第11話 守りたかったもの
「石橋!! お前みたいなクズがー」
クズ島をタコ殴りしていたら騒ぎに気がついた先生達に止められ、ここに連れて来られた。
そして今、俺は生徒指導室で説教されている。
正直、殴るべきではなかった。そこは反省している。もっとスマートなやり方もあった筈だ。
でも、殴った方がスッキリするから別に後悔はしていない。
やはり暴力だ。暴力は全てを解決する。
「停学で済むと思うなよ? お前みたいなクズは退学してくれた方が学校も助かるんだ」
まぁ、別に退学することになってもそれはそれでいいか。別に死ぬわけでもないんだし、この学校にこだわる理由はない。
クズ島に関しても退学する前に奴が今まで裏で何をしていたのかを雛乃に調べてもらえればどうにかなるだろうし。
「ふぅ……」
長かった教師の説教も終わり生徒指導室から解放され、人知れず一息つく。
もし、退学になったらこの学校ともおさらばか……なんだか不思議な気分だ。
夕焼け色に染まった廊下。どこか懐かしさを感じる匂い。少し寂しく思うのはなぜだろうー
「あ! ご主人〜! お説教はもう終わったんですかー?」
桜井雛乃の間延びした声が俺のセンチな物思いをぶち壊した。
「で? どうだったんです? 退学ですか?」
こいつ……遠慮なくぶっ込んでくるな。
「まぁ、そうなるかもな」
「ありゃ〜まぁ、そうなりますよねぇ……屑島先輩殴られすぎて顔があざだらけのパンパンでしたもん」
なんでこいつがそんなことを知ってるんだ?
「ご主人。どうしてあんなことしたんですか?」
そう言いながら俺の顔を覗き込んでくる雛乃。
「別に……強いて言うのならムカついただけだ」
「ふ〜ん」
え、何、その含みを込めた言い方……しかもなんかやにやしてるし。
「……なんだよ」
待ってましたと言わんばかりの表情で雛乃は俺の目の前で立ち止まる。
そして、これ見よがしにテンポ良くステップを踏みながら拳をシュッシュッと繰りだす。
なんだ? こいつはいったい何がしたいんだ?
「俺の退学とあいつの未来、天秤にかけるまでもないだろ」
「!?」
「お仕置きだ……食らっていけ」
あ、あの……!!
「そうか、だったら悔いがないようにトコトン付き合ってもらうぜ」
ちょ!?
「安心しろ。先輩。退学するときは一緒だ」
「おい、なんでお前が知ってー」
「ちっちち〜これですよ」
俺が言い切る前にドヤ顔をしながら雛乃はスマホを取り出した。
その画面には凶悪な顔をしながら屑島をタコ殴りにしている自分の姿が。
「何かあった時の為に、昼休み後忍ばせておいたんです。もちろん。ご主人が殴り込む前の屑島先輩達の会話もちゃんとあります。屑島先輩がこれまで何をしてきたか、月島さんに何をしようとしたか……全部残ってますよ」
な、なんだこの有能さは? ゲームでのクソ無能ムーブが嘘のようだ。
「全く、本当に世話の焼けるご主人ですよ〜右腕である私に何も相談もなしに勝手に突っ走るんですもん。今後、報連相はちゃんとして下さいー」
ぐうの音もでねぇ……こんな有能ムーブされたら今後、雛乃にはもう頭が上がらないぞ。
「あ〜あ〜ご主人の口からあのかっちょいセリフを聞きたいなぁ〜!」
前言撤回。このアマ、張り倒してやろうか
「私にも言ってくださいよ〜雛乃の未来と俺の命。比べるまでもないだろ……って」
こいつ、何しれっと退学から命にスケールアップさせてんだ。
「それじゃ、この動画を源一郎様に見てもらいますね。そうすればきっとすぐさま動いてくれますよ」
雛乃の言う通り、石橋の祖父である源一郎にこの証拠を渡せば、全てが解決するだろう。もしかしたら屑島どころか親である理事長も追放させるかもしれない。
石橋源一郎はそれほどの地位と財力と影響力を持っている。
「これでご主人は退学を免れ、屑島先輩は退学。一件落着ですねー!」
「いや、俺も退学する」
「へ? な、なんでですか?」
「前に言ってただろ? 問題を起こせば即退学だって」
それが祖父源一郎との約束だったはずだ。
「で、でも今回はちゃんと理由があるじゃないですか。私も説明しますし、きっと源一郎様は納得しますよ?」
「理由はどうであれ、俺は問題を起こした。だったら約束通り俺は退学になるべきだろ」
「……なんですか、そんなに退学したいんですか?」
「別に、俺はこの学校に居ない方がいいって思ってるだけだ。月島にとっても……お前だって、俺の監視と従者なんかしなくて済むだろ」
「………………」
雛乃が無言で不満げなオーラを放ちながらこちらを見つめてくる。
「……なんだ」
「……いえ、なんでもないですよーだ」
じゃあなんで拗ねてるんだよ。わけわからん。
「それはそうと月島さん。ご主人のカバンを持って玄関で待ってますよ? さっさと行って来てあげてください」
……こんな時間まで持ってるのか。正直、今は会いたくないけど鞄を人質にされているため会わざる得ない。
俺は重い足取りで玄関に向かった。
「……遅い」
「別に待って欲しいなんて言ってねーよ」
玄関に着くと雛乃の言う通り麗華が下駄箱にもたれながら俺を待っていた。その手には二人分のカバンが。
「はい、これ。石橋のカバン」
俺は麗華の言葉を無視して、差し出してくれていた自分のカバンを乱暴に受け取る。
そのまま彼女の目すら見ることなく、俺は歩き始めた。
「あ、もう……ちょっと待ってよ」
突き放したつもりだったが麗華は小走りでついてくる。どうやら二人で帰ることになりそうだ。
チラッと横顔を見ると、元気がないし別人のように大人しい。
麗華も馬鹿じゃない。俺がクズ島達に暴力を振るった理由を察しているんだろう。
自分のせいで俺が問題を起こしてしまった。そう思っているから責任を感じて落ち込んでいるのだろう。
「……先生。なんて言ってたの?」
少し気まずい空気の中こちらを見ることなく、虫のような声で聞いてきた。
「退学ー」
チラッと横顔を見ると麗華は泣きそうな顔をしていた。
巻き込んでしまったことが、そんなに辛いのだろうか。こんなの、俺が勝手に首を突っ込んだだけなのに。
俺は、こいつにこんな顔をさせるためにクズ島を殴ったわけじゃない。
…………
………………………
「……退学にはならなさそうだ。停学にはなるだろうが」
「へ? あ、そう……なの?」
「ああ」
「い、石橋ぃぃぃっ……!!」
「なんだよ」
「明らか退学する雰囲気出してたでしょ!! 最低……もう石橋なんて知らない」
ぷいとそっぽを向く麗華。
(よ、よかったぁ〜本当によかった……あ、そうだ。石橋が退学した時のために書いた私の退学届けあとで処分しとかなきゃ)
なんかしれっとやばいことを聞いてしまった気がするが、きっと気のせいだろう。
「……誰かのせいで退学になり損ねただけだ」
「誰かって?」
「別に……」
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