第12話 主人公より『特別な存在』



 帰り道、麗華と二人並んで歩きながら今日起こった出来事を思い出す。


 麗華をNTRイベントから守るため、クズ島達をボコボコにしたり退学になりそうになったり雛乃に助けてもらったり……ほんと色々とあったな。



 ……これって普通は主人公である佐々木悠真がやることじゃないのか?



 ふと、隣を歩く麗華の横顔を眺める。



 月島麗華。


 このゲーム『アマ✳︎キス』のヒロインであり、学園内の人気者。


 本来であれば、今、隣で歩くべきなのは俺ではなく、主人公である佐々木悠真だ。


 ずっと疑問に思っていることがある。


 この世界の佐々木悠真はどのヒロインと結ばれるのだろうか?



『月島麗華ルート』なのか、別のヒロインルートなのか。


 ちなみに『月島麗華ルート』だとゲームの中の石橋は1学期最終日にする。つまり、ゲーム内で一番早く死んでしまうルートだ。


 こんなに麗華を放置しまくっているのだから、もしかして他のヒロインのルートか?


 それとも、ただ単にNTRエンド直行の残念主人公なのか。


 でも、この前は二人とも良い感じに話してたんだよな。それに麗華をクズ島から庇う気概も見せていたし……うーんわからん。



「……なに?」


「え?」



 声をかけられて、麗華のことをずっと見つめていたことに気付く。



「あ、いや…………月島は好きな男とか居ないのか?」


「どうしたの? 急に」



 俺の質問に怪訝そうな顔をする麗華。



「いや、なんか……気になって」


「えっ……そ、それってもしかして」


「よく告白とかされてるだろ? 中にはこの人ちょっと良いかも。とかないのか?」


「あ……そういう……」



 え、なんで急にテンションが下がるんだよ。



「別に、誰かと付き合いたいとか、そういうのはないよ」


「気になる男子とかも?」


「………………居ないよ」



 おい、なんだ今の間は。



「そ、それよりも。結局、いっしーの処分はどうなるんだろうね」


「一週間くらいの停学なんじゃないか?」


「……え、石橋。1週間学校来ないの? つ、つまり、しばらく学校に来ないってこと!?」


「なんで2回言ったのは分からないだが、つもりそういうことだ」


「ちょっと待ってよ。それじゃあ私は一体誰と一緒にお昼ご飯を食べたらいいの!?」


「別の人と食べれば良いんじゃないか?」


「……っ!? ふざけないでよっ!」



 えぇ……なんか過去一番キレられたんですけど。



「さ、佐々木とか誘ったらいいだろ? あいつお前と同じ生徒会だし、ぼっちだし」


「はぁ……」



 やれやれと呆れながらこちらをみる麗華。



「いい? 私にもイメージってものがあるんだよ」



 お、おう……そうか……



「ちなみに……どんなイメージなんだ」


「この前たまたま聞いたのは……孤高でカッコイイって」  


「お、おう……」


「ま、私ってクールというか、あまり群れたがらないからー」



 月島麗華。胸を張りながらドヤ顔で語り始める。


 孤高……ではなく、ただのぼっちなのでは? そうツッコミそうになったがやめておいた。


 面倒なことになりそうだったので。



「そういうわりには佐々木と楽しそうに話してただろ。雰囲気も普通にいい感じだったし」



 だから、みんなからのイメージなんて気にせずに自然体でいてもいいじゃないか? 少なくとも佐々木悠真ならきっと受け入れてくれるはずだ。


 そう言おうとした瞬間、麗華がハッとなにかに気づいたようにこちらをじっと見つめてきた。



「石橋……もしかして、佐々木くんに嫉妬してるの?」


「は? いや、ちがっ……」


「してるよ。間違いなく嫉妬してる。やたら佐々木くんとの関係について聞いてくるし」


「ぐっ……」



 それは主人公である佐々木とヒロインである麗華のフラグ管理がどうなっているのか気になっているから。


 なんて、そんなこと言えるはずがなく……


 反論できない俺を見て目を輝かす麗華。テンションのギアがもう一段上がった。



「なるほど、私が佐々木くんに取られちゃうかもって焦ってたんだね。照れなくてもいいよ。安心して。確かに佐々木くんのことは尊敬してるけど、あくまで同じ生徒会役員と言うだけで、恋愛感情は一切持ってないから……ね」



 したり顔でポンと肩を叩いてくる麗華さん。思わず頭を抱えたくなる。



(全く、ちょっと他の男子と話しただけで嫉妬とか。いっしーはほんとしょうがないなぁ……)



 心の声とは裏腹にすごく嬉しそうな顔をしている。


 はぁ……まぁいいか。いや良くはないけど。



 どうやら、現状『月島麗華』ルートは確定していないらしい。


 もしかして、俺が主人公の代わりにNTRフラグから麗華を守ってしまったからか?


 どちらかというと主人公の悠真より、俺とのほうが仲良くなっている気がする。



「……それに、石橋は私にとって『特別』かもしれないから」


「……特別?」



 思わずオウム返ししてしまった俺に麗華は優しく微笑んだ。



「私はいい格好しいだから、背伸びをして……みんなにはカッコイイ姿を見せたいの。だから見栄も張っちゃうし……でも石橋は『特別』だからそんなの気にせずいられるかもしれない。最近そう思い始めてるの」



 いいカッコしいの麗華はエロゲーでは最後までクールでかっこいいキャラだった。


 これは、最後まで主人公にも見せなかった本来の姿。

 

 主人公の佐々木悠真でさえなれなかった月島麗華の『特別な存在』



 ……もしかして当て馬キャラの俺が主人公からヒロインを奪ってしまったのか?


 いや、それは考えすぎだろ。そもそも麗華とは付き合ってすらいないのにこの考えはおかしい。


 よぎる仮説を振り払い、帰路についた。


 


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