第22話 焼き魚祭り

 ハンギョジンがこのダンジョンに生まれてから、数日が経過した。


 ハンギョジンもすっかりこのダンジョンに馴染んていて他のモンスターともうまくやっていけている。


 俺が温泉へと向かうとハンギョジンのシャークがゴブリンと一緒に温泉に入っていた。


「ふー。温泉は気持ちいいな」


「ハンギョジンでも温泉に入るんだな」


「なんだよ。魚だから温泉に入るとゆであがるとでも言うのか? オイラは一応半分人間だからこの程度のお湯は平気さ」


 ハンギョジン。変温動物なのか恒温動物なのか……一応は半分は人間だし、温泉入って体温調節ができているなら恒温動物よりなのか?


 その辺の生態が少し気になるところだけど……あまり深く考えないようにしようか。


「俺も一緒に温泉に入ってもいいか?」


 せっかく温泉に来たので俺も温泉に入ることにした。


「あ、イビルハム様。どうぞ」


 シャークとゴブリンがスペースを開けてくれて俺は温泉へと入る。


「シャーク。魚の養殖の方は順調か?」


「ええ。きちんと管理することによって、魚の個体数は増えています」


「それは良かった。次の収穫祭までに全員分の魚は用意できそうか?」


「魚の成長速度次第ですが間に合うと思います。魚の成長にも個体差はありますから」


 まあ、それはそうだよな。同じ種族でも成長速度が違うのは自然なことだ。


 理屈はわからないけれど、ハンギョジンがいると魚の養殖に有利になるんだよな。


「シャーク。お前は釣り堀の中でどういう仕事をしているんだ?」


「イビルハム様。それは企業秘密というやつです。我がハンギョジン一族に伝わる門外不出の方法を使っているのでお教えすることはできません」


 同じダンジョン。ある意味で同じ組織に属しているのに、企業秘密にされてしまった。


 まあ、ハンギョジンにも種族特有の事情があるのかもしれないけど妙に気になるな。


「秘密というのであれば重ねて問うのはやめようか」


「ええ。そうしてくれると助かります」


 本人が秘密にしたいことを無理に聞き出すのも良くないことだな。



 収穫祭の日がやってきた。今回はヒトクイバナのリュウゼツとハンギョジンのシャークがリーダーとなり頑張ってくれたことで、かなりの量の食料が獲得できた。


 それを祝して、今回もお祭り騒ぎをしよう。


「焼き魚うめえ! やっと食えてうれしい! こんなにうまいものだなんて知らんかった」


「本当だ。うめえ! なんだこのうまさ。体が欲していた味がする」


 焼き魚もモンスターたちに好評のようだ。シャークがモンスターのリアクションを見て嬉しそうに笑っている。


「オイラが育てた魚うめえだろ! 遠慮せずに食ってくれ」


「なあ、シャークちょっと訊いてもいいか?」


「はい。イビルハム様。なんでしょうか?」


 これを訊くとなんだか倫理的に問題なような気がするけれど……まあいいか。


「お前ってハンギョジンだよな。半分魚なのに、仲間である魚が食われて大丈夫なのか?」


「あー。別に大丈夫じゃないですか? オイラは半分人間だし、それに魚だって魚を食いますから」


 たしかに? そうかな。そうかも……確かに肉食性の魚とかいるから別に共食いだとかにはならないのか。


「食おうと思えば人間も食えますからね」


「おい、それはやめとけ」


 半分魚だから人間を食っても大丈夫理論なのか? まあ別に人間を食うモンスターも珍しいわけでもないが。


 それでも、俺は元人間だからか、どうしても人間を食うことに対する忌避感はどうしてもある。


「ゲホゲホ……」


 俺たちの会話を聞いて人間のジートが反応してしまう。


「お、おい。俺を食うのはやめとけよ」


「ははは。大丈夫大丈夫。アンタがイビルハム様の味方でいる限りは食わないよ。それにこのダンジョンにはヒトクイバナがいるし、今更だろ」


「む、失礼な。我々だって好き好んで人間を食っているわけではない!」


 ヒトクイバナがシャークに反論する。


「食虫植物だって言うほど虫を食べるわけじゃない。それと同じで食人植物だって仕方ない時以外は人間は食わんぞ」


「おいおい。飯食ってる時に食人トークはやめてくれ」


 ジートの表情が青くなっている。まあ、人間にとっては食事中にされたら嫌な話ではあるな。


 この話の流れになったのは俺がハンギョジンの共食いに関する部分だからどうしても責任を感じてしまう。


 食人トークの部分だけを除けば、今回の収穫祭も成功と言える。


 特に全員分の魚を確保できるようになったのは大きい。これからもハンギョジンたちには魚の養殖に励んでほしい。



 収穫祭で多くのモンスターたちが満足したお陰でDPが飛躍的に伸びた。


 これにて、もっとできることの幅が増えたな。しかし、次はなにを伸ばすべきか。


 今までは俺が割と独断で決めていたけれど、そろそろ民意というものを反映させてみるか?


「リトルハム。ダンジョンのモンスターに聞き取り調査ってできるか?」


「聞き取り調査ですか? できないことはないですが、何を調査すれば良いですか?」


「現状でダンジョンに思っている不満とか、こうしたらいいのになって要望があったらまとめて欲しい」


 その要望を元にダンジョンを発展させていこう。DPはモンスターが暮らしていく内に自然と溜まるものではある。


 しかし、モンスターが生活に満足していなければその量も減ってしまう。逆にモンスターを満足させればDPは必然的に伸びるのだ。


「わかりました。調査に数週間くらいかかりますが、それでも良いですね」


「ああ。構わない」


 現場の声というのも重要だ。トップの判断だけでは手が届かないところというのも実際にはあるだろう。


 リトルハムが聞き取り調査をしている間、彼の業務の一部が滞ってしまう。


 そこは俺も仕事をすることでカバーするけれど、しばらくは大変そうだな。


 それから数週間が経過して聞き取り調査の結果が返ってきた。


「はい、イビルハム様。聞き取り調査が終わりました。今から発表しますね」


「よし、来た」


「まずダンジョン内で現状の生活で満足しているモンスターの全体数をまとめてみました」


 リトルハムが資料を渡してくれる。その資料に書かれているグラフを見た。


 ダンジョン生活にとても満足している57%。満足している23%。普通8%。やや不満がある7%。とても不満がある5%。


 全体の8割程度が満足しているけれど、それでも不満を持っているモンスターがいるな。


 やはり全てのモンスターを納得させえるのは難しいということか。


「不満を持っているモンスターの理由はわかるか?」


「はい。やはり、イビルハム様の教育が行き届いていても、一定数のモンスターは人間を襲撃していた時の記憶が忘れられないようで」


「うーん。まあ、手っ取り早く色々なものを略奪できる村への襲撃はコスパは良いからな」


 倫理的にどうかは置いといての話ではあるが。


「やはりモンスターの中には戦ってなんぼというものがいるそうで」


「たしかに……モンスターの中にも戦闘自慢のやつがいて、その戦闘能力を持て余しているとかはありそうだな」


 しかし、こればかりは叶えるわけにはいかない。人間の村への襲撃をさせるわけにはいかない。


 でも、なにかしらのモンスターの戦闘欲求を発散させる必要があるのも事実だ。どうしたものかね。


「どうしますか? イビルハム様。また人間の村への襲撃を再開しますか?」


「おいおい。せっかく、ジートたちと信頼関係を構築したのに、そんな信頼を損ねるようなことできるわけないだろ」


「しかし、このままでは不満を持っているモンスターが……」


「いいか。リトルハム。信頼を作るのは時間がかかるけど、それを失うのは一瞬なんだ。俺はジートたちとの信頼関係を重視している。それを損なうことはできない」


「うーむ……では、モンスターの戦闘欲求をどうやって発散させるつもりですか? まさかモンスター同士で争わせるわけにもいかないでしょう」


 それはそうである。同じダンジョンのモンスター同士で争わせても不毛なだけだ。


「ん? 待てよ……リトルハム。これはいけるかもしれないぞ」


 俺は妙案を思いついた。これでダンジョン内に不満を持っているモンスターを減らせるかもしれない。

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