第15話 釣り対決

「ふあーあ……」


 俺は目を覚ます。今日も1日ダンジョンで生活をしていこう。


 俺が寝室を出ると早起きのモンスターたちが既に作業を始めている。実に勤労なモンスターたちである。


 俺も彼らに負けないように今日もしっかりと釣りをしないとな。


「イビルハム様おはようございます」


 リトルハムが釣り竿を持って話しかけてきた。こいつもすっかり、釣りをする気満々であるな。


「リトルハムおはよう。それじゃあ早速釣りに行くか」


「はい」


 こうして俺たちは釣り堀へと出かけた。そして、釣り糸を垂らして魚がかかるのを待った。


「イビルハム様。釣果で勝負しませんか?」


「お、釣り初心者のお前が俺に勝つつもりか? 中々面白いことを言うじゃねえか」


 俺としてはこういう勝負は嫌いな方ではない。むしろ、目標があった方が燃えるタイプなので、勝負をする方がモチベが沸きそうである。


「イビルハム様。ビギナーズラックというものがありますので」


「良いだろう。今から魚を多く釣った方が勝ちな」


 こうして、俺とイビルハムの釣り対決が始まった。


 釣り糸を垂らした状態でしばらく待っている。すると、釣り竿がぴくっと動いた! リトルハムの方の釣り竿が。


「お、かかりましたね」


 リトルハムは釣竿を引いて魚を釣ろうとする。


「お、いいぞ。リトルハム! その調子だ!」


 勝負だと言うのに俺は相手のリトルハムを応援してしまっている。でも、仕方ない。部下にも釣りの楽しさを知って欲しいから、ここで成功体験を積んで欲しい。


「わわ、すごいパワーです」


「大物ってことか! よし、しっかりと腰に力を入れて魚に負けないようにしろよ!」


 「は、はい!」


 リトルハムは体躯が小さいのでパワーはあんまりない。だから、このまま魚にやられそうになっているのかもしれない。


 でも、リトルハムならやれる。俺はそう信じて応援を続けた。


「お、な、なにか見えてきました」


 水面に大きな魚影が見てくる。リトルハムはがんばってその魚を引っ張って釣りあげようとしている。


「後少しだ! リトルハム! がんばれ!」


「がんばります!」


 リトルハムは歯を食いしばり、根性を見せて大きな魚を釣り上げた。


「お、おお! これは大物だぞ!」


 俺は思わず感嘆の声をあげた。俺が先日釣り上げたどの魚よりも大きい魚で中々に食べ応えがありそうである。


「や、やりました! イビルハム様!」


 地上でピチピチと跳ねる大きな魚。これで備蓄食料に大きな加算があり、俺としては嬉しい。


「よくやった。リトルハム。流石は俺の部下だ」


「へへへ」


 俺に褒められてリトルハムは嬉しそうにしている。そんなリアクションをされるともっと褒めてやりたい気分になってくる。


「でも、リトルハム。俺は負けないぞ。お前以上の大物を釣り上げてやる」


 釣った魚で勝負する形式ではあるが、大物を釣り上げなければ俺も悔しい気持ちになってくる。


 小さなリトルハムが大きな魚を釣ったんだから、それよりも大きい体の俺が釣れなくてどうする。


 そう思って糸を垂らしていると魚が引っ掛かる。俺は釣竿を引いて魚を一気に釣り上げた。


「…………」


「おお、イビルハム様やりましたね!」


 リトルハムは盛り上がっているところ申し訳ないのであるが、俺が釣り上げたのは稚魚であった。


「リトルハム。こいつはまだ子供だ。成長するまでは見逃してやろう」


 俺はそう言って、稚魚を釣り堀の中へと返した。大きくなってからまた俺に釣られに来い。


「ええ。イビルハム様。逃がしてしまうんですか?」


「仕方ないだろ。稚魚ばかり取っていると水産資源がなくなってしまうからな」


「でも、それだと勝負はどうなるんですか?」


 確かに釣り上げた魚の数が大きい方が勝ちというルールである。これは釣りあげた判定になるのだろうか?


「いや、これをカウントするのは俺のプライドが許さん。稚魚はカウントしない」


「おお、流石イビルハム様です。正々堂々となさっていますな」


 気を取り直して俺はまた釣り糸を水面へと垂らす。


 今度こそ大物が釣れるように釣り竿に念を込める。俺の想いが釣竿に届け!」


 しかし、想いだけで簡単に釣れるほど釣りと言うものは甘くはない。しばらく釣りに引っ掛からないまま時間が過ぎていく。


 だが、気長に待っているとヒットするのも釣りというものだ。俺の釣竿にまた魚がヒットした。


「お、いいぞ! この感覚。今度こそ大きい!」


 俺は釣竿をぐうっと引く。この感覚は確かに大きい。俺は腰に力を入れて一気に釣竿を引き上げる。


 ざばばと水面から音がする。大きな魚が水面に顔を出す。魚は抵抗を試みているが、俺の方がパワーは上だ。このまま一気に釣り上げる!


「イビルハム様! がんばってください!」


「ああ!」


 リトルハムの声援を受けて俺は魚を釣り上げた。


 大きさは……リトルハムの魚と大体同じくらいだな。


 それなりの大物が釣れたわけではあるが、大物勝負に勝ったかは微妙なところである。


「おお、イビルハム様の魚は大きいですね」


「まあな」


 でも、一応は部下と同じ大きさの魚を釣り上げたことで面目は立ったわけである。後は数を多く釣り上げて勝つだけだ。


「リトルハム。俺は負ける気はないぞ」


「はい。私だって負けません」


 こうして俺たちは2人で釣りを続けた。中々にいい勝負で、リトルハムが釣り上げると俺も続いて釣り上げ、俺が釣るとリトルハムも釣るシーソゲームが展開されていく。


 そうして、魚を釣り上げた数、その結果が出た。


 俺が釣り上げた数は8匹。リトルハムが釣り上げた数は7匹。ギリギリ俺の勝ちだった。


「よし! 俺の勝ちだ!」


「流石です。イビルハム様。やっぱりイビルハム様には勝てませんね」


 リトルハムはパチパチと拍手をした。今日は中々釣り上げた数が多いな。よし、この魚を持って帰ってみんなに食わせてやるか。


 俺は釣りあげた魚をかまどで焼き魚に変えていく。こんがりと焼けた魚からは香ばしい匂いがしてきた。


 ここは食べたいけれど、ガマンしよう。俺はもう魚を食った。他のモンスターに食わせてやりたい気持ちの方が強くなってくる。


「よし、それじゃあそろそろ配給を開始するぞ」


 俺はパンやらジャガイモやら焼き魚やらを用意してモンスターたちのところに向かった。俺が配給開始の合図をするとモンスターたちが集まってきた。


「みんな、聞いてくれ。今日の配給は焼き魚がある。ただし、全員分は釣れたわけではない。そこで、焼き魚を食いたい連中は手を上げてくれ」


「うおおおお!」


 モンスターたちが一斉に手を上げる。まあ、そりゃそうか。ここのモンスターたちは食に興味がありすぎるからな。


「話し合って決めてもらうのは無理そうだな。というわけで、これから公平にジャンケンをしてもらう。ジャンケンに勝ったモンスターは焼き魚付きの食事だ」


 モンスターたちはジャンケンをし始める。ジャンケンの結果に一喜一憂をするモンスターたち。


 そして、ジャンケンの成績が良かったものから順番に大きい魚を取っていきそれを食べ始める。


「うお。この魚うま。皮はパリっとして身には脂が乗っていて、口の中に魚の旨みの大洪水が広がってくる!」


「イビルハム様! 俺たちも釣りがしたいです! そして、魚を大量に獲りたいです」


 焼き魚を食べたモンスターたちはそのうまさに感動して、魚をもっと獲るように要求してくる。


「まて、落ち着け。魚も無限にいるわけじゃない。獲りすぎると釣り堀の中の魚がいなくなってしまう。釣りができるモンスターにはきっちり制限をかけないとな」


 時間経過で水産資源は回復していくけれど、それより獲るスピードの方が上回ってしまったら2度と回復しなくなる。俺はそれをモンスターたちに説明する。


 モンスターたちはしぶしぶと納得していく。


 うーん。いつかは釣り堀も増設なりなんなりして、水産資源の回復速度を上げる必要があるかな。

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