第31話 石橋VS粗暴
「ふーん。それで、明日粗暴くんと屋上で喧嘩することになったんですか」
俺の布団でごろごろしている雛乃がスマホをいじりながら今日あった出来事を聞いていた。
「じゃ、頑張ってくださいね。私はもう寝るので、おやすみなさい〜」
「おい、待て。勝手におやすみするんじゃない。なんで俺がお前に事情を説明したかわかってるだろ?」
「あー! あー! わかりませんわかりませんー! 私はもう寝るんです!! ほら、さっさと出て行ってくださいよ!!」
「ここは俺の部屋なんだが」
「ていうか、ご主人はそうやって事情を説明したら協力すると思って!! 私のこと都合のいい女だって思ってるんだ!!」
布団に潜りながらキッとした目つきで威嚇してくる雛乃。
あの、俺の布団なんだけど。
「千秋さんのために勝手に頑張ってくださーい!!」
布団を心の殻として籠る雛乃。
あの、それ俺の布団なんだけど。
「…………ふんっ」
怒らせてしまったか……まぁ、毎回雛乃に頼って大分負担をかけてしまっていたからな。
きっと、迷惑に感じていたんだろう。反省しないとな。
「そうだよな……いつもお前には助けを求めて、何度も助けてもらった。それがいつしか当たり前になってしまっていた」
「………………」
ちらりとこちらを見る雛乃。
「ごめんな。雛乃……いつもありがとう。今回も頼むわ」
「はぁ、まぁ別にわかっていれば……あれ? なんか最後おかしくないですか?」
「そうか? 気のせいだろ。それで今回の件なんだが……どうやったら粗暴に勝てると思う?」
布団から出てきた雛乃が考え込む前に話を進めた。
「そもそも、粗暴くんってご主人より強いんですか? 正直、私はご主人の方が圧倒的に強いと思ってるんですけど」
「いやいや、粗暴晶を舐めるなよ? あいつの拳は木製バットのように硬く、蹴りはスタンガンのように鋭いらしいからな」
「……え、全然余裕じゃないですか。屑島先輩の時、殴られたのに木製バッドの方が折れたり、スタンガン喰らっても平然としてたでしょ」
「…………そういえばそうだったな」
「もうわざと粗暴くんの攻撃を一発喰らって、無防備になった瞬間に本気で殴ったら勝てるんじゃないですか?」
「いや、あの粗暴晶がたった1発でダウンするはずが……」
「ご主人、屑島先輩の時、殴った伊藤くんを教室の端っこまでぶっ飛出してたじゃないですか……あの時、相当手加減してたでしょ? そんな威力のパンチを本気で放ったら、きっと大変なことになりますよ?」
「それは……そうなんだが……」
「ご主人は自分の拳が凶器だってことを自覚した方がいいです」
「……はい」
「むしろご主人のパンチを受ける粗暴くんが心配になってきましたよ……」
「そうだな……俺の心配になってきた」
「あの、大事にならないようにちゃんと手加減してあげてくださいね?」
「お、おう」
「それじゃ、作戦はタイムは終わりということで、寝ます! おやすみなさい〜」
「ああ、おやすみ」
パタンと扉を閉めて部屋の外へと出る。
思ってた内容と違っていたが、雛乃に相談しててよかった。
さて、明日に向けてさっさと寝るとするか。
「……あれ?」
なんで俺、自分の部屋から出てしまったんだろう?
あれ? 俺の布団……あれ?
翌日
千秋と粗暴の告白イベントに巻き込まれた放課後、俺は重い足取りで屋上へと向かっていた。
理由が言わずがもがな。千秋を巡った粗暴との喧嘩である。
これはゲームでもあった『粗暴と決闘イベント』主人公である悠真が100%負けるいわゆる負けイベントだ。
このイベントが起きたら、粗暴NTRエンドまっしぐらなので実質詰みなのである。
「……おい、大丈夫か?」
隣にいる千秋がとても心配そうな顔をしながら聞いてきた。
「……何が?」
「いや、顔色悪いんだけど? しかもすごいクマだし……」
「ちょっと睡魔が……昨日一睡もできなくて」
「えぇ……何やってんの」
「大丈夫だ……もし、粗暴晶に何かあったら救急車を呼ぶ準備だけしておいてくれ……」
「何すんの!?」
屋上の扉を開いた先には粗暴晶が腕を組んで立っていた。
NTRキャラその3。粗暴晶。
凶暴な顔に大きな体。いかにも喧嘩慣れしていそうな風貌。さすが作中でも喧嘩最強と言われているだけはある。
「……今日はいい日だなぁ。石橋ぃ」
ニヤニヤしながら粗暴は言った。
「気に入らないお前を叩きのめせて、かつ女も奪えるんだもんなぁ?」
さらにわざとらしくこちらを煽ってくる。
「ごちゃごちゃうるさいな……さっさとかかってこいよ。もしかしてビビってんのか?」
「っ!? ほざけぇぇぇぇ!!」
煽り耐性0かよこいつ。
殺し屋のような目をしながら、粗暴が殴りかかって来た。
粗暴の拳を何もせずそのまま顔面で受け止める。
……さすが粗暴だ。普通に痛い。でもおかげで眠気がスッ飛んだ。
「……今度は俺の番だ。行くぞ粗暴」
「っ〜!!」
本気で放つ。素人行うような力任せの大振りのパンチ。本気で放った一発はガードした粗暴を屋上の金網までふき飛ばした。
…………それなりにガタイのいい男が何メートルもふっ飛んでる。
やっぱり、この拳は凶器だ……
「う……あ……う、腕が……っ……ガードしてこれかよっ……」
粗暴の両腕が痙攣しているかのように震えている。
「こ、こんなの……まともに喰らったら……」
「まだやるか?」
青ざめている粗暴を見下ろしながら問いかける。そして見下ろしている俺も若干青ざめている。
「っ!! っち!!」
力の差を思い知ったのか、粗暴は俺を睨みつけて逃げるように去って行った。
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