第5話 千尋とイチャイチャする。
(本当に幸せな毎日だ……タイムリープ前の人生が嘘のように)
拓朗はつい最近まで、つまりタイムリープ前までは疲れ切っていた。朝から晩までバイトで体は疲れ果て、週に一回あるかないかの休みも4人の悪友との付き合いがあるために休むことはできなかった。
彼にはもう生きがいが何もなかった。……いや、生きがいがないだけならまだましだったのかもしれない。ただただ絶望の後悔を味わい続ける日々。
それがタイムリープによって劇的に代わった。
もちろん仕事はないし、タイムリープ前は全部一人でやっていた家事も母親がこなしてくれている。
(今になって思うと本当にありがたいことだ。これからはできる限り母さんの家事を手伝ったりして負担を減らしてあげたい)
学校も充実しているし、放課後はよく千尋と遊んで楽しい時間を過ごす。本当に幸せな毎日だ。
しかし、拓朗はただぬるま湯につかる気はなかった。
(アイツらと関係を絶ち切って終わりじゃない。俺は一週目で後悔したことをすべてやり直す)
だから、今はまだスタートラインにたったようなものだ。けれど、それすら拓朗にとってはありがたいことだった。生きがいもなく生きていた彼にとって、成し遂げるべき目標があるというのは幸せなことだった。
そして早速、彼は次なる目標を定めている――
「なにひとりでニヤニヤしてんの」
ふと我に帰ると、ハンバーガーやポテトを大量にのせたお盆を持つ千尋がジト目で拓朗を見ていた。
放課後、今日も彼らは2人で遊ぶ約束をしており、ひとまず腹ごしらえにバーガーショップへと来ていた。
「ひゃー、ひとりでこんなにポテト注文したの初めて。ん~、おいひぃ♡」
千尋はポテトを頬張って幸せそうな顔を浮かべる。彼女は中学で部活を引退し、高校入学と同時にバイトを始めたようなのだ。
それでお金が入ったから思う存分食べたいという千尋に付き合ってこのバーガーショップに来た。ちなみに運動部だった彼女はかなり食べる。
お互い満足するまで食べ終えたところで、会話がなくなってしまったので拓朗はふと思いついたことを問いかけてみた。
「千尋はさ、俺がタイムリープして2週目の人生を送ってるって言ったら信じる?」
(って、なにを聞いてるんだ俺は……こんなこと、誰も信じるわけない)
そう思いながらもやっぱり聞いてみたかった。自分だけが超常現象を体験して2週目を送っている。それを誰にも打ち明けずに過ごすと言うのは中々に孤独なものだ。
千尋は残りのポテトをもごもごと咀嚼して、飲み込んでからあっさりといった。
「信じるよ」
「えっ、信じるの!?」
「拓朗が聞いたんじゃん! なんでそんな驚くのっ」
(確かにそうだけど……)
「だって拓朗、昔からバカみたいに正直で、嘘とか付けるようなキャラじゃないじゃん」
「それはそうかもだけど……なんかバカにされてる?」
「しっ、してないって~。ぷっ、褒めてるの」
そう言いながらも千尋の声は笑いをこらえるように震えていた。
(この、バカにして~)
拓朗はにやける千尋の頬をむぎゅっとつまんだ。
「ひゃっ、ひゃにふるの」
「にやけないように表情固定してるの」
まるで幼少期、仲がよかった頃に戻ったみたいで拓朗はつい微笑んでしまう。
「んん~~! もうっ、笑うなぁ!」
そんなふうに店内でイチャイチャしながら時間を過ごし、彼らは店を出た。
「おいしかった~今日は付き合ってくれてありがとね。拓朗はバイトとか始めないの? そだ、お礼にうちのバイト先紹介してあげよっか」
千尋が顔を近づけながら言う。もうすっかり、仲のいい幼馴染の距離感に戻り始めている気がする。
「それはありがたいんだけど、俺バイトするとこ決めてるんだ」
そして、それこそが拓朗の次なるやり直しの標的である。
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