第5話 真のヒロイン



「…………つかれた」



 結局、クズ島を追い返した後、腰が抜けた麗華をおぶって悠真と共に生徒会の実務を手伝った。



 最初は頭を抱えたが、すぐさま切り替え悠真と交流を深めることに……



 が、しかし。



 悠真に声をかけようとする度に麗華が絡んでくるせいでまともに話しができなかった。


 麗華はめちゃくちゃ絡んでくるわ、その様子を見て悠真に関係を疑われるわ、散々だった。



 頭を抱えながら公園に入ると



「あ〜ご主人〜やっときましたねー」



 夕焼けに照らされている屋根付きのベンチにぶんぶんと手を振ってくる女の子が居た。



 ゆるふわな雰囲気を醸し出し、ウェーブのかかった薄ピンクの長髪に小学生のような顔立ち、そしてDカップ以上を誇る巨乳。



 しまった。忘れてた……!! そうだ。こいつも居たんだ。


 このゲームでの超重要キャラ。



 石橋強にとってはある意味ヒロインの月島麗華より重要かもしれない。


 

 こいつの名前は桜井雛乃。


 石橋強の従者であり、このゲームのヒロイン。

 主人公である佐々木悠真にアドバイスなどする相棒兼お助けキャラ的な立ち位置だ。


 一応、お助けキャラなのだが……びっちゃけ無能すぎて使えねぇ。むしろ、NTRフラグ一級建築士。


 こいつのアドバイス通り動くと大抵ヒロインは寝取られる。


 しかも、石橋が追放されるのはこいつが原因で、ルートのよってはこいつに刺されて死ぬ。


 つまり、桜井雛乃が原因で石橋強が破滅して死ぬと言っては過言ではない。


 俺にとってはまさに『全ての黒幕』



 ネットでは『アホピンク』『無能巨乳』『体と顔だけの女』『絶対石橋を殺すウーマン』『石橋を追放するのだけは有能』など散々の言われよう。



 何度こいつの『私のミスでした……』に悩まされたか。


 最後に攻略できることから『真のヒロイン』扱いされている。


 ……俺はこいつのルート見たことないけど。


 屋敷ではメイド服を着ているのだが、今は制服を着ている。


 そういえば、石橋の転校先が学園だった理由は彼女も通っていたからだったような。



「うわ〜しばらく見ないうちにすごく厳つくなりましたね。めっちゃ怖いです」



 そんなことを言いつつあはは〜と笑う雛乃。全然怖がってるようには見えないんだけど。



「で、なんでこんなところに居る?」


「この度、ご主人の監視役兼従者として再びお仕えすることになったんですよ〜」



 ああ、そういえば、石橋強の祖父である石橋源一郎が送り出した監視役の設定だったけ?

 


 ……なんか、従者なのにゆるくないか? 友達感覚で話しかけてくるぞこいつ。



「もし何か問題を起こしたら即退学ですよ。退学!」


「はぁ……」


「む、なんですかその顔は! 従者が私じゃ不満なんですか?」


「ああ、そうだ。つーかずっとここで待ってたのか? 俺がここに来るかなんて分からなかっただろ」


「それはですね〜ご主人のスマホには子供の見守り用GPSが付いているからです……え、ちょっと、最初なんて言いました?」



 GPS? なにそれ。俺の扱いやばくない? 



「全く、私だけですからね。従者を引き受けたの。他の子はご主人の従者をするくらいならクビにして欲しいとか言い出したり、嫌すぎて泣き出して駄々をこねる子もいたんですよ?」



 いや、嫌われ過ぎだろ。勘当寸前じゃねぇか。


 どうすればこんなに嫌われてしまうんだ? 過去の石橋。お前は一体なにをやらかしたんだ?



「なんでお前はこんな汚れ役を引き受けたんだ?」


「まぁ、ご主人とはなんだかんだ長い付き合いですからね……あとお給料5倍ですし」



 こいつ、金に釣られやがった。



「あ、そんなことよりご主人〜放課後、月島さんと佐々木くんの為に屑島先輩に怒ってましたよね? 本気で」



 ……見てたのか。



「別に。屑島の奴が調子に乗っていたのが気に食わなかっただけだ」


「源一郎様に報告したら喜んでましたよ。わしの孫はまだまだ捨てたもんじゃないわい!! ガハハ!! って」



 いや、源一郎どんなキャラなんだよ。



「私も、安心しました。屋敷では色々言われてますけど、ご主人はご主人だったんだなって」


「あ? どういう意味だよ」


「こっちの話です。では、お腹が空いたので私帰りますね! いいですか? 真面目に学校生活を送るんですよ? 振りじゃないですからね!」


「はいはい、わかったわかった。わかったからさっさとおかえり」


「ご主人、私の扱い雑すぎませんか!?」

 


 頼むから厄介ごとを引き起こさないでくれと祈りながらぶつぶつと言いながら去って行く雛乃を見送った。


 

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