第23話 仲直り会




 ファミレスに着き、店員さんに案内されてテーブル席に座わる。とりあえず何を注文するか、各自メニューを表を見ながら考えていた。


 とりあえず、みんなでシェアできる山盛りポテトを頼んでおこうかな。


 あとは自分の分だけど……ハンバーグあたりにー



(エビフライかハンバーグかオムライスか……あとプリンも食べたいっ! でもそれだとカロリーがっ……!! どうすればいい? 選べないっ! 全部食べたい!! でもカロリーが!)



 隣の麗華がめちゃくちゃうるさい……ていうか、そんなに食べられないだろ。



(正直、全部食べる分には何も問題はないんだけど……最近、体重増えてきてるし、これ以上太るわけにはっ……一体どうすれば!)



 全部食えるのかよ……くそ、麗華がなにを頼むか気になってきたぞ……



(こ、これは! お子様ランチ! ハーフエビフライとハーフハンバーグとハーフオムライスとプリンも付いてくる!?)



 まさかのお子様ランチだった。



(……間違いない。今の私の胃袋はお子様ランチを欲している。カロリー的にもお子様ランチ一択だけど……高校生にもなってお子様ランチは恥ずかし過ぎる……! 孤高でクールでかっこいい私のイメージが!)



 安心しろ。そんなイメージはもう塵と化している。



「二人は決まった?」



 向かいに座っている真由がメニューをしまいながら聞いてきた。どうやら真由の方は何を注文するか決まったらしい。



「い、いま決めるから。ちょ、ちょっと待って」



(せめてもう一人お子様ランチを頼んでくれたらっ……!!)



 ちらりと麗華の視線がこちらに向けられた。


 こ、こいつ……まさか。



「石橋? 悩んでるのなら……私が決めてあげようか?」



 俺にお子様ランチを頼ませようとして来やがった!!

 


「いや、自分で選べるから」


「今の石橋は……ハンバーグとエビフライとオムライス。さらにはデザートにプリンが食べたい。でしょ?」



 それはお前だろうが。



「いや別に……」


「隠さなくてもいいよ。彼女だからさ、わかっちゃうんだよね」



 なんだこいつ、張り倒してやりたい。


 ……ん? 雛乃からメッセージが来てる?



『ご主人〜今日は雛乃ちゃんスペシャルジャンボ目玉焼きチーズハンバーグですよ〜だから早くいちごタルトを買って帰って来て下さいね!』


 というメッセージと焼く前のジャンボハンバーグを映しながらピースしている雛乃の写真が送られてきた。



 しまった……!! 晩御飯食べて帰るって連絡するの忘れてた!!


 今、連絡すると確実に拗ねられる。こういう時の雛乃は厄介なんだ。まじで口を一切聞いてくれなくなるし、機嫌が直るのに時間もかかる。


 この前同じようなことをしてめちゃくちゃ苦労したからな。あれを味わうならー



「俺はシェア用のポテトとお子様ランチにするが、月島はどうする?」



 俺は迷わずお子様ランチを選ぶ。真由がとても驚いた表情をしているが、そんなことは気にしていられない。



「へ? あっ……! ふ、ふぅ〜ん。い、石橋。お、お子様ランチ頼むんだ? な、ならわたしも? 頼んであげようかな? お子様ランチ。うん。それがいいかも。ここは彼女として一緒に頼んであげるよ……恥ずかしくないように」


「そうかい、それはありがとう」



 タブレットを操作し、山盛りポテトとお子様ランチをタップする。


 ん? オムライスの中身はバターライスかチキンライス選べるのか。



「え、バターライスの方にするの? ここは王道のチキンライスでしょ。石橋、浅いね」


「どうせチキンライスは旗がさしてあるから選んだんだろ?」


「ち、違うし!!」



(それもちょっとはあるけど!)



 あるのか……


 しばらくすると注文していた料理が次々と届く。お子様ランチを持ってきた店員さんの表情はしばらく忘れそうにないものだった。



「そういえば、どうして二人は付き合ってるのに名前で呼び合わないの?」


「二人時は呼び方変えてるよ」



 そういえば、こいつ、二人の時はつーくんなのに、人前では石橋呼びだな。



「どうして? 人前では呼ばないの?」



 麗華の答えに首を傾げる真由。



「そ、それは……人前では恥ずかしいから」



 顔を赤くして視線を逸らす麗華。


 流石に人前ではつーくん呼びは恥ずかしかったのか……



「そういえば、二人がまともに話すようになったのは最近って言ってたけど、きっかけとかあったのか?」


「そ、それは……その」


「きっかけは石橋くんなんだよ?」


「え?」


「ちょっと!?」



 俺の心情をさしてか、ワタワタしている麗華を無視して真由は話を始める。



「石橋くんと麗華ちゃんが付き合ってるって噂が流れてね。つい気になって石橋んがどんな人か聞いてみたの」


「待って、真由。その先は言わなくてー」


「そしたら楽しそうに石橋くんの話をしてくれて、そっけないけど優しいとか、いざとなったら頼りになるとか、カッコイイとか……すごく自慢げに石橋くんのことを話してくれて……それからかな? 麗華ちゃんと会話できるようになったのは」


「真由!! そこまで言わなくていいから!!」


「ある時は麗華ちゃんからー」


「わー! わー! わー!」



 慌てる麗華と楽しそうに話す真由。


 なるほど。最初から真由が俺に対して友好的だったのはこれが理由か。



「二人が仲良くなったのはいつごろなんだ?」



 これ以上は麗華が可哀想だと思い、話題を切り替える。

 


「えっとね……」



 楽しそうに語り始める真由。俺はお子様ランチを食べながら話を聞いていた。


 すると横から



(は!? なにこれ!? このチキンライス……グリーンピースとコーンが入ってる!?)



 麗華の心の叫びが聞こえてきた。


 我慢しろ。ガキかよ。



(は? このメニュー考えたのだれ!? チキンライスにミックスベジタブルを入れるなんて人間のすることじゃないっ!! そもそもグリーンピースっていうどう料理しても不味いものを混ぜようとするの!? 意味がわからないんだけど!?)



 ああ、もう! ほんとうるせぇな! 全然真由の話に集中出来ないんだが!?



「………………」



 再び、麗華の視線がこちらを向く。視線の先は俺というより俺のオムライスだ。



「……なんだ?」


「石橋。今、やっぱりチキンライスにしたら良かったって思ってるでしょ? 彼女だからね……わかるよ。視線がそう言ってる」



 それはお前だろうが。(2回目)



「しょうがないなぁ。どうしてもって言うなら、私のオムライスと交換してあげてもいいよ」


「……もう、好きにしてくれ」



 目を輝かせながらオムライスを交換している麗華を見て、思わずため息をついた。



「……二人は本当に仲が良いね。少し羨ましいなぁ」



 俺と麗華のやりとりを見ながら、つぶやく真由。


 そんな羨ましがる関係じゃないぞ。いや、マジで。



「……ま、石橋私のこと大好きだから。ね? 石橋?」


「あ、はい……そうですね」


「なんで敬語なの?」



 真由はそんな俺たちのやりとりを羨ましそうに見つめていた。





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