第18話 タイムリミット
「悪かったね。手伝ってもらって」
手伝いもひと段落つき、ベンチで休憩しているとヤリ田が缶ジュースを二つ持ってきた。
「ん」とヤリ田が片方のジュースを俺に差し出す。
「……賄賂か何かですか?」
「君は俺のことをなんだと思ってるんだ?」
「女教師をつぎつぎと肉体関係を持ってる浮気教師。とうとう女子生徒にまで手を出す予定の男」
「……おっと降参だ。さすが石橋家の跡継ぎくんだね」
そりゃこっちはお前のチンコを何回も見てきてるからな……
槍田誠志郎。
こいつはお気に入りの女に親身かつ紳士的に近づき、信頼させて少しずつ警戒心を解いて二人っきりになったところを無理矢理……みたいなやり方で何人もの女教師と肉体関係を持っているヤリチン野郎だ。(妻帯者)
そして今回、とうとう小日向真由……つまり女子生徒を狙い始めた。
しかもタチが悪いのは、NTRエンド次第では真由どころか彼女を利用して麗華にまで手を出すところだ。
「生徒を教える立場の教師が浮気なんかしていいんですか?」
「浮気は文化だよ。そういう君もこれまで散々女で遊んできたんじゃないのか?」
いえ、童貞ですけど……一度も彼女なんていたことないですけど。
「………………」
「ふ、多くは語らずか」
よし、なんとか誤魔化せたな。
「ま、君にバレている以上は仕方ない。小日向は飽きらめるよ。手は出さない。バレてクビになりたくないしね」
「……手は出さないけど、今の小日向に付け込んで自分に依存させていつでも手を出せるようにするつもりでしょ」
もしかして、バレないように手を出す可能性だってある。
「………………そんなことは思っていないけど。もし、彼女から何か相談があったら全力で支える。それだけだよ」
ヤリ田の言う通り、ゲームでも同じくらいの時期に小日向真由は月島麗華と不仲になっていることについてヤリ田に相談を持ち込む。
そこまでの信頼関係を二人は築きあげているのだ。
そこで真由は体を許し、麗華と仲違いした寂しさを抱いているせいで体の繋がりに簡単に依存してしまい……みたいな感じだったはず。
もしかして、ヤリ田NTRルート突入までもうあまり時間が残されていないのか?
「それにしても、まさか本当にちゃんと手伝ってくれるとは……どうやら君のこと誤解していたようだね」
誤解ってなんだ。
もしかしたら、クズ島が流した例の噂のことだろうか。
「石橋、やっと見つけた」
「おお、月島か。どうした? 何か用か?」
「あ、槍田先生。用があるのは石橋で……手伝いは終わったの?」
麗華の言葉を聞いた瞬間、何かを察したように「なるほどねー」とニヤけるヤリ田。
「石橋くん。可愛い彼女が迎えに来たみたいだな」
「か、彼女じゃありません!!」
顔を赤くして否定する麗華。
そこは否定するのか。まぁ、別に良いけど。
「そうなのか? 付き合ってるって噂を聞いたことがあるんだけどな……」
「そ、それは……その」
「それじゃ、ヤリ田先生。お疲れさまでした」
面倒なことになる前に鞄を持って立ち上がる。ヤリ田が要らぬことをいう前にさっさとこの場から離れよう。
「ああ、石橋くん。今日は助かった。それと、浮気はほどほどに……ね?」
「は? 浮気? ちょっと、石橋どういうこと?」
ヤリ田テメェこの野郎!!
俺たちの様子を楽しそうに笑いながら見ているヤリ田を恨みながらも麗華と二人らなんで帰り始めた。
「で、浮気ってなに?」
校門を出て即、先程のヤリ田の言葉に対しての言及が始まった。
「別に……お前には関係ないだろ。彼女じゃないんだし」
「は? これでも一応彼女なんですけど」
ひぇぇ……さっき彼女じゃないって言ってたじゃん……
「……な、なんで黙ってるの? 何か後ろめたいことでもあるの? ま、まさか本当に……」
まるで飼い主に怒られた後のチワワのように不安げな表情と震えた声を出す麗華。
「小日向のことを話してたんだよ」
「小日向の……? な、なんで」
「お前ら喧嘩中みたいだから気になってな」
(……まさか、私のことを心配して? 石橋……ありがとう)
「………………小日向と仲直りしたい気持ちはあるのか?」
「それは……」
(仲直りしたい気持ちはある……けど)
「無理だと思う」
「なんでだよ」
「だって……多分、向こうは私のこと。嫌いだと思うし」
「そんな風には見えなかったけどな。普通に話してただろ」
「小日向と話すようになったのは……ほんと最近で。それまで一切口を聞いてなかったから」
「ふーん」
麗華は真由と仲直りしたいと思っているのか。ただ、諦めているだけで。
ゲームでは二人は仲直りするイベントなんて存在しなかったのだが、仲直りできるのであれば、協力してやりたい。
NTRルート回避とか関係なく、純粋にそう思った。
そうなれば、ヤリ田と真由のフラグが立つ前に行動しなければいけない。
するか。仲直り大作戦。
「おい。明日なんだが……」
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