第7話 佐々木悠真①


 エロゲの主人公に転生してしまった件。


 これはラノベやネット小説とかにとかでよくあるタイトルではなく、俺が今たたされている状況だ。


 俺は『アマ✳︎キス』の主人公佐々木悠真になっていた。


 信じられない。引きこもりの俺が車に跳ねられて、気がついたらこうなっていた。



 俺は『アマ✳︎キス』を全ルート制覇している猛者中の猛者。ゲームの知識があれば、ハーレムルートだって……!!



「ちょっと! やめてください!」



 すぐ近くで、女の子の叫び声が聞こえた。


 身を隠しながら様子を伺うとヒロインである月島麗華とクズ島がなにやら言い争っているようだ。


 いや、言い争いというか、連れ込まれそうになってない?



 これは……確か一番最初に発生するNTRイベント。


 相手はクズ島か……助けられないこともないけど、助けた後のリスクを考えたら割りに合わない気がするなぁ。


 なんせクズ島は理事長の息子で、気に食わない相手は立場を使って徹底的に追い込むような男で陰湿だしタチが悪い。



 ……うん。ここは見て見ぬ振りをしよう。



 月島麗華は別に俺の推しキャラじゃないし。


 というか、NTRイベントが起きてる時点でもう詰んでるんだ。



 俺は今後の学校生活のため月島麗華を見捨ててこの場を去った。


 


 転生して3日目、生徒会の実務をしていると月島麗華から手伝って欲しいとお願いされた。 


 この前のクズ島NTRイベントで彼女を見捨ててしまった罪悪感があったので、承諾することに。



「佐々木くんありがとう。手伝ってくれて」


「お、同じ生徒会メンバーなんだから! これくらいは当然だよ!」



  本来のNTRルートだったら、麗華がクズ島に連れ込まれたあと、精神が病んで1週間くらい家に引きこもっていたはずだ。


 そんな彼女が特に変わった様子もなく学校に来ているということは……あの後なにもなかったのだろうか?



 うーん……一旦この件は様子見だね。



「……なんだか嬉しいよ。月島さんが僕なんかを頼ってくれて」


「大袈裟なんじゃない?」


「だって、みんな僕となんかと違って特進クラスですごい人達ばかりだから……」


「……私、佐々木くんもすごい人だと思ってるけど」


「……え?」


「一般クラスで生徒会に入るのは並大抵なことじゃない。それを成し遂げた佐々木くんの能力と努力は尊敬してるつもり」


「月島さん……ありがとう。月島さんにそう言ってもらえると自信がつくよ!」


「もう、それは大袈裟じゃない?」



 くすくすと笑う月島麗華。


 まぁ、グッドコミュニケーションってところだな。別に推しキャラではないけど、月島可愛いから今日はこのまま出来るだけ好感度を上げておこう。




「あ、麗華ちゃんじゃん〜」



 月島麗華と談笑している中、目の前にクズ島が現れた。



「え? なに? 今一人? よかったらさ、今から遊びに行かない? マジ、絶対楽しませるからさ〜」 



 は? なんだこいつ。隣の俺が見えないのか?


 自分にとって都合が悪いから言及しないのか、俺の存在を無視して話を続けるクズ島。



「あ、あの……!! すいません! 今、生徒会の実務中で……!!」



 流石に少しムカついたので、月島麗華を庇うように前に出る。



「は? なにお前。邪魔」


「ぐっ!?」




 クズ島に突き飛ばされ、倒れ込んだ。


 ………………よし、俺はできることはやった。体も痛いしあとは周りの誰かに助けてもらおう。


 

「佐々木くん!」


「は? おい麗華。なんで俺を無視してこんなカスのことを心配すんだよ」



 クズ島の表情が変わる。


 ここで初めて、クズ島の視界に俺が移った。


 は? おいふざけんな。俺にヘイトが向いてるじゃねーか!



「……佐々木くんになにをしようとしてるんですか?」


「は? なに? まさか、そんなやつのこと庇ってんの? ふーん。ちょっと痛い目をみなくちゃ分からないか」


「ッ!!」 



 周りの生徒たちはこちらを見て見ぬ振りをしている。腫れ物扱いのように目線を逸らす。

 


 は? ふざけんな。誰か助けろよ。なんで皆みてみぬ振りしてんだよ。そんなに自分の身が大切なのかよ!! このクズどもがっ!!




「よう。先輩。なんだか楽しそうじゃねぇか。俺の友達に何か用か?」



 絶望していた最中、石橋強が現れた。


 そして、俺と麗華を庇うように石橋強が前に立つ。



 石橋強。こいつはゲームでは佐々木悠真……俺の当て馬キャラ。

 顔も能力も全てがチート級の男キャラだが、ことあるごとに俺の噛ませにされる。


 俺にとっては踏み台でしかない哀れなキャラだ。



「謝らないのなら、お前が佐々木にやったことをやり返す。倍にしてな」


「うっ……わ、悪かった! ……こ、これでいいだろっ」



 石橋はいとも簡単に麗華を守りつつクズ島に俺に謝らせた。



 なんだよこれ……まるで、俺が石橋強の踏み台になってしまったみたいじゃないか。


 だって、今回1番株を上げたのは間違いなく石橋なわけで……俺はクズ島になにも出来なかった役立たずみたいになってしまった。


 偶然立ち合わせて、おいしいところを持っていったくせに。


 ふざけんなよ……石橋、お前は当て馬だろ? だったら大人しく俺の噛ませになるべきなんだよ。


 全てが気に入らなかった。


 だから……



「あの、屑島先輩」


「あ? お前は昼休みの佐々木……だっけ?」


「石橋強を……陥れたくないですか?」


「へー面白そうな話だな。入れよ」



 俺は、屑島に石橋強の悪辣な噂を流すように助言した。


 


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