第24話 闘技大会
「ふう……」
俺は闘技場建設においての最後のクラフトを行った。
観客席を作り出してそれをキラービートルに運んでもらう。
指定の位置に置かれたことを確認する。
「ヨシ! これで完成だな」
ついに闘技場が完成した。これでモンスターたちを戦わせる場が整った。
「やりましたね。イビルハム様!」
建設を手伝ってくれたキラービートルたちも喜んでいる。
「みんなに闘技場完成したことを伝えるぞ!」
こうして俺たちはダンジョン中を奔走してモンスターたちに闘技場が完成したことを触れて回った。
その結果、多くのモンスターが闘技場に集まることとなった。
「この中で戦いたい血の気の多い奴はいるか?」
「おおおおお!!!!!」
モンスターたちが沸き立った。その中でひと際アピールが激しいモンスターを選ぶか。
「よし、それじゃあ、お前とお前。闘技場にあがってくれ」
俺は2人のモンスターを指名した。1人はゴブリン。もう1人はキラービートルである。
ゴブリンの特徴としては、力はそこまで強くないけれど器用さがウリで武器を扱うことができる。
一方のキラービートルはとにかくパワーが高い。そして甲虫であるから防御も優れていると単純なフィジカルでは強い。
「やったれー! ゴブリン族の意地を見せてやれ! そんな虫けらなんかに負けんじゃねえぞ!」
「虫だってやれるところを見せてやれ! そんな武器も使わなきゃ戦えないような腰抜けに負けんじゃねえぞ!」
観客席のゴブリンとキラービートルが勝手に盛り上がっている。
お互い煽り合って試合前にボルテージを高めている。
「よし、ではルールを確認しよう。武器と防具の使用はあり。ただし、使用できる武器は1つまで。試合の途中で武器の交換は認められない」
武器と防具ありのルールにしないと装備ありきの強さのゴブリンが不利になってしまう。
まあ、ゴブリン同士ならステゴロで戦わせるのもありかもしれないけど。
「お互いに相手を殺してはいけない。相手がダウン中に追撃をするのもなしだ。先に相手を場外に落とすか、相手をダウンさせて10カウント取ったら勝ち」
この辺は基本的なルールだろう。
「その他、ダウンを取れなくても危険だと判断したら、審判が止めに入る。審判はリトルハムが務める。もちろん、審判への攻撃は認められない。審判の言うことには従うように」
「公正公平な審判を務めさせていただきます。審判の決定に不服な時は審議を申し立ててくださいね」
「了解!」
選手たちが基本的なルールを把握したところで、これから戦いが始まる。
俺もこの戦いがどうなるのか興味がある。
「では、俺がこのゴングを鳴らすと試合を始める。いくぞ、。レディー……ファイ!」
カンと俺がクラフトで作ったゴングが鳴る。
こん棒を持ったゴブリンがいきなりキラービートルに殴りかかる。
「どりゃあ!」
ゴブリンがこん棒を振り下ろそうとする。しかし、キラービートルは硬い殻で攻撃を受け止めた。
スピードはないものの、ずっしりとした重量級のキラービートル。その装甲を崩すのは簡単なことではないか。
「反撃!」
キラービートルが角でゴブリンに攻撃しようとする。ゴブリンは盾でキラービートルの攻撃を防いだ。
ガンと盾から音がする。ゴブリンは少し表情を歪ませていた。盾に攻撃の振動が伝わって、少し手が痺れたのかもしれない。
武具を使うゴブリンにとって盾はまさに生命線である。うっかりでも落としてしまったら一気に劣勢になる。
「まだまだァ!」
ゴブリンがこん棒で連続で殴り続ける。キラービートルの一撃が相当効いていて、盾を崩される前に決着をつけようということだろう。
「んぐう!」
キラービートルの装甲が硬いとは言え、何度も叩かれ続けると流石にダメージを負ってしまう。
このままの状況が続けばキラービートルが不利か?
キラービートルはこの状況を打開しようと前に突進をする。
「うお!」
ゴブリンは慌てて盾を構えるもキラービートルの突進によって盾が弾き飛ばされてしまった。
「うおおおおおおおお! やったあああ!」
キラービートルたちはゴブリンの盾が剥がれたことにより、興奮している。
これで戦況は一気にキラービートルが有利になった。
かと思った。しかし、ゴブリンはすかさず盾を拾い、キラービートルから距離を取った。
「ちょこまかと逃げるな!」
キラービートルはもう1度ゴブリンに突進を仕掛けようとする。
無我夢中の突進。キラービートルは捨て身の勢いでゴブリンに向かう。
ゴブリンはニヤリと笑う。そして、斜めに飛び込んでその場から離れた。
「んな!」
キラービートルの先にはリングの場外。突進をしていたキラービートルはいきなり止まることも減速することもできずに、場外へと落ちてしまった。
「キラービートル選手。場外。この勝負ゴブリン選手の勝ち!」
「よし!」
同種のゴブリンが勝ったことで観客席のゴブリンたちが沸き立っている。
一方でキラービートルたちは落ち込んでしまっているようだ。
戦闘能力では互角かと思いきや、やはりゴブリンの方が頭脳では1枚上手だったということか。
戦いにおいては知略も重要である。ずる賢いゴブリンが有利だったのだ。
「く、くそ! 場外負けは悔しいな」
「地形をちゃんと見て戦えよ」
ゴブリンはキラービートルを場外負けさせるために、地形を利用した。
限られたルールを最大限活かしたものの勝利。でも、嵌められたらキラービートルは悔しいだろうな。
「勝者のゴブリンはよくやったな。敗者のキラービートルも残念だったな。でも、これがルールありでの戦いってやつだ」
「ルール無用の戦いなら絶対に負けねえのに!」
「お、言ったな? それじゃあ、デスマッチするか?」
対戦したキラービートルとゴブリンが喧嘩しそうになる。これは流石に止めないといけないな。
「そういうのはやめてくれ。仲間同士でデスマッチするな。それはそれで次に戦いたいやついたら名乗り出てくれ」
2人の戦いを見て興奮したモンスターたちが次々に名乗りをあげる。
ここまで大盛況だと闘技場を作った甲斐があるというものだ。
クラフトが大変だったけれど、モンスターたちが満足してくれたらそれでいい。
その後もモンスターたちの戦いが続いてみんながヘトヘトになるまで闘技大会は終わらなかった。
◇
「うへえ。だりぃ……」
闘技大会で盛り上がりすぎた影響か、モンスターたちは疲れを翌日に持ち越してしまったらしくて労働に影響が出てしまった。
これは完全に誤算だった。闘技場の効果がありすぎたのが問題だったな。
何事も節度を守って楽しむことが重要だと思い知らされてしまった。
「みんな疲れているようだな。これが闘技大会の影響なら1日に組める試合の数も制限しないといけないな。リトルハムはどう思う?」
「そうですね。イビルハム様。私もそれに賛成です」
無制限に試合をやらせた結果がこれなら、やはり試合の回数に制限を設ける方が良いだろう。
ちょっとモンスターから不満は出るようだけれど、今日の仕事効率が下がっているのを根拠にすれば納得はしてくれるだろう。
まあ、なんにせよ娯楽とは正しく向き合っていかなければならない。
人生において娯楽は必要だけど、娯楽ばかりでも人生は成り立たない。
やはり、きちんと労働をして生産しないと生活できないからな。
まあ、なんにせよ。今まで労働ばかりで食以外の娯楽がなかったダンジョン生活。
きちんと興行として成立するものができて良かった。やっぱり、モンスターの生の声を聞くことの重要性を再認識した。
不満を持つことは悪いことばかりではない。こうした新しいなにかが生まれるきっかけになるのだから。
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