第23話 闘技場建設
俺はダンジョン内にいるモンスターを集めた。あることを宣言するためである。
「みんな聞いてくれ。お前たちの中には、闘争本能を抑えきれずに戦いたいと思っている者も中にいるだろう」
モンスターたちがざわつく。やっぱり、この話題に食いついてくるモンスターはいるだろう。
大なり小なりモンスターには闘争本能というものがあるものだ。
今までは人間の村を襲撃することによって、その闘争本能を満たしていた。
しかし、今は俺がそれを禁止している。だから、行き場のない本能がうずいてしょうがないのだろう。
今はそのガス抜きができずに危険な状態とも言える。
モンスターたちの不満はいつか俺に帰ってくるかもしれない。
謀反されることを懸念して、俺はモンスターの闘争本能を満たす策を考えた。
「今までは人間の村を襲って、楽しいと感じていた者もいただろう。しかし、それではいけないと俺は前に教えたはずだ」
少し説教くさくなったが、まあいいだろう。ここは大事なことだ。
何回でも釘を刺していいことだ。
「しかし、お前たちの戦いたいという気持ちもわからないでもない。だから、今日はそんなお前たちにいい知らせを持ってきた」
ちょっともったいぶったけど、そろそろ本題を言おう。
あんまり焦らしすぎると校長先生並に話が長くなるからな。
「これから俺は闘技場を建設する。その闘技場では決められたルール内でモンスター同士で戦うことができる」
モンスターが一瞬、静まり返る。
戦闘訓練以外ではモンスター同士で戦うことは俺も禁じていることではある。
「え? 闘技場ができたら俺たちは戦っていいのか?」
モンスターの1人が俺に確認を取る。
「ああ。もちろん。ルール無用の殺し合いというわけにはいかない。試合形式になるが、戦いたい欲求を存分に満たすと良い」
一部の血の気の多いモンスターたちが沸き立つ。
「もちろん。闘技場には観客がつきものだ。戦わずとも観戦をするのは自由だ。思う存分に戦いを楽しむと良い」
そう言うとモンスターのほとんどが沸き立った。
自分で戦うのはちょっとと思うようなモンスターでも他者が戦っているシーンを見ると血が沸き立つこともあるだろう。
このダンジョンには食以外の娯楽がなかった。
だから、この闘技場はモンスターの闘争本能を満たすのと同時に興行として成立させる目的もある。
娯楽がなくても活きてはいけるけれど、娯楽は人生に彩りを付けるのに必要なことだ。
それは人間ではなく恐らくモンスターも同じだろう。
「俺はしばらく闘技場建設にリソースを割く。手隙になる時間は減るからそのつもりでいて欲しい」
こうして、俺の闘技場建設が始まった。
元からゲーム内にある施設ならDPを消費することで建設できるけれど、闘技場は俺のアイディアであるため、ゲーム内にはない。
つまり、俺が自力で作らなければならない。
闘技場を作るなら最低限戦うためのリングは欲しいところだ。
リングの材料となるものは……採掘場で山のようにでてくるアレが使えるだろう。
俺は早速、採掘場へと向かった。
「イビルハム様。採掘場になんのご用ですか?」
採掘場にいるゴブリンが俺に気づいて話しかけてきた。
「ちょっと余っている石を貰いたくてな。ここに積んであるクズ石を俺のクラフト部屋に運んで欲しい」
「この石をですか? 一体なんの使い道が……?」
まあ、発掘作業の時にどうしても出てしまう使い道のない石。
溜まっていく一方で邪魔で、いつかこれの処理も考えなければいけないと思っていたところだ。
「まあ、使い道については後でわかるさ」
俺はゴブリンたちと協力して山になっているクズ石をクラフト部屋へと運んだ。
よし、ここからは俺の本格的な仕事が始まる。
クズ石を集めてクラフトする。すると石が大きくなりキレイな四角形に成形される。
「よし!」
会心の出来に思わず唸ってしまった。これは良いものだ。これをいっぱい作って闘技場のリングにしよう。
闘技場の大きさから石の大きさを逆算している。だから、後はその寸法通りにクラフトするだけである。
寸法を狂わせてはいけないからクラフトするのに神経を使う。集中力が相当使われて結構精神的に疲れる。
闘技場のリングとなる石を1日中作り続けた。しかし、それでも想定する石の個数に届かなかった。
流石に今日はもう疲れた。これ以上の作業は俺が死んでしまう。今日は休むか。
◇
「イビルハム様おはようございます」
翌日、俺が目を覚ましてクラフト部屋に移動する最中にリトルハムに出会った。
「ああ、リトルハム。丁度良かった。このダンジョンで1番力があるのってキラービートルだよな」
「はい。そのように私も記憶しております」
「では、5匹くらいのキラービートルを俺のクラフト部屋まで来るように伝えてくれ」
「かしこまりました」
さて、リトルハムに仕事を頼んだし、俺も仕事をするか。
クズ石を使ってまた俺はリングとなる石を作っていく。2個作った時にキラービートルたちが俺のクラフト部屋に続々と入ってきた。
「お呼びでしょうか。イビルハム様」
「ああ。そこにキレイな四角形になっている石が積まれているだろ? それをここに運んでくれ」
俺はダンジョンマップのある地点を指さした。そこはまだ何の施設もない空いている場所である。
「ここですか? わかりました」
数匹のキラービートルは石を担いで指定の場所まで石を運んでくれることになった。
そのために、石を部品単位でクラフトしたのだ。いきなり大きなリングを作っても誰も運べないからな。
そもそもクラフト部屋の出入り口よりでかいものを作っても仕方がない。
だから、クラフト部屋から材料を元に部品を使って現地で組み立てるのが賢いやり方だろう。
キラービートルが石を運んでいる間に俺もどんどん石をクラフトしないとな。
そうして数時間ほど作業をしていると……
「よし、これで最後だ!」
既定の個数の石を作ることができた。後はこれを並べてリングにするだけだ。
俺は闘技場の予定地へと向かった。そこにはキラービートルたちが運んだ石があった。
「キラービートル、もう一仕事頼んでもいいか? この石を俺が指定した位置に配置してくれ」
ここからは俺が現場監督をしながら作業をしよう。
「くれぐれも無理はするなよ。安全第一で頼む」
こうして闘技場のリング建設が始まった。
「この石はこの位置だな。ここに詰めて配置だ……もう少し。右に3センチくらいずらしてくれ。ああ、そこで良い」
キラービートルに指示をしながら俺はリングを完成させた。
「よし! 完璧だ! これでリングが完成した!」
成形された四角形の石を詰めてできた闘技場のリング。
「おお! ここで俺たちは戦えるのですね!」
キラービートルたちがリングを見て興奮している。
「ああ。そうだ、もうすぐこの闘技場はオープンする。その時になったら、お前たちも戦ったり観戦して良いからな」
「やったー!」
さて、リングは完成したけど俺にはまだやることがある。
「次は観客席を作らないとな。そのためには……また石のクラフトが必要だな。石でできた椅子が欲しいところだ。
今クラフト部屋にある石では少し足りそうにない。
ということはまた採掘場に石をもらいに行かないといけないわけだ。
採掘場にある邪魔な石が消費できるのは俺としても嬉しいことではある……あるが……!
やることが……やることが多い。
でも、やるしかない。クラフトの能力を持っているのは俺しかいない。
ということは、俺ががんばるしかないんだ。
みんなが満足する闘技場を完成させるまであと少し。
もうひと踏ん張りをしてがんばるぞ!
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