第17話 小日向真由




「それじゃあ、改めて……初めまして。私、生徒会書記の小日向真由っていいます」


「……石橋強だ。先日、生徒会会計監査になった」



 小日向真由。生徒会書記にして月島麗華の元親友。


 噂と停学のせいで俺への印象はかなり最悪のはずだ。絶対俺のことを警戒しているだろうな。



「私、石橋くんとは仲良くなりたいって思ってるんだ。分からないことがあったらなんでも聞いてね?」



 あ、あれ? なんか思ったより好感度が高いな。


 正直、めちゃくちゃ当たりがキツくても仕方ないなと覚悟してたんだけど。



「あ、ああ……」


「ちょっと、石橋……もう少し愛想よくしたら? 見ているこっちが恥ずかしくなるんだけど」



 予想外の真由の態度に困惑していると、なぜか隣でちゃちゃを入れてくる月島麗華。


 なんだこいつ。腹立つな。


「私、石橋くんに聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」


「何が聞きたいんだ?」



 おそらく、俺自身のことだろう。


 俺、石橋強のこと何も知らないんだけどなぁ……いきなりぶっ込んだ質問はやめてほしいんだけど。




「石橋くんて、月島さんのどういうところが好きになったの?」



 小日向真由、いきなり初手でぶっ込んできた。



「確かに気になるかも……ここではっきり言葉にしてもらおうかな? 石橋が私のこと好きな理由を」



 だからちゃちゃを入れてくるな。なんでお前がドヤ顔してるんだよ。



「…………」


「期待してるから、石橋」


 

 目を輝かせながら俺を見つめる真由。したり顔で早く言えと肘でつついて催促してくる麗華。


 はぁ、どうしよう。よく分からんがかなり期待されている(特に麗華から)



「……好きな所は」



 ………………どうしよう。何一つ思い浮かばない。


 いや、そりゃそうか、だって俺は別に麗華の彼氏じゃないし、そもそもこいつのこと好きじゃないだもの。



「石橋? なんでそんな悩ましげなの? もしかして一つも思い浮かばないなんてことないよね? 早く言ってくれないと怒るよ」

 


 やばい、麗華の不機嫌度が上がってきたぞ。


 く、まずいな。俺は今、境地に立たされている。この前、クズ島と取り巻きと対峙していた時より緊張している。



 脳をフル回転させろ。


 俺はちゃんと知っている。こいつの良いところを。


 思い出せ。麗華と過ごしてきた時間を。


 俺が導き出した答えはー




「……ご飯の食べ方」


「………………は?」


「………………」



 あ、まずい。やらかした。空気がピキってなった。


 どうしよう……隣にいる麗華が今まで見たことないほど、めっちゃくちゃ怒ってる気がする。


 無言で圧のある笑顔を向けてくる真由もなんか怖いし……



「……ご飯の食べ方、字の書き方、歩き方、座り方……一つ一つの所作が綺麗な所」


「き、きれっ……ふ、ふぅ〜ん……? 石橋? ほ、他には?」



 よし! なんとか持ち直した!!



「真面目で、真っ直ぐで、溢れる自信と、ひたむきさ……」


「ふ、ふぅ〜ん?」


「ぼっちで、友達も少なくて、理不尽で、見栄っ張りで、情けなくて」


「……は? ちょっと……」


「けれど、大切なものの為なら何があっても屈さない強さがあって、クールでかっこいい」


「か、かっこいいっ……!?」


「良いところも悪いところも全部含めて。俺はこいつが……す……………すっ……」


「ちょっと! ちゃんと好きって最後まで言い切って!! 途中で止めないで!」


「わるい。頑張ろうと思ったんだけど、やっぱ無理だった」


「そこは諦めないで!?」


「ふふっ……」



 俺と麗華のやりとりを嬉しそうに見て笑う真由。



「まぁまぁ、月島さん。もうそのあたりで許してあげて? 石橋くんが月島さんが大好きなのは十分伝わったでしょ?」


「それは……まぁ」



(ていうか、石橋……私のこと好きすぎ!! 本当は恋人じゃないのにあんなすらすらと私の好きなところを言えちゃうなんて……もしかして本気で私のこと好きなんじゃ……? 全く、ほんと、困っちゃうな。えへへ……)



 我慢しろ。こいつの妄言を全否定してやりたいが、今までの苦労が無駄になる。我慢だ我慢。



「……私、ちょっとお手洗いに行ってくる」



(顔がにやけちゃうからトイレで落ち着かないと……! クールで孤高でかっこいい私のイメージが!!)



 大丈夫だ。そんなイメージはもう全く持ってないから。



 そんなことを思いつつ、席を外す麗華を見送る。



「……本当に二人は仲がいいんだね」



 心から安堵したように真由は微笑み俺のことをじっと見つめる。


 実に、実に心外なんだが……いや本当に。



「それに月島さんがどうして石橋くんの告白を受け入れたのか、なんとなく分かった気がする」


「……どういう意味だ?」


「だって、石橋くん。月島さんの好きなところを話している時、外見のことは一切言ってなくて、所作とか、性格とか……内面ことばっかり言ってたでしょ? そういうところ、素敵だなって」



 そうだったけ? 必死すぎて自分で何言ったか覚えてない……



「それにびっくりしちゃった……あんなに月島さんが心開いてるなんて」



 嘘だろ? 心を開いてるのか? あれで?



「……あんたも月島と仲が良いんじゃないのか?」


「……昔はよかったんだけどね」


「今は違うのか?」


「今は喧嘩中で……」



 そう言いながら少し困ったように笑った。



「……理由は?」


「うーん……方向性の違い?」



 バンドの解散理由か?



「小日向……いるか?」



 ガラガラとダンディなおっさんが扉を開けて入ってきた。


 こ、こいつは…… ダンディクズ教師のヤリ田!! (妻子持ち)


 槍田智和……小日向真由の担任であり、生徒会の顧問。そしてNTRキャラその2!!


 

「先生? どうしたんですか?」


「プリントとか書類を運ぶのを手伝ってもらいたいと思ってね」


「え、でも……」



 休憩中とはいえ真由は今生徒会の実務をしている最中。 



「頼む、この通りだ……こんな頼みができるのは小日向だけなんだ」



 うっと困ったように悩み始める真由。

 確か真由はヤリ田のことを先生として尊敬していたはず……そう、この男。先生としては優秀なのだ。


 ……他の女教師(複数人)と絶賛浮気中だけど。



「……わかりまし」


「それじゃ、俺が手伝いますよ」


「え? 石橋くん。でも」


「力仕事なら男の方が都合がいいだろ」


「……書類の内容が重要なものなんだ。希望としては生徒会の役員にしてもらいたいのだがね。君のような部外者はー」


「そうですか、丁度よかった。本日付けで生徒会に加えさせていただくことになりました。会計監査の石橋強です。よろしく」


「……なるほど。それじゃあ、お願いしようかな」



 互いに薄っぺらい笑顔を交わしながら話をまとめる。



「ということで、行ってくるわ。月島には適当に言っておいてくれ」


「う、うん。がんばってね?」



 俺とヤリ田の間に生まれるただならぬ空気感に困惑しながら真由は手を振った。


 

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