第19話 佐々木悠真③
屑島に暴力を振ったことにより石橋は停学になった。
これで雛乃ちゃんは石橋を完全に見限り、『桜井雛乃ルート』の障害はなくなった。
そう確信していたが、最近雛乃ちゃんから話しかけられることがなくなってしまった。
くそ、なんでだ? これじゃルートどころかイベントすら発生しないじゃないか!?
まさか、余計なことをしたから、ゲーム通りの流れから外れてしまったのか?
……いや、落ち着つけ。まだ慌てるような時間じゃない。
そもそも雛乃ちゃんは最後に攻略できる真ヒロイン的存在。一筋縄で行くはずがないんだ。
俺はなんとか頭を切り替え、攻略するヒロインをもう一人増やすことにした。
もし、雛乃ちゃんルートが失敗した保険のために。
その相手は……『小日向真由』だ。
小日向真由。
アマ✳︎キスの2人目のヒロインにして、月島麗華の元親友。
主人公と同じ一般の家庭であり、生徒会メンバーの一人。似たような境遇である主人公に対してシンパシーを抱いている。
ある日、生徒会室で雑務をしていると、突然真由からの友達申請を受けて……というのが『小日向真由ルート』のストーリだ。
小日向真由ルート専用のNTRキャラであるヤリ田に気を付けてさえいれば問題なくルートに入れるはず。
だから俺は真由とのコニュニケーションを取り、友達申請イベントに備えていた。
……が、予想に反してなかなか『友達申請イベント』は起こらない。
「……あれ、小日向さん一人?」
「あ、佐々木くん。さっきまで石橋くんと月島さんがいたんだけどね」
「そうなんだ」
石橋強……名前を聞くだけでイライラさせられる。
「……小日向さん、何かいいことでもあった?」
「え? どうして?」
「いや、いつもより楽しそうというか、表情が明るいというか……」
まぁ、主人公である俺とこうしてコミュニケーションをとっているんだ。確実に俺のおかげだろ?
だから早く友達申請しろ。
「石橋くんとのおしゃべりが楽しかったからかな? 初めてのおしゃべりしたんだけどね」
「え、あ、そうなんだ……」
は? なんでそこで石橋の名前が出てくるんだよ。
「それに、れい……月島さんともおしゃべりしたの。ちょっとした会話程度なんだけどね? でも、それを少しつづ続けていけたら、いつかは月島さんと……」
は? 待て待て待て……それはまずい。
彼女は今、親友だった月島麗華と絶交しており、居場所を求めている。
小日向真由ルートはそんな彼女の友達申請から始まるストーリ。
主人公が真由の唯一の居場所となり、主人公に依存した彼女が『尽くしてくれる恋人』になるのがこのルートの醍醐味。
なので、彼女からの友達申請がないと関係が進まない上に、月島麗華と仲直りされたら『友達申請 イベント』すら起こらなくなってしまう。
それだけは阻止しないと……!!
「へーなんだか、意外だね。月島さんと小日向さんって色々と真逆というか……あんまり仲が良いイメージが全然なかったよ」
「え、そ、そう……かな」
不安を煽るような言葉をかけた瞬間、表情が一気に曇り始めた。
今の真由は麗華と仲直りできる自信はないはず。だから、そこを突いて弱らせてやる。
「実は僕、月島さんと話すのは結構緊張するんだ。月島さんはなんというか……一度嫌われたらずっと嫌われそうで」
「ぁ……そう……だよね」
真由の瞳が揺らぐ。
何も反論がないってことは自分のそう思っている節があるということ。
「……小日向さん? どうしたの?」
「う、ううん……なんでもないよ」
「そっか、僕はもう帰るね」
「うん、佐々木くんお疲れさま」
「小日向さんもお疲れ様」
俺はうつむく真由を置いて生徒会室を出た。
よしよし、これで二人が仲直りする可能性を摘むことができたはずだ。
まぁ、ゲームでも二人が仲直りするイベントなんてなかったし、不可能なんだろうけど。
真由の心をもっと追い込んで俺に依存させやすくしないと。
とはいえ、それも時間の問題かな。
あとはヤリ田先生に横取りされないように警戒しつつ、真由とのコミュニケーションを継続すればいい。
ヤリ田先生に関してもすでに対策は済んでいる。
『石橋強は月島さんをたぶらかして生徒会に入り、やりたい放題しようと企んでいる』
そう、警告してヤリ田先生が石橋を警戒するように仕向けておいた。
お互いを警戒しているうちに俺は小日向真由を手に入れる。
俺は明るい自身の未来に笑いを堪えながら帰路についた。
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