第16話 最後のヒロイン
停学期間を終えて、再登校の1日目。
停学前と変わらず、俺と麗華は非常階段でお昼ご飯を食べていた。
「…………つーくん。何かあったの?」
「別に何もねーよ」
「もしかして怒ってる?」
「怒ってねぇよ」
「怒ってるでしょ」
「だから、怒ってないって」
「嘘、つーくんの極悪面がいつも以上に怖くなってるよ?」
「お前……いや、別に怒ってねぇよ」
「……ほんと?」
こいつ、しつこいな……
「ああ、強いていうなら。最近流れてる俺の噂について頭を抱えてるだけだ」
「は? つーくん。また変な噂流されてるの? 許せない。どんな噂? 私が突き止めて消してあげる」
「俺とお前が付き合ってるって噂なんだが」
「…………………………」
麗華の動いていた箸がピタッと止まった。
「お前が俺に何回も熱いアポローチを受けていて、告白を受けているうちに可哀想だからしょうがなくお試し的な感じで付き合った……とか」
「…………………………い、一体どこの誰がそんな噂を……ゆ、ゆゆゆるせないね」
「月島本人が得意げに話していたと聞いたんだが?」
「…………………………」
おい、黙ってないで目を逸らすな、こっち見ろ。
「……違うから」
「違うから……とは?」
「この前、クラスの子に聞かれたの……『最近、あの石橋くんと一緒にいるよね、好きなの? て』」
まぁ、昼休み非常階段に行かなかっただけで全クラスまわって俺を呼びに来たり、クズ島の噂が広まった状態であんな感じに絡んで来たらそう思う生徒もいるだろう。
「……で、どう答えたんだ?」
「………………違うから、石橋が私のことを好きすぎるだけだからと言いました」
「……お前」
「待って、落ち着いて? これは……石橋のことを思ってのことなの」
「……とりあえず、最後まで聞こうじゃないか」
「石橋、変な噂流されてたでしょ? 噂を上書きできるような話題を作れたら、どうにかなるんじゃないかなって……それで、つい『実は石橋と私、付き合ってるんだよね』って嘘をついたの」
「お試し云々の話は?」
「調子に乗って……つい、言ってしまいました」
「…………………………」
「石橋、今。怒ってるでしょ」
「ああ、よくわかったな」
「……………………」
「……………………」
(何か言ってよぉ……! 沈黙が怖いんだよぉ!!)
「まぁ……確かにクズ島が流した噂は完全に消えたが」
「で、でしょ? そうでしょ? 完全に私の計画ー」
「お前の恋人というだけで男子からは目の仇にされ、女子からはどんな手を使ったのかとゴミを見るような目で見られ、前より肩身が狭くなってしまったけどな」
「そ、そんなことより!」
そんなこと? そんなことって言った?
「今日は生徒会の会合があるから勝手に帰れないこと。私が迎えに行って一緒に生徒会室に行くから」
「ああ……」
……ああ?
「今なんて?」
「生徒会の会合があるから私が迎えに行くから教室から出ないでって。あと自己紹介とか考えておいて」
「……なんで?」
「は? いや、会計監査として初めての会合なんだから、当然でしょ」
……こいつは一体何を言ってるのだろう?
「この私が推薦したんだから、自己紹介くらいビシッと決めてくれないと困る」
「………………」
「つーくん。顔色悪いけど大丈夫?」
「……俺、生徒会に入るの。断ったよな」
「はぁ、自分の立場をわかってる? これは変な噂が流れてるつーくんの為なの。そもそもつーくんは文句言う立場じゃないから」
「噂はもうお前との恋人発言で消えてるだろうが」
「……あっ」
嘘だろ? すっかり忘れてたって顔されたんだけど……
「……………… 今日は生徒会の会合があるから勝手に帰れないこと。私が迎えに行って一緒に生徒会室に行くから」
「おい、さっきまでの会話をなかったことにするな」
「あ、呼び鈴が鳴ってる帰らなきゃ。じゃあね、石橋また放課後」
「おい、逃げるな」
麗華は俺の声を聞こえない振りをしながら逃げるように教室へと帰って行った。
「………………」
取り残された非常階段で一人考え込む。
…………よし、バックれよう。
放課後。
SHRが終わった瞬間、生徒会をサボるため俺は即座に鞄を持ち、靴箱へとダッシュする。
麗華が迎えに来る前にズラからなければー!!
勢いよく教室の扉を開けた瞬間
「石橋、行くよ」
月島麗華がそこにいた。
うっわ、なんでもういるんだよ。
「……石橋。生徒会の会合、バックレようとしてるでしょ」
しかも、俺の考えがバレてる……!!
「石橋……過ぎたことなんだからしょうがないでしょ? ちゃんと現実を受け入れて。今の貴方は生徒会会計監査。これはもう変えようがない現実なんだから」
やれやれといった様子でため息をつく麗華。
こいつ……どの口が言ってるのだろうか?
「過去をどれだけ悔やんでも前には進めない。石橋も前を向いてーふごごごっ!?」
あ、しまった。あまりにも腹が立ち過ぎてつい鼻をつまんでしまった。
「い、石橋っなんでこんなひどいことするのっ?」
「いいからとっとと行くぞ。会合に間に合わなくなるだろうが」
「え、あ、ご、ごめん……あれ? なんで私が謝ってるだろう?」
なんでだろうね。
イチャイチャしてるっ! という周りの言葉を無視して、生徒会室に向かう。
ああ、帰りたい……
そんなことを思いつつ生徒会の扉を開けると
「あれ?」
生徒会室で何かの実務をしていた少女が不思議そうにこちらを見つめた。
艶やな茶色い髪は伸びる髪は胸元にかかり緩く波打っており、少し垂れ目気味な優しげな瞳。そして余裕を感じさせる穏やかな微笑み。
清楚で可憐な雰囲気を漂わせる美少女。
「…………小日向」
隣にいる麗華が苦々しそうな表情で言った。
彼女は小日向真由。
生徒会書記にして、このゲーム最後のヒロイン。
主人公の悠真と同じ生徒会で、少数派である一般家庭の出。
同じような境遇の悠真にシンパシーを抱いており、あるイベントをきっかけに悠真との距離を縮めていく。
そして、月島麗華の……元親友。
「月島さん? どうしたの?」
「どうしたのって……今日は生徒会の会合でしょ? 会長達はまだ来てないの?」
「えっと、今日は会合はないはずだけど」
……は?
「え、な、なんで……」
「今日は会長と副会長は生徒総会で不在だから……この前連絡があったと思うけど……」
「あ、あれ……そうだったけ」
「おい、話が違うんだが」
「え、あ、これは……その」
目をぐるぐるさせながら狼狽える麗華。
「……う、えっと。れ、練習。練習として先に小日向に自己紹介したら?」
「………………」
……ん?
視線を感じて真由を見ると彼女は俺のことをじーと見つめていた。
「確かあなたは……月島さんの彼氏の石橋くん。だよね? 丁度よかった。一度会ってお話ししたいと思ってたの。今お茶を用意するねっ」
「ほ、ほら。小日向もこう言ってるし」
「え、おい、ちょっと押すなよ」
麗華に無理矢理背中を押され、なくなく生徒会室に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます