第20話 溢れた本音と向き合う勇気を
昼休み。
俺はいつもの非常階段ではなく、生徒会室に居た。
雛乃の情報によれば、真由はいつも昼休みは生徒会室でお昼を済ましているらしい。
生徒会室に居る理由は真由と話をするため。話す内容はもちろん麗奈との仲違いについてだ。
「あれ? 石橋くん?」
驚いた様子で生徒会室に入ってきた真由。
どうやら雛乃の情報は本当だったらしい。お礼に前に食べたがっていたいちごタルトでも買って帰ろう。
「石橋くんもお昼?」
「……まぁな。教室には居場所がないんだ」
「そうなんだっ…………月島さんは一緒じゃないの?」
「いつも一緒ってわけでもねーよ」
「そっか。えっと……石橋くんがよければここに居ていい?」
「ああ」
「ありがとう」
どこか安心したかのような表情で真由は向かい側の椅子に座る。
同じ生徒会なんだしそんな許可を取るみたいな感じで言わなくても……やっぱりこの顔をせいで怖く見えるのだろうか?
「……いつもここで昼を食べてるのか?」
「……うん。私もクラスで居場所がなくって」
あれ? そんな設定だったか?
「一般の家庭で特進クラスなのって私だけだから……クラスのみんなからはあまり歓迎されてないの」
ああ、確か特進クラスって富裕層の生徒ばかりだったな。その中で一般家庭の真由がポツンと1人だけは浮いてしまうのだろう。
「意外だな……クラスでは人気者のイメージがあったんだが」
「男の子たちは話しかけてくれるんだけど……友達じゃないし、女の子からは避けれれてる感じがして」
なんか、男子からチヤホヤされてて女子からは嫌われてる様子が簡単に想像できた。
「………………」
なぜかこちらをジッと見つめる真由。
「なんだ?」
「ううん……なんでもないよ」
ニコっと笑って誤魔化す真由。
……ここはこちらから踏み込んでみるか。
「……何かあったんだろ。話くらいは聞いてやる」
そういうと一瞬目を丸くしてくすくすと笑う。
「なんだよ」
「いや、ちょっとぶっきらぼうなところ麗華ちゃんに似てるなと思って」
マジかよ。気をつけよう。
「……別に難しい悩みとかじゃないんだけどね? 私たち……似たもの同士なのかもなーって」
「まぁ……共通点はあるかもな」
「その……学校の腫れ物同士というか……」
「お前はどうか知らないが、俺が腫れ物扱いされてるのは否定できない」
そういうと真由は嬉しそうな顔をした。そしてモジモジと恥ずかしそうに上目遣いでこちらを見つめる。
「悩みというか、お願いというか……あのね……良かったら。似たもの同士。私たち友達にならない?」
ブー! ブー! ブー!
「い、石橋くん? スマホなってるよ? だ、大丈夫? 月島さんからだよね?」
「気にするな。メッセージだから無視で大丈夫だ」
ピッ。
麗華からの鬼メッセージから逃れるためスマホの電源を切る。
そして、真由を見る。
どこか、不安そうで、期待しているようなそんな表情。
きっと、彼女に必要なのは気の許せる相手だ。
きっと、俺が主人公なら……ここで承諾すると『小日向真由ルート』に入るのだろう。
でも、俺は主人公じゃない。
それに、このやり方はヤリ田と同じで依存先を自分にするだけ。根本的な問題の解決にはなっていない。
それじゃダメだ。
だから。
「俺はお前と友達にはならない」
「……どうして?」
「月島の代わりになるつもりはないからな」
真由は虚をつかれた様子でゆっくり瞬きをする。
「今、お前と友達になったら……俺は逃げ道になる。だから、俺と友達になりたいなら月島と仲直りしてから言え」
「……石橋くんは本当に真ん中を突いてくるね。でも月島さんと仲直りはきっとできないよ」
真由は寂しそうに寂しげに微笑んだ。まるで諦めているように。
「……あいつのこと。嫌いか?」
「それはありえないよ。クラスに馴染めてなかった私に唯一接してくれて……決して周りに流されることがない。芯というか自分を持ってるところ。かっこいいと思うし、尊敬もしてる」
まぁ、あいつは嫌いなものは嫌い! 好きなものは好き! って感じだからな。
「だけど、私には自分がないから。そんな私を月島さんはきっと……だから、怖いの」
はっと驚いたように口を塞ぐ真由。おそらくここまでいうつもりはなかったのだろう。
「……私たちは正反対だから、きっとうまくいくはずない……またすぐ喧嘩しちゃうに決まってるよ」
「別に、正反対とか関係ないだろ」
「……え?」
「それに喧嘩することの何が悪いんだよ。たくさん喧嘩してその度に仲直りすれば良いだけだろ。相手に自分のことをわかって欲しくて衝突するのは悪いことなのか?」
「それは……」
それに二人とも、心ではきちんと仲直りしたいとは思ってる。
でもそれはあくまで自分の希望や願望でもしかしたら、本当に自分は嫌われていて、仲直りできないかもしれない。
相手の気持ちを……答えが知るのが怖い。
それだけだ。
「あいつは、お前と仲直りしたいって言ってたよ」
「……え?」
「……いや、これ以上は俺が言うことじゃないか」
「石橋くん?」
真由の後ろにあった掃除道具のロッカーの扉を開く。
そこには目を潤ませている麗華の姿があった。
「れ、月島……さん」
「……小日向」
俺は昼休み、真由が来る前に麗奈を呼び出し、こいつを掃除道具のロッカーに無理矢理閉じ込めていたのだ。
まぁ、めちゃくちゃ嫌がって抵抗していたが「今すぐ入らなければ、お前とは一生口を聞かない」とマジトーンで言ったら大人しく自分から入ってくれた。
「……あとはお前たち次第だ」
そう二人に言い残して俺は生徒会室を出た。
正直、あの二人の喧嘩の原因とか興味もないしさほど重要ではない。
一番大切なのは今、仲直りしたいのか。相手のことをどう思っているのか。
それにこれは二人の問題なのだから、これ以上俺が介入するべきではない。俺が出来るのは無理矢理にでも話し合う機会を作るだけ。
……きっと、うまくいく。そんな気がする。
「ご主人〜うまくいきましたか?」
物思いにふけていると、協力者である雛乃がひょこっと姿を現した。
「ああ、おかげさまでな」
「本当ですよ! いきなり小日向さんのことを調べて欲しいだの、準備が整うまで足止めをしてほしいだの! 私が有能で頼りたくなる気持ちはわかりますケド、無茶振りにもほどがあります!」
「悪かったよ。そういえば、どうやって小日向を足止めしたんだ?」
「へ? ああ、小日向さんの前で、体調が悪くなった演技をして保健室まで同行してもらうように誘導したんです」
へぇ。大根役者のイメージしかないけど大丈夫だったのだろうか?
「いや〜ご主人に見せたかったですよ。私の名演技を!」
「……ふ」
「あれ、ご主人? 今、鼻で笑いませんでした?」
雛乃が不審そうにジト目を向けてきた。
「まぁまぁ、今日はご褒美にいちごタルトを買ってやるから」
「えー!? 良いんですか!? ご主人大好き! あ、お弁当持ってきたので一緒に食べましょ〜」
ちょろくて助かる……そんなことを思いながら俺は雛乃と歩き始めた。
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