第15話 添い寝オプション


 ウキウキでキャリーの中身を家具に詰めていく雛乃と略奪されてしまった元自分の部屋を眺める。



 どうなってるんだよ。なんでヒロインである雛乃がいきなり押しかけて来てるんだよ……知らないよこんな展開。もう意味わからないよ。


 しかし、雛乃と同居することになった以上、覚悟を決めるしかない。女の子と同棲? 大丈夫、ラブコメやエロゲーではよく見る展開だ。


 ……いや、やっぱ大丈夫じゃないだろこれ。


「はぁ……」


「どうしたんですか? 頭を抱えて」 



 お前のことで頭抱えてんだよアホピンク。


 ……とりあえず、極力雛乃との接触は避けよう。どうせ、お互い自室に籠るだろうしあまり絡むこともないだろう。

 

 それに、毎日手作り料理が食えると思ったら悪くはない。


 雛乃の料理の腕はプロも認めるほどのものだという。

 ゲームで雛乃の手作り弁当を食べた悠真は今まで食べたどの料理よりも美味しいと大絶賛していた。


 そんな雛乃の料理を毎日食べれるのは役得なのではないだろうか?



「つーか普通、従者であるお前が空き部屋を使うべきなんじゃないのか?」


「え? いやですよ。あっちの空き部屋ここの半分くらいしか広さがないじゃないですか」



 よし、こいつ追い出そう。


 そんなことを思っていると俺の不満を感じ取ったのか雛乃がしょうがないと言わんばかりに話始めた。



「分かりました。私も大人ですから……譲歩します。この部屋は二人で使いましょう。右側が私の領地で左側がご主人の領地。で真ん中に私のベットを置く。運んできたベットは広いのでご主人と私で一緒に寝てー」 


「あ、あっちの狭い部屋でいいです」


「即答!? 同い年の美少女と同じ部屋で同衾生活ですよ!? もう少し葛藤とかないんですか?」



 ないです。(即答)



「そんなことより、9時過ぎで腹が減ったから何か作ってくれ」


「……今日は引っ越し作業で疲れたのでカップラーメンです」


「お前マジで追い出すぞ」



 数時間後


 二人でカップラーメンを食べた後、雛乃は風呂に入りにいった。


 その間、数少ない一人の時間だが……正直、意識してしまう。


 雛乃は容姿もスタイルも抜群に優れており、男子生徒からの人気は非常に高い。告白された回数なら麗華以上らしい。


 そんな美少女が今すぐそこで風呂に入っている。この状況、意識しない方がおかしい。


 悶々とする気持ちをどうにか沈めたいのだが……くそ、コンビニでも行って時間を潰すか……?



「ご主人ーお風呂お先でした〜」



 き、来たか!! 


 ガタッと勢いよく腰を上げる。


 俺に現れた雛乃の姿は……



「ふい〜あっちぃですねぇ〜」



 ジャージ。

 ターバンみたいなタオルの巻き方。

 風呂上がりのパック。


 

 欲張り3点セットの姿を見た瞬間、思った。


 俺はこの先、こいつにだけは興奮することなないだろう。



「かっー!! やっぱりお風呂上がりはフルーツ牛乳一択です!!」



 ごきゅごきゅとフルーツ牛乳を飲んでいる雛乃を見てどこか安心する自分がいる。


 

「どうしたんですか? 私のことをジロジロと見て……あ、ご主人もフルーツ牛乳飲みたいんですか? 大丈夫ですよ。2つ買ってきてますから」


「いや……寝巻きジャージなんだな」


「ああ、私。このジャージじゃないと寝れないんですよね〜これ中学の時のなんですけど」


「そうか……いいと思う。だからいつまでも変わらず、今のままでいてくれ」



 俺は優しく微笑みながらポンと雛乃の両肩に手を置いた。



「あの、なんとなくですけど。もしかして私めちゃくちゃディスられてます?」


「あはは、雛乃は冗談が上手いなぁ」



 今夜は安眠できそうだなと雛乃にジト目で睨まれながら風呂に向かった。


 風呂を上がり、自室に直行。


 さて、どうせなら残りの課題も処理をしておくかとシャーペンを握った瞬間



「ご主人〜!」



 バン!! と雛乃が扉を蹴り上げて侵入してきた。



「可愛い従者が来てあげましたよ! もてなしてください!」


「帰れ」


「おお、えぐい量の課題ですね〜ご主人ファイト〜」



 「帰れ」という言葉を完全に無視しながら雛乃はあははと笑いながら俺の布団に寝転んでスマホをいじりだした。 



「いや、だから自室に帰れよ」


「え? 帰りませんけど? 今日はここで寝るので」


「は?」



 一体なにを言ってるんだ? 



「あ、一体何考えてるんだって思ってるでしょ。鈍ちんなご主人に説明するとですね。ズバリ、添い寝オプションですよ」


「……はぁ」


「今日は晩御飯は作れませんでしたし。さっき、添い寝もしてあげますって言っちゃいましたしね〜なので今夜は特別に雛乃ちゃんの添い寝オプション付きです」



 いや、ジャージ女に添い寝してもらっても何も嬉しくないんだけど……それに布団のスペースも狭くなるし。


 どうやって断ろう。バッサリ切り捨てたら絶対つっかかってくるだろうし。



「つーか、お前……なんとも思わないのか?」


「何がですか?」


「いや、俺と同じ布団で寝るとか。嫌とか俺に襲われるとか……そういう不安とかないのか?」


「まぁ、ご主人も思春期の男子ですし……可愛くてスタイルも抜群の私に対して劣情を抱いてしまうのはやむを得ませんので、そのあたりは覚悟してますよ」



 寝転びながらも俺の顔をじっと見つめる雛乃。



 覚悟している。


 年頃の男女が同じ屋根の下……そういうえっちなことが起こってもおかしくはない。雛乃だってそこは理解しているはずだ。


 それを踏まえて覚悟している。


 それはつまり……



「ほら、強くん。おいで?」



 そう言いながら優しい微笑みで誘ってくる雛乃。


 ちくしょう。ジャージ姿なのになんか妙に色気があるがムカつく。



「あ、もし私に手を出したら一生養って……じゃなく、玉の輿……じゃなくて、ちゃんと石橋家の全財産寄越して……じゃなくて、責任。とってくださいね?」



 えと、それってつまり、手を出してしまったらこいつを一生養わなければいかない上に、玉の輿にされて、全財産奪われるって……コト?


 一夜の過ちに対する代償デカすぎない?



「あ、添い寝オプションキャンセルで」



 割に合わなさすぎるので丁重にお断りすることにした。



「はー!? いやいや! キャンセル不可ですから! いいからさっさと一緒に寝ますよ!! 夜更かしは肌に悪いんですから!! ほら! さっさと来てください!!」


「いや、俺は……っておいやめろ。ズボンを引っ張るな!」



 結局、俺は雛乃に無理矢理布団に連れ込まれて、めちゃくちゃ添い寝した。



 

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