第21話 お誘いと助言


「石橋!」



 放課後、一人で帰ろうとしていたところを聞き慣れた声が止めた。


 振り返るとそこには澄まし顔の麗華と笑顔でこちらに小さく手を振る真由が。

 

 そんな二人の姿を見てひと安心した。



「……どうやら仲直りできたみたいだな。ま、どうでもいいけど」


 

 そう、つっぱねながら言うと真由がクスクスと微笑む。



「……なんだよ」


「あ、ごめんね……その、麗華ちゃんの言った通りだと思って」


「ま、石橋が素直じゃないのは前からだから」



 麗華は俺を見ながらやれやれと肩をすくめる。 


 一体何をいったんだ月島麗華。



「……で、何しに来た?」


「う、えっと……それは……その……い、石橋を……ね、労ってあげようと思って!」


「違うでしょ? 麗華ちゃん。私たちを仲直りさせてくれた石橋くんにお礼言いに来たんでしょ?」


「ま、真由!! そんなはっきり言わなくていいの!! 石橋にはあれで十分伝わるんだから!!」



 伝わるわけないだろ。



「もう! 真由は昔からお節介というか……そういうところが嫌い!」


「私も、麗華ちゃんの肝心なところで素直になれないところ、嫌いだよ」



 あれ? 仲直りどころか仲悪くなってないか? 大丈夫か?


 一瞬そう思ったが、二人の表情を見ていると無用な心配かと思い直す。



「石橋……なにその顔」


「別に、なんでもねぇよ」


「石橋くん。私たちこれから仲直りの記念でファミレスに行くの」


「へぇ、いいんじゃないか? ま、楽しんできてくれ」



 すると真由は目を丸くして再び困ったようにくすくす笑う。



「もし良かったら、石橋くんも一緒に行かない?」



 え、俺も? 真由の予想外の言葉に面を食らう。


 いや、でも……二人の貴重な仲直り会に第三者の俺が割り込むわけにはいかないだろう。



「俺は遠慮しておく」


「何言ってるの? 石橋に拒否権はないから」


「………………」


「な、なんでそんな嫌そうな顔するの」


「いや、別に……俺が居たら邪魔になるだろ」


「そんなことないよ? 寧ろ、お礼も含めて来て欲しいし」



 それでもと食い下がる真由。


 対応の仕方が分からなくて無言になっていると察したのか真由はわかりやすく眉を曇らせた。 



「………………だめ。かな?」



 しょんぼりと表情を曇らせ、それでも聞いてくる真由。


 そんな真由を見て、なんとなく相手の厚意を無碍にしたみたいな居心地の悪さを感じる。

 

 別に見返りが欲しくてしたわけではないけど……ここは仕方がない。



「…………今回だけだぞ」



 邪険にしているわけではないことを伝える為、今回は厚意に甘えることにした。



「は? なんで真由の誘いは受けるの?」


「校門前で待っててくれ」



 ジトっとした目でこちらを見つめてくる麗華を無視して話を進める。



「なに石橋、どこか行くの?」


「お手洗いだよ……おい、なんでついてくる?」


「はい、麗華ちゃん。私たちは校門で待ってようね?」


「ちょっと待って真由。石橋が逃走しないかちゃんとトイレの出入り口で見張っておかないと!!」


「麗華ちゃん? 石橋くんのことが大好きでそばに居たい気持ちはわかるけど、流石にそれは迷惑だよ?」


「は? いや、逆だから……石橋が私のことが大好きなだけでー」



 麗華の話を聞きつつ、さにげなくアイコンタクトを送ってきた真由に礼をしなあがらトイレへと向かう。




「や、石橋くん」



 うっわ。


 ようをたしていると隣にスッとヤリ田が来た。


 急に出てくるから本当にびっくりした……



「まさか、きみがあの二人の仲を取り持つとは思わなかったよ。まだまだ君のことを誤解していたみたいだ」



 まだ動揺してるのに話を進めないでくれよ……



「これで完全に小日向を諦めるしかなくなったかな」


「どうだか、本当はまだ諦めてないんじゃないのか?」


「いや、こうなってしまっては流石にね…… 今の小日向は月島と君がいる。俺が立ち入る隙間すらないよ」



 完全にお手上げと言わんばかりに手をあげるヤリ田。まぁこいつは真由に執着していたわけではないし、今の言葉は信じてもいいだろう。



「…………」



 なぜかこちらをじーと見つめるヤリ田先生。


 何か俺に言いたいことでもあるんだろうか?



「君と初めて会った日の前日かな? ある生徒から報告があってね。月島さんをたぶらかして生徒会に入り、やりたい放題しようと企む問題児がいると」


「俺のことですか」



 俺の言葉にヤリ田は頷いた。


 ある生徒……もしかして、生徒会長や副会長あたりだろうか? 俺が会計補佐になったのは麗華のゴリ押し推薦だったみたいだし。



「そいうえば、先生って一応生徒指導の教員でしたっけ?」


「一応、生徒指導の一員だよ。ま、次の日に君と初めて出会って問題はなさそうだと思ったんだけど……」


「誤解が解けて何よりです」



 俺、ヤリ田に対して信頼を得られるようなことしてたか?


 そんな疑問を浮かべているとヤリ田は察したのか、語り始める。



「月島があんなに懐くなんてそうそうないからね。彼女は馬鹿じゃないし、人を見る目はある」



 つまり、先生の俺に対する誤解が解けたのは麗華のおかげということか?



 同じタイミングでチャックをしめ、同じタイミングで手を洗い、同じタイミングでトイレから出た。



「……あの、動きをシンクロさせないでくれませんか?」


「仕方ないだろ? たまたまタイミングが同じなんだから……そだ。石橋くん。一つだけ質問いいかな?」


「なんでしょうか?」


「どうやって、あの短期間で二人を仲直りさせたのかなって気になってね」


「……そういえば、さっきも二人の仲を取り持つとか言ってましたっけ。でも、それは違うと思います」


「ほう……」



 俺の言葉にどこか興味深そうに反応するヤリ田。



「俺はなんで二人が喧嘩したのかとか全然知りませんし、仲直りのアドバイスも一切してません。ただ、機会を作っただけです」



 そう、俺はあくまで機会を作っただけだ。


 だから



「あの二人が仲直りできたのは、あいつらがめちゃくちゃ頑張ったからですよ。ですので俺が仲直りさせたなんて、言わないでください」


「……なるほど、ね。それもそうかーごめんね二人ともー」



 ……え。


 振り返るとそこには少し泣きそうになっている麗華と真由がいた。


 ……めちゃくちゃ恥ずかしい。



「うーん。もしかしてと思ったけど、今ので決定的になっちゃたんじゃない?」


「はい?」



 ヤリ田は何を言いかけたんだろう?



「ま、私が言える事は……日頃から連絡はすぐ返さないこと。小日向と月島との予定が被った時は月島を優先すること」


「はぁ……」


「……浮気経験者としての助言だよ。小日向はああ見えて甘え上手だと思うから上手くやることだね」


「だからどういう」


「ほらほら、きみが泣かせたんだから早く二人の元に行ってあげなよ」



 そんなことを言いながらヤリ田は手をひらひらさせながら去っていった。

 

 まるでこの先俺が麗華と真由相手に浮気をするみたいな言い方だったな……


 ヤリ田が残していった言葉を気にしつつ俺は麗華と真由も元に向かった。



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