第14話 従者との同棲(押しかけ)




 俺は1週間の停学処分となった。


 元々、俺が下された罰は退学だったのだが従者である桜井雛乃が石橋の祖父である源一郎にクズ島が麗華にしようとしていたこと。そして、これまで行っていた『イケナイ遊び』を証拠と共に密告。

 

 その密告を聞いた瞬間、源一郎がテンション爆上げノリノリモードで理事長の元へカチコミ。


 結果、NTRキャラであるクズ島とクズ島父(理事長)はこの学園から追放された。


 なんというか、一仕事終えたって感じがする。


 俺、何もしてないけど。  


 そして停学中である俺は学校から出された大量の課題と向き合っている。


 事情がなんであれ暴力沙汰を起こしてしまったのでこの結果に文句はない。


 今日も黙々と無事に課題を終わらせる。


 ふと外を見ると夕暮れになっていた。


 スマホを取り、通販サイトを開く。


 引っ越ししたてのせいなのか、このマンションには最低限な家具しかない。

 石橋の部屋も布団1つだけとなんとも殺風景な部屋。なので停学中課題をこなしながら家具やら色々と調べていたのだ。


 よし、ある程度欲しいものリストにチェックできたし。まとめて注文してしまおうか。


 今の俺には源一郎からもらった『お金使いたい放題のブラックカード』があるからな。


 少しウキウキしつつ注文ボタンを押そうとした瞬間。


 ピンポーンとチャイムが鳴った。


 ……こんなタイミングで。一体誰だ?



「こんばんわーゾウさん引っ越しサービスです。桜井雛乃さまからもっとも広い個室へと家具などを運んでほしいとのことなのですが」



 もっとも広い部屋? リビングを除いたら自室だろうか?



「えっと、こちらになります」



 自分の部屋に案内すると作業着を着たお兄さんたちがせっせこと梱包された家具を部屋に運び出す。


 この人たち、雛乃から依頼されたと言っていたが……


 あ、もしかして屋敷で石橋が使っていた家具とかをここに運ぶように手配してくれたのか!


 最近の雛乃の有能っぷりを考えると辻褄が合う……思い返せば色々と助けてもらってばかりだったからな……今度何かお礼でもしよう。


 雛乃って確かスイーツとか好きだったし、ケーキバイキングとか連れて行ったら喜んでくれるだろうか?



「ただいまー」



 そんなことを考えているとさっそく本人である桜井雛乃が大きなキャリーケースを持ちながら玄関から入ってきた。



 ……ただいま? 



「あ、ご主人。お久しぶりです〜お、私の家具運びは順調のようですね!」



 は? 私の家具? 何言ってんだこいつ?



「あーすいませーん。これはここに設置してくださいーえ? あぁ、この布団は邪魔なんで部屋の外に出しちゃってください」



 無造作に放り投げられる俺の布団。

 

 タンス、椅子、机などなど様々な家具が姿を現し、雛乃指示のもと瞬く間に設置されていく。



「……なぁ、これは一体どうゆうことだ?」


「え? 見ての通り、私がお屋敷で使っている家具をここに運んでいるんですよ?」


「なんで?」


「なんでって……私も今日からここに住むからに決まってるじゃないですか」


「なんで?」


「あれ? 話が進んでいない? もしかしたらループしてます? つまり、他人の心配ばかりして自分のことなんて二の次のご主人を見て心配になったんです。この調子では学校でも家でもずーっと一人ぼっち……そこで! ここは付きっきりで私がそばにいてあげないと駄目だなって思ったんですよ」



 はー待て待て待て、こいつは一体何を言っているんだ? 


 まるで意味がわからんぞ。



「それにご主人と同棲すると『お金使いたい放題のブラックカード』使えますし!」



 おい、絶対こっち(ブラックカード)が本命の理由だろ。



「もちろん。ここは従者として身の回りのお世話をさせていただく所存です。しかし、私が全部家事をしてしまっては将来ご主人は家事が全くできないダメ男になってしまいます……ですので! 私は料理を担当するので、ご主人は残りの掃除、洗濯をしてください!」



 俺の負担の方が多くないか? 従者とは?



 「いや〜こんな可愛い女の子と二人っきりと同棲なんて、ご主人は幸せものですね〜」



 雛乃はにやにやしながら肩をぶつけてきた。



「いや、そもそもここの主である俺の許可は?」


「え? 聞くまでもなくオッケーですよね?」


「そんなわけないだろ」


「えっ!?」



 全くの予想外と言わんばかりに驚く雛乃。



「なんでですか?」


「え? 普通に迷惑だから」


「なんでですか?」



 あれ? 話が進んでいない? もしかしたらループしてる? 



「いや、考えてみろ。いきなり押しかけて今日から一緒に住みますなんて迷惑以外のなにものでもないだろう」



 俺の正論が響いてないのか、あからさまに不満げな顔を見せる。



「……毎日、朝・昼・晩美味しいご飯食べられますよ?」


「売店とコンビニとスーパーで間に合ってます」


「毎朝、私のモーニングコールが聞けますよ?」


「スマホのアラームで間に合ってます」


「今なら添い寝というオプション付きですよ!?」


「抱き枕で間に合ってます」


「もう! なんなんですか!?」



 それは俺が言いたいよ。


 雛乃ははぁーと息を吐き、がくっと肩を下げた。



「…………そうですか、わかりました。ご主人がそういうのなら帰ります……そっか。私、ご主人にとって迷惑な存在だったんですね」



 しゅんとしながらキャリーケースを手に取りちらっとこちらを見る雛乃。



「あぁ、二度と帰って来るじゃないぞ」


「ちょっと!! なんでそんなこと言うんですか!? そんなことないよって言ってくださいよ!! ここは普通引き止めるところでしょ!?」



 もう、なんなのこいつ……



「そんなめんどくさそうな顔されても私は帰りませんからね! もう屋敷にみんなに『しばらく帰ってこない』ってカッコつけちゃったんですから!!」



 知らんがな……


 その後、3時間の熱い討論が行われ、あまりにもしつこい雛乃に俺の心が折れ、一緒に住むことになった。



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