第3話 ぼっちヒロイン昼休み



「いっしー今日の放課後空いてるでしょ。生徒会の実務を手伝って」



 昼休み、ヒロインである月島麗華に強制連行されて一緒に昼ごはんを食べている最中、いきなり面倒なことを言い出した。



「……なんで」


「今日、生徒会メンバーが一人用事で抜けるの。それでいつものより実務量が多いの。あ、内容は誰でもできる雑務だから大丈夫だよ」


「断る」


「は? どうして?」


「俺も色々と忙しいんだよ」


「なに言ってるの? いっしーに用事なんてないでしょ」


「お前……引っ越しの荷解きとかもあるんだよ」


「ふーん。友達が助けを求めているのに自分を優先するんだ? だから友達が私しか居ないんだよ。いっしーは」


「……ちょっと待ってくれ。突っ込みたくなかったからスルーしてたけど、いっしーってなんだよ。まさか俺のことじゃないよな?」


「もちろん、石橋のことだけど……?」


「…………なんで俺のことをいっしーって呼んでるんだ?」



 そう聞くと麗華はやれやれとため息をついた。



「全く、いっしーはなにも分かってないね」



 は? なんだこいつ。

 


「友達同士であだ名で呼び合うのは常識でしょ。そんなとこも知らないんだ?」



 ぼっち飯をしているようなやつにそんなことを言われた。



「まぁ、私のことはれいぴょんもしくは……れーちゃんでもいいよ」



 え、絶対に嫌だ。



「あだ名以前に、そもそも俺とお前は友達じゃない」


「ーーーえ」



 俺の言葉を聞いて絶句する麗華。



「一緒にお昼ご飯を食べる仲……」



 友達のレベル低くないか?



「そもそも、そんなに量が多いのなら他の生徒会メンバーに頼めばいいだろうが」


「そんなの申し訳ないでしょ。みんなそれぞれ自分の実務があるんだから」


「生徒会ですらない俺に対しては申し訳ないと思わないのか?」


「だって……私がこうしてお願いできるの。いっしーくらいだし」


「……なんで、俺なんだ」


「……昨日、見て見ぬ振りしないで私のこと助けてくれたから、そのあとも色々としてくれたし」


(だから、他の人と違って……頼りやすいというか)



 どうやら、2日前の出来事が麗華にとってはよほど好印象だったらしい。


 まぁ、あの時麗華は結構怯えてたからな……本当に怖かったのだろう。年上の男子に無理やり連れ込まれそうになったんだ……当然か。



「頼れる奴なんて周りにたくさん居るだろ? 生徒会で同い年でやつとか居ないのか」


「……居るけど、真由は……いや、佐々木くんかな」



 麗華が言った佐々木とはおそらくこの作品の主人公である『佐々木悠真』だ。


 麗華と同じく、生徒会に所属しており役職は庶務。


 気弱そうでなよっとした印象を受ける姿で、基本的に内気で引っ込み思案でぼっちだがエロゲーの主人公らしく、プレーヤーの選択次第でなよなよしたヘタレ野郎にもなるし、ヒロイン達のためにどんな理不尽にも立ち向かえる漢にもなれる。


 ここは俺との手伝いフラグを折って、佐々木との手伝いフラグを建てるとしよう。

 


「じゃあ、佐々木に手伝って貰えばいいだろ」


「それは……そうだけど……私は……」


「これでこの話は終わりだな」



 勝手に話を打ち切ったからか、麗華はムッとした表情をする。



「もういい……石橋には頼らない」


「ああ、そうか。それはよかった」


「……ちなみに、謝るのなら今のうちだから。『ごめん俺が間違ってた。俺とれーちゃんは友達だし、生徒会の実務も手伝ってやるからさ』って言ってくれたら許さなくもないー」


「あ、予備チャイムがなってるから俺教室に戻るわ」


「石橋ぃぃぃぃ!!」



 キレた麗華にペットボトルでタコ殴りされながらもきちんとフラグを折った。


 まぁ、生徒会の仕事も、佐々木悠真との関係も俺には関係ないことだ。



 ……だけど、一応放課後に様子だけは確認しておくか。


 

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