第13話 佐々木悠真②
クズ島に石橋強の悪辣な噂を学校中に広げるよう助言した翌朝。
学校に行くと石橋の噂は広まっており、学校中の石橋に対する印象は壊滅的なものになっていた。
そしてその数日後、石橋はクズ島に暴行を働き停学処分になった。
おそらく、クズ島に流された噂に石橋がキレて暴力を振るったのだろう。
バカなやつだ。噂を流した本当の張本人は俺なのに。
計画通り……いや、計画していた以上に良い結果になった。
ざまみろ。噛ませ犬のくせに主人公である俺の踏み台にするからこうなるんだ。
「また明日ー佐々木くん」
心の中で微笑んでいると俺の推しキャラである桜井雛乃ちゃんに声をかけられる。
桜井雛乃ちゃんは主人公である佐々木悠真のクラスメイト兼お助けキャラクターだ。
ゲームでは各ヒロインの好感度やおすすめの行動など、色々なことを主人公に教えてくれる。
ただし、NTRフラグ管理についてはポンコツで彼女のアドバイス通り行動してしまうとNTRバッドエンドになってしまうことが多い。
彼女のルートは『月島麗華ルート』と『小日向真由ルート』を攻略することでルート解禁となる。
まさに真のヒロインだ。
そして、石橋強の従者でもある。
そのせいか、クズ島が石橋の噂を流れても雛乃ちゃんだけは石橋を庇っていたのだ。
雛乃ちゃんの主であるという設定だけでも気に入らないのに、主ってだけで雛乃ちゃんからあんなに庇われて……本当に石橋は俺の心を逆撫でさせるやつだ。
「そういえば、石橋くん。クズ島先輩に暴力を振って停学になったんだね」
「えと、佐々木くん。これには事情が……」
「無理に庇わなくていいよ。クラスのみんな……ううん。クラスだけじゃない。学校中の生徒と先生でさえ、石橋くんは問題児だって思ってる」
「それは……」
「石橋くんの噂が流れた時言ってたよね? 僕にだけは石橋くんの味方になってあげてほしいって。でも無理だよ。石橋くんは自身の噂を流す先輩に腹を立てて暴力を振るった。これは紛れもない事実だから」
「それは誤解で! ご主人は月島さんのー」
「石橋くんは桜井さんを騙そうとしてるんだよ。自分を犠牲にしているように見せかけて、被害者振って桜井さんの同情を引こうとしているんだ……騙されちゃダメだよ」
これで雛乃ちゃんも石橋を完全に見限るだろう。そして石橋強は石橋家を追放され俺と雛乃ちゃんは結ばれる。
「心配なんだ……雛乃ちゃんのことが」
「そうだよね……ご主人はそういう人なんだ……」
よかった。わかってくれたみたいだ。
「こうなることはわかってたくせに、いつも自分のことなんて二の次で……だからみんなから嫌われて……私が、傍で支えないと」
「……あ、あのさ! よかったらこの後、前に話してたクレープ食べに行かない? ちょっと気になってて……男一人でクレープはハードルが高いというか……」
「ごめんなさい! 私、今から大事な用事があるから!」
「え、あ、そ、そうなんだ。わ、わかった……え、えとそれじゃあー」
「とりあえず、服とかはキャリーに突っ込んで……あ、家具とかは業者に運んでもらわなきゃ……!! えっと、石橋家が懇意にしているところなら……あ、あと住所も急いで調べないと……!」
「あ、あれ? 桜井さん? あの、聞いてる?」
「私帰るね!!」
「え、あ、へ?」
なんかぶつぶつと言いながらこちらを一切見ることなく雛乃ちゃんは教室を走って出て行った。
…………
……………………
…………………………
……と、当初の目的は果たしたんだ。それでよしとしよう。
………………家具とか業者に運んでもらうとか言ってたけど、どこかに引っ越すのかな?
ま、まぁ……これで『桜井雛乃ルート』の障害はなくなった。
はずだった……
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