第27話 4人目のヒロイン?
モブキャラ。
なぜか目が隠れていたり、名前が女子生徒Aであったり……ゲーム、アニメ、漫画の背景にいるその他大勢の群衆。
攻略対象にならない。そんなキャラクターたち。
でも結構可愛くて、目が隠れてなければ大人気になれるポテシャルを持っているキャラもいる。
俺はそんなモブキャラのことが割りと好きだ。
そして、俺のクラスにもモブキャラのような女子生徒が居る。
俺の前の席であり、クラス内で孤立している俺の推し女子生徒Aこと千秋雫さんだ。
千秋さんは地味な容姿をしていて前髪が長く、眼鏡をかけている引っ込み思案な性格で人と喋るのが苦手な小動物系女子。
そんな千秋さんの様子を見守るのが教室での楽しみの一つだ。
今日は遅いな。寝坊でもしてるのだろうか?
「みんな! おはよー!」
その明るい声と共に教室に入ってきた女子生徒は華奢な体と細い足肩より少し長い髪はサラサラしたショートヘアーでまるでお人形さんのようだ。
あの子、かわいいな。いや、相当かわいい。男子にモテる麗華や真由……雛乃にも劣らない可愛さだ。
あんな子クラスにいたっけ?
教室内がざわつき、クラス中の視線は出入り口にいるその女子生徒Aへ釘つけになっていた。
女子生徒Aは周りの視線を気にもせず座席表を確認し、俺の前の席に座る。
「おい。そこは千秋の席だぞ」
思わず、言ってしまった言葉に目の前の女子生徒Aはきょとんとし、くすりと笑った。
「もう、何を言ってるの? 私、千秋だよ。石橋くん」
「は?」
は? え? 千秋さん? えっ? い、一体なにが?
呆然とする俺とざわめく教室。
クラス内の視線が俺に訴えてくる。今すぐ詳細を聞けと。
「か、髪型……変えたのか?」
色々言いたいことがあった、しかし、なんやかんや出た言葉がこれだった。
「うん。ボサボサだったから美容院に行ってカットしたの。前髪も整えてみたんだ。似合わない……?」
「…………悪くないんじゃないか」
スカした回答だが、石橋のセリフとしては自然だろう。スカしているけど。
「ほんと? 嬉しいなっ」
うわ、陽キャオーラ溢れる笑顔が眩しい……!
「め、めがねは?」
「へへ、コンタクトにしてみました!」
「こ、コミュニケーションも随分とれるようになったんだな……人と話すの苦手だったろ?」
「げっ、まじか。こいつそんなキャラだったのかよ……」
「ん?」
「あ、ううん! ちょっと引っ込み思案な性格を直そうかなっと思って! それに石橋くんってなんだか話しやすいから……かな?」
え? 話しやすい? この顔面で? そんなこと初めて言われたぞ。
「石橋くん。改めまして、新・千秋雫をよろしくね!」
キラーン!! と天真爛漫な笑顔を向けてくる千秋。
「あ、ああ……」
あまりの眩しさに目を逸らしつつ、答えると朝のHRの始まりを告げるチャイムが鳴る。
陰キャ女子だった千秋さんがいきなりパリピ全開の陽キャになるなんて、脳がついていけてないぞ。
それにしても、いきなりどうして……?
『千秋さん完全に垢抜けたね』
『だね……高校デビューってやつ?』
困惑している中、女子同士の会話が耳に入ってきた。
『……なんでいきなりあんなイメチェンしたんだろ? やっぱ男かな?』
『いや、男っしょ。それしかないじゃん?』
お、男!?
『えーでも千秋って地味でオトコの臭いなんかなかったじゃん』
『ナンパとかで付いて行って染められたんでしょ?』
『あーね』
あーね……
つまり、俺の推しがナンパをきっかけで彼氏ができて、その彼氏の影響で高校デビューして垢抜けした……ってこと?
なんだか、脳を壊された気分だ。
その後の千秋さんの男子人気は凄まじかった。
たった数日でクラスだけではなく、学年でも話題になり今ではすっかり人気者に。
授業が終わるといつもクラスの皆んなに囲まれている。
それを上手い事対応する千秋さんは本当に同一人物なのかと疑いたくなるほどだった。
女子生徒相手でも怯えたタヌキのように固まってしまう千秋さんは一体どこに行ってしまったのだろうか……
俺は、生まれ変わった彼女を眺めてセンチな思いを抱いていた。
ある日の昼休み。いつものようにチャイムが鳴ると同時に教室を出る。
最近ちゃんと家事をしてくれるようになった雛乃の特製弁当を持ちながら生徒会室を目指していると、どこか慌てた様子の千秋さんの姿が。
周りをキョロキョロと気にしながらも階段を降りていく。
そんな姿を見て気になった俺は千秋さんの後を追うことにした。
追跡の結果、たどり着いたのは非常階段。
ここは……俺と麗華が一緒に昼ごはんを食べていた場所。今は生徒会室で食べるようになったのでめっきりこなくなった。
あそこは滅多に人が来ないので一人になりたい時にはうってつけの場所なのだが……
気づかれないように様子を伺っていると千秋さんはぐったりとした様子で座り込んだ。
……なるほど。
いくら劇的なビフォーアフターを遂げた千秋さんでも多数人とのコミニケーションという慣れないことをして、疲れてしまった。その結果一人になりたくて人気がないここへ来た。
そういうことなら俺はこの場を去るべきだろう。
そう思い、階段を降りようとした瞬間
「あ〜〜しんど。マジでだるい……男子共はめんどくさいし、女子共の妬みの視線がうざい最悪。まじで教室戻りたくないよー」
え。
このせいだろうか? 千秋さんらしからぬ言葉が聞いたことがないくらい低い声で聞こえたんだけど。
「あーほんとめんどくさい。学校滅びてくれないかな。マジで」
なんか物騒なこと言ってるぞ。
あれか? 千秋さんの裏の顔的なやつなんだろうか?
まぁ人には表と裏の顔があるというからな……うん。別に普通のことなんだろう……多分。
この世には知らなかった方がいいこともあるんだなと心に秘めながら立ち去ろうとしたその瞬間
「死んだと思ったのに……目を覚ましたら女になってたし、本当にどうなってるんだよぉ……」
彼女が発した言葉が俺の足を止めた。
死んだと思った? 目を覚ましたら?
可能性の1つとして考えていた。俺の他にも居るかもしれないと。
その可能性に思わず、階段を駆け上がって千秋の前に姿を現し、俺は一つだけ質問した。
「おい、お前も、俺と同じ転生者なのか?」
俺の質問を聞いた瞬間、千秋は驚いた表情をしながら俺に向かって指さす。
「お前もってことは……まさか、俺と同じ?」
こいつは千秋雫ではない。
俺と同じ転生者だ。
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