごめん……無理ならいいや。遅くにほんとごめん」


「別に無理ってわけじゃ……あ〜〜もぉ〜〜寝てたのに…………………………チッ、わかったよ! 待ち合わせ場所どこ!?」


『まじ? いいの? お前のそういうところほんと好き』


「そっちの奢りだからな!」



 通話を切り雛乃にバレないように家を出て、待ち合わせの公園へと向かった。



「あ、おーい。こっちこっちー」



 公園のブランコでこちらに手を振っている千秋を見つける。服装は白いタボタボのパーカー一枚だ。


「………………」


「ああ、パーカ女子ってやつだよ。お前こういうの好きだろ?」


「うん! 大好き!」


 

 俺の機嫌ゲージが回復し、行きつけのラーメン屋へ。



「……で、話したいことって?」



 俺がチャーシュ麺を食べながら聞くと、千秋は煮卵を半分こちらに献上してきた。


 俺の中のご機嫌ゲージが少し回復したのを確認し、千秋が口を開く。



「お前が粗暴を撃退してくれてから……めちゃくちゃ男子から告られるようになった」



 確かに、最近、昼休みとか放課後とか呼び出されているところをよく見かけている。



「……それをどうにかできないってことか?」


「いや……そうじゃなくてさー」



 はぁ、と大きくため息をしながら



「……なんか、ふと思ったんだよ。俺が好きになる人ってどんな奴なんだろうって」



 言って、自嘲めいた笑みを浮かべる。



「俺が女を好きになることは普通のことだけど、周りは普通じゃなくて。俺が男を好きになることは普通じゃないけど、周りにとっては普通のことで……」



 何も知らないこの世界の人たちは彼を今後も女性として扱う。この世界のモブキャラである『千秋雫』として。


 今、彼は自身が抱えている矛盾に葛藤しているのだろう。



「そんなことを考えてると、もう自分には恋愛なんて無理なんじゃないか、諦めるしかないのかなって」



 ……どうしよ。割とガチなレベルの悩みごと来ちゃったんだけど。


 しばし、考えて……頭の中で言葉がまとまらないまま言葉を紡ぐ。


 

「…………なにも恋愛なんて無理。なんて、今決めつけなくてもいいだろ」



 千秋がこちらを見る。



「それにさ、恋愛に普通とかないと思うんだよ。だって、理屈じゃないだろ?」


「………………」


「別に、いいだろ。男か女、どっちでも好きになっても。少なくともその時は……俺がそばにいる。笑わずに、ちゃんと話を聞くよ。友達として」


「………………」


「な、なんだよ?」


「いや、この俺が陰キャ童貞のお前に恋愛相談をするなんてそんな屈辱的なことある?」


「前言撤回。もう勝手に悩んでろ」


「いや、ごめんごめん……思わず本音がさ。あ、お〜い〜ほんと悪かったから、拗ねんなって〜」



 グイグイと身体を押し付けてくる矢波。なんかいい香りがするのでやめて欲しい。モヤモヤするので。



「……ありがと。ちょっとだけど、なんか気が楽になった」


「お、おう……ていうか、普通ラーメン屋でする話でもないような気がするんだけど」


「そっか? 別に男同士が悩みを打ち明けるのに場所とか関係ないだろ。逆にこういうところの方が話しやすくない?」


「……それは、まぁ……そうかも?」


「まぁ、俺が誰かを好きになったら真っ先に相談するから、その時は頼むぜ。転生仲間」


「はいはい……」



 俺たちは笑いながら、拳をこつんと突き合わせた。



「ちなみに、どういう人なら付き合ってもいいかなって思う?」


「俺より可愛くてエッチが上手い子。もしくは男子? お前は……無理そうだな。童貞だし」


「……うるさいな」



 俺の返しにケラケラといつものように千秋は笑った。




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