第29話 出会ってしまった二人
『おい、陰キャ。昼休み。昨日の非常階段集合な』
スマホからスポンという軽い音が聞こえたので確認すると千秋からメッセージが送られてきていた。
……今日もか。
さすがに2日連続で生徒会室に行かないのは具合悪いな。昨日の放課後、麗華に何で来なかったのかめちゃくちゃ詰められたし。
いつもは助け舟を出してくれる真由もなぜか助けてくれなかった。
俺は少し面倒な未来を思い描いたあと、『今日は無理』と短く返事を入れた。
まぁ、俺じゃなくても大丈夫だろ。多分。
相変わらず男子に囲まれている千秋の後ろ姿を見ながら思った。
昼休み。
生徒会室へ向かおうと扉に手をつけた俺の手をガシッと誰かが掴んだ。
「ちょいちょい、待ってよ石橋くん。どこへ行こうとしているの? 私との約束を忘れてないよね?」
しまった。厄介ごと(千秋)に捕まった。ニコニコの千秋スマイルから思わず目を逸らす。
「今日は生徒会室に行かなきゃならないってメッセージで伝えたはずだが?」
「あ、そうなんだ! ごめん見てなかった〜」
嘘だ。既読ついてたぞ
「まぁまぁ、生徒会室に行く前にさ。ちょいと私に付き合ってよ。時間は取らせないから! ね?」
ここでごねるよりさっさと要件だけ聞いて生徒会室に向かった方が賢いか。
「…………まぁ、10分くらいなら」
「よしきた」
そうと決まればさっさと移動してしまおう。別にやましいことなんてないが、麗華にでも見られたら面倒なことにー
「遅かったね。石橋」
扉を開けた瞬間、仁王立ちしている月島麗華の姿があった。
「………………何でお前がここにいるんだ」
「昨日、昼休み生徒会室に来なかった理由ちゃんと聞いてなかったから説明してもらおうと思って……で、その子、誰?」
「はじめまして! 私、石橋君のクラスメイトの千秋雫ですっ」
「は? 同じクラスだからってマウント取ってるつもり?」
どうした月島、過去一面倒くさいぞ。
隣に居る千秋がボソっと『は? なにこいつめんどくさい』とつぶやいた。
「石橋、行くよ。私達の二人の生徒会室へ」
おい、親友の真由を忘れてるぞ。
右手を掴まれ、生徒会室に連れ込まれそうになるが千秋が俺の左手を掴んで阻止した。
「月島さんごめんね? 今日、石橋くんは私との先約があって」
「は?」
千秋の言葉を聞いて麗華の視線がピリついた。
「悪いけど、石橋は忙しいの。生徒会の用事とか色々と。なんかあるから」
ぐい、と力強く麗華に引っ張られる。
「生徒会の用事って例えば? それって今すぐじゃないとダメなの?」
麗華に負けじと千秋もこちらを引っ張る。まるで、綱引きの縄みたいだ……
『なんだ? 月島さんと千秋さんが石橋を取り合ってる?』
『え? もしかして修羅場?』
『なんて、羨ましい……』
俺たちのやりとりを見ているクラスメイトたちがざわめき始めた。
羨ましい? なら代わってくれ。まじで。
「……で、石橋。どっちを選ぶの?」
現実逃避をしようとした俺を麗華の言葉が現実に連れ戻した。
え、何その言い方。どっち選んでもめんどくさくなるやつじゃん。
「もちろん。私を選ぶよね? 石橋」
どうしよう。麗華のドヤ顔を見たら急に選びたくなくなっちゃたぞ……
俺はしばらく考え込んだあと、二人に言った。
「俺は千秋の相談に乗るから、先に生徒会室に行っててくれ」
「なっ……!? 私より最近知り合ったばかりの女を取るの!?」
キッと睨みながら吠える麗華。
いうて、お前と知り合ったのも最近だぞ
「おい、落ち着け……お前の方が大事だからこそ。後回しにするんだ」
「……ど、どういうこと?」
「お前はショートケーキを食べるとき、上に乗ってる苺はいつ食べる?」
「……最後だけど?」
「それは何でだ?」
「それは……楽しみは最後に取っておきたいし……」
「それと同じだ」
「え?」
(それってどういう……は!? まさか!? 石橋!? そういうことなの!?)
「……つまり、私と過ごす時間が楽しみずぎるから、後に取っていきたいってこと?」
俺は麗華の言葉に何も言わずただ黙って頷いた。
「ふ、ふ〜ん? ま、そういうことなら許したげる。矢波……だっけ? 石橋にあまり迷惑をかけないようにね」
すっかり上機嫌になった麗華はそのまま生徒会室に向かって去っていく。
「よし、邪魔者はいなくなったし。さっさと済ますぞ」
「お前……いつか刺されるぞ。まじで」
なぜかドン引きしている千秋と一緒に非常階段に向かった。
「……で、相談て言うのは?」
非常階段についてさっそく本題に入る。急に麗華の機嫌が悪くなるかわからんからな。
「……屋上に呼び出された。多分告られる」
「……えと、おめでとう。俺の分も幸せになってくれ。それでは失礼する」
「おい待て、なに勝手に話終わらせてんだよ」
生徒会室に行こうとする俺の肩をガシッと掴む千秋。
「どうにかして明日の放課後にしてもらったんだけどさ、お前にもついてきて欲しんだよ」
「なんで」
「告ってきた男の前で『ごめん。私この人と付き合ってるの!』って断るから」
うん。そんなことだろうと思ったよ。
「いや、無理だろ。噂のせいで俺は月島と付き合ってることになってるんだから」
「二股してるってことでいいじゃん。俺には何の不都合はないし」
「俺には不都合しかないんだけど?」
「あのさぁー……いきなり女に刺されて死んで、気がついたら女になってて、その上よく知らん男に告白されてるだぞ? 少しは同情してくれてもよくない?」
「巻き込まれる俺にも同情してくれ……そもそも擬似彼氏役は俺じゃなくてもよくないか?」
「だって、お前学校内での評判ってやべーじゃん。そんな男の女とか絶対狙わないだろ」
「俺は虫除けか何かか?」
「…………………………」
おい、そこは否定してくれよ。
「はぁ……ちなみに相手は?」
「えっと、粗暴晶(そぼうあきら)って名前だったかな……」
「粗暴晶!? 粗暴晶だって!?」
「な、何だよいきなり。びっくりするじゃん……」
「だって、あの粗暴晶だぞ!?」
「いや、あのってどの?」
「女は拳一つで黙らせる。DVと苦痛に苦しむ女を見るのが大好きで、ヤるときは必ず首絞めをするというかなり歪んだ性癖の持ち主なんだ」
「めちゃくちゃやばい奴じゃん!!」
千秋の顔色が一気に青ざめた。
NTRキャラその3である粗暴晶NTRエンドはなかなかヒロイン達が痛ましい姿になっていたのを覚えている。
「……厄介な奴に目をつけられてしまったんだな。かわいそうに」
「おいおい、なに他人事みたいに言ってんの!? 俺を見捨てる気!?」
「…………………………」
「おい、黙るな!! そこは否定してくれよ!! 後生だ! 俺の擬似彼氏になっておくれよぉ〜! 同行するだけでいいから!」
「ああ、うん。行けたら行く」
「それ絶対に行かないやつ!!」
何でわかった?
ブーブーとスマホが振動する。
どうせ麗華だろうなぁ……どうせそろそろくる頃だろうと思っていたし。
「……え、雛乃?」
予想に反して着信相手は桜井雛乃だった。こいつが連絡してくるなんて珍しい。
俺はすぐさま通話ボタンを押した。
『あ! ご主人っ!! 私の知らない間に一体をやらかしたんですか!?』
「何がだよ?」
『粗暴くんがご主人のことめちゃくちゃ探してますよ!? 『俺のツバつけてた女に手を出しやがって! 石橋出てこい!! どこだゴラァ!』って!』
「………………」
「どうした?」
「……なんか知らんけど、巻き込まれちゃった」
不思議そうに首を傾げる矢波に乾いた笑みを浮かべながら言った。
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