第6話 次の過去改変と、新たな美女の登場。
拓朗がタイムリープをした入学式の日から、約2週間ほどが経過した。
放課後、これから拓朗はアルバイトの面接がある。先日バーガーショップに行った後千尋に話した、彼が決めているというバイト先だ。
「時野くん、もう帰り?」
荷物をまとめて立ち上がると、隣の席の瀬川 樹里が話しかけてくる。樹里とは一緒に学食に行った日から、こうして気軽に会話をする仲になっていた。
「うん、今日はバイトの面接があってさ」
「まじ? 頑張ってね。アタシもバイト探しててさ……もしいいとこだったら紹介してよ」
「あっ、あぁ……いいとこだったらね」
そう言いながら、拓朗はこのバイト先を樹里に紹介することは絶対にないだろうと考えていた。
◇
「じゃあ君、採用な」
面接が終わった瞬間、人がよさそうな笑みを貼り付けた小太りのオーナーは言った。
(1周目もこの段階で気付くべきだったよな……明らかにヤバいってことに)
この飲食店のオーナー、
面接のときはいかにも人のよさそうな笑顔を貼り付け、きさくかつ誠実な印象を与える。
しかし、出勤一日目に彼は豹変する。いや、そっちが本性と言うべきだろう。
アルバイトの従業員を大声で怒鳴りつけ、人格否定するような暴言をぶつけてくるのは日常茶飯事。暴力も奮ってくる。
そんなことをしていたらすぐに訴えられるのではと思うだろう。しかし、それができないのだ。
人間は良くも悪くもその場の環境に順応してしまう生き物だ。明らかにおかしいパワハラの行われている職場でも、毎日のようにそれが普通だ、甘ったれるなと言われているうちにおかしいのは自分だと思い込んでしまう。ある種の洗脳だ。
それに大事にするよりも自分がその環境から逃げるほうがよっぽど無難で楽なのだ。もしもバイト先を告発したなどという噂が広まったら、周囲から腫れ物扱いされるかもしれない。この仕事で生計を立てている社員の人たちからは恨みを買うかもしれない。
だから誰もが訴えなどせず、辞めるという道を選ぶ。
拓朗も1周目はそうだった。しかしずっと後悔していたのだ、自分があの悪魔のような男を告発をしておかなかったことで、それからもずっとこの職場で苦しむ人が生まれてしまうことを。
だから今回は高校生のうちに先回りして、この職場をぶっ潰すことを決めていた。すでに証拠を押さえるためのカメラやボイスレコーダーも用意している。
(けど、ここでこの職場を終わらせるってことは、奏と会う未来もなくなるって事だよな)
面接の帰り、懐かしい風景と共にひとりの美女の姿が拓朗の脳内に浮かぶ。
地獄のような職場だったために、バイトが終わってから一緒に遊んだり、食事に行ってクズオーナーの愚痴を言い合ったりすることで互いにストレスを解消した。
ある種のつり橋効果と言うべきか、彼らは互いに異性として意識するようになっていた。
しかしたまたま奏と一緒にいるところを悪友のひとりである鎌切 兵輔に見つかってしまった。
それからしばらくして、拓朗が気付いた時には奏は職場を退職していた。連絡も取れなくなった。
兵輔は拓朗に、奏は自分と付き合っていると言った。
兵輔は幼馴染をレイプしたような悪人のひとりだ。そんな人間と付き合って、彼女が幸せになれるような未来は想像できない。
やがて拓朗はニュースで聞いた。夢咲 奏という女性が失踪し、行方不明になったと。
『まただ、また俺と関わったことで……』
そのとき拓朗は思った。自分と関わることでみんなが不幸になる。もう誰とも仲良くなるのをやめようと――
(2週目でこの職場を潰したら、奏と知り合うということはなくなる。けど、それでいいんだ。そうすれば彼女がこの職場に入って嫌な思いをすることもなくなる。それに俺と知り合わなければ、兵輔に目を付けられることもない)
そう考えをまとめ、拓朗はついに初の出勤日を迎える。
気合を入れて職場の駐車場についたときのことだ。
「ねぇねぇ、キミここの従業員?」
「えっ……」
予想外の人物に話しかけられた。
「今日からここでバイトすることになったんだけど、どこから入ればいいのかな?」
そこには、ここで出会うはずのない存在である夢咲 奏がいた。
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