捻くれていますね城山君!!

朝飯騎士タマゴサンドロス3世

プロローグ ~ある少年の痛くて苦い失敗の話~

 自分の勘違いが招いた失態だ。そうやって自分に言い聞かせるように呟く。周囲を飛び交う噂、向けられた目線、それらから逃れるように俺は歩みを早めた。

 



 ちょっと前までの俺は他人の視線なんて気にすることもなく生活していた。普通に友人がいて生活して、そんな何気ない日常を過ごしていくものだとばかり思っていた。      

 でも…この幻想はあっという間に塗り替えられ、俺は地獄に落ちた。


 すべてが変わったあの日、最初は何気ない始まりだった。転校生としてやってきた彼女に俺は心を奪われてしまったのである。そう、奪われてしまったのだ。世に言う一目惚れというやつである。


 最初に彼女の席が隣だと知ったときは、これは何かの運命であると、それはそれは舞い上がった。間違いなくあのときの俺は浮かれていた。

 彼女は明るい性格ではあったが、慣れない環境に困っていることもあった。しかし数日が経つ頃にはクラスに馴染みすっかり人気者になっていた。そんな彼女とは、最初の頃、困っているときに助け船を出していたことや隣の席であったことのおかげもあってか、交流の機会が多くあり、帰りに二人で帰ったり、休日には二人で出かけたり。一緒に過ごすことが増えていった。その中で、明るいけどいたずら好きな彼女の内面にも心を奪われていった。当時の俺に見える世界は色鮮やかですべてが輝いて見えていたと思う。そんなこともあり思いっきり勘違いした。それはもう盛大に。

 仕方ないだろ、自分の一目惚れした子がニッコニコで話しかけてきて一緒に帰ろうって誘ってくるんだぞ…二人きりで出かけようって提案してくるし、もはや勘違いしない方が男失格だろこんなの。

 

 そうしてアホみたいな勘違いをした俺は何回目かの、二人で出かけた日にとうとう彼女に想いを伝えた。


「一目見たときから好きでした。俺と付き合ってください!!」


 しばらくの静寂、相手に聞こえているのではないかと思うくらい高鳴る心臓の音。下げた顔を上げることができない。そうして沈黙を破ったのは彼女の一言だった。


「え…それ本気で言ってんの…?あり得ないんだけど。」 


―――今まで聞いたことのない冷たい声が彼女から聞こえた。


 続く言葉を聞きたくない。この場から立ち去ってしまいたい。そう思っても感情が渋滞を起こしている俺はその場から動けなかった。


「あんたみたいなのと本気で付き合うわけないでしょ。少しは現実見なさいよ――――」


 そこでようやく俺は動いた。彼女が次に発する言葉も聞かずに、相手の顔すら見ず。逃げ帰るようにその場から立ち去った。

 痛い痛い痛い痛い。先ほどまではとは違う胸の痛みがする。感情の整理が追いつかない。悲しみ?困惑?怒り?いろいろな感情がぐっちゃぐちゃになって吐き気がする。

 つたない足取りで歩く。どのくらい歩いたのだろう。頬を伝う雫にすら気がつかず、ふとしたときにはすでに自宅の前に着いていた。その後は、気がついた頃には自分のベッドで眠っていた。


 次の日、学校に登校したがここからが本当の地獄だった。今まで仲が良いと思っていた友人も、話をしたことがない人ですら俺に軽蔑の目を向けてきた。


 そんな中、聞こえてくる噂話

「あいつが例の自意識過剰勘違い野郎?」

「あれで告白したんだってよw」

「マジかよあり得ねえ~俺だったら絶対無理だわ!」

「無理矢理迫ろうとしたらしいよ」

「え?マジ?最低なやつじゃん」

「乱暴しようとしたってことでしょ…信じらんない」


 ヒソヒソと、あること無いことを囁かれている。1日中周りの声と視線が気になり今までのように過ごすことなど不可能であることを思い知った日であった。

 この日以降俺は人の目が怖くなった。友人はいなくなり、家に帰ってもその感覚が忘れられなくなってしまった。思えばこのときから目つきが悪くなっていったと思う。


 そうして気がついたときには色鮮やかに見えていた世界は灰色にしか見えなくなっていた。



 こんなことになるなら初めから告白なんてしなきゃ良かったと思うが、こんなことを考えても後の祭りだ。相手にはなんとも思われていないのに勝手に勘違いし続けて浮かれまくっていた自分に対してしようもない後悔と恥ずかしさがこみ上げてくる。自分の浅はかな行動を恨むがもうどうしようもない。諦めて自分の行動の代償を受けるしかないのだ…



―――――――そこからの学生生活はひっそりと影を潜め過ごした。噂は完全に消えたわけではないが、人の噂もなんとやら、気がつけばほとんどの噂はなくなっていた。もっとも、致命的な噂は消えたわけではないが…。それでもやはり同級生とは極力距離を置くために離れた高校を受験した。彼女とは告白の日以降は顔を合わせていない。あんなことがあって顔を合わせるのがすっかり怖くなってしまった。

 でも………この経験は忘れずに生きていこうと思う。


「2度とあんな目にあってたまるか……もう絶対に勘違いなんてしないからな!!!」


 入学式当日、春の訪れを祝福するかのようなウグイスのさえずりを小耳に、灰色桜吹雪舞う通学路で俺は誓うのであった。

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