第16話 樹の育成計画
そろそろDPが溜まって来て、新しい施設が作れるようになってくるころである。
俺はついに植林場を作ろうと思った。
DPが増えて水棲モンスターを新たにダンジョンの住人として迎え入れるのも選択肢にあるにはある。
水棲モンスターが増えれば、その分水が豊かになる。釣りで獲得できる水産資源も回復しやすくなったり、種類が充実したりする。
けれど、やっぱり今は木材不足をどうにかしないことにはどうにもならない。
モンスターたちにダンジョンから出てそこら中の樹を切ってくるように命じることもできるけれど、それは効率が悪そうである。
やはり運搬の手間を考えるとダンジョン内で植林して伐採して循環させる方が効率は良い。
というわけで、俺はダンジョン内に植林場を設置することにした。DPを大量に消費するけれど、今のうちにやっておかないと後々に困ることになるからな。
植林場を作り、そこに木材となる苗木を植えていく。苗木は種と比較して消費するDPが多いけれど、仕方ない。種から苗を作ってってやっていると時間がいくらあっても足りない。
これから先、モンスターを増やしていくと今以上にツールの需要が増えてくる。ツールを作るにはやはり木材は必要不可欠なのである。
モンスターを増やしてから植林するのでは遅い。手持ち無沙汰にしているモンスターがいるのはあまりよろしくない。
これで木材となる樹の苗を植えることができた。
それじゃあちょっと植林場の方を見に行くか。
「リトルハム! いるか?」
「はいはい。なんでしょうかイビルハム様」
俺が呼びかけるとすぐにリトルハムが来てくれた。俺の補佐として一応は植林場の見学をさせておいて損はないだろう。
「これから新しく作った植林場に向かう。お前もこの植林場の仕様は知っておいた方が良いと思ってな」
「はい。イビルハム様のために一生懸命勉強をします!」
「ふむ。勉強熱心なのはいいことだ。それじゃあ、行くか」
俺はリトルハムと共に植林場へと向かった。植林場にはすでに小さい苗木が設置されていて、それが育つのを待つ感じである。
苗の間隔は割と広くて結構植林場がスカスカになっている。でも、これにはちゃんとした理由があるのである。
「イビルハム様。ちょっと植えている苗が少なくありませんか?」
「まあ、それはわざとだ。植林は複数のグループ単位で行うことに決めているんだ」
「グループ単位ですか?」
リトルハムが怪訝な顔をしている。まあ、きちんと説明しないとわけがわからないだろう。
「まず、大前提として樹というものは成長するのに時間がかかる。それはブルーベリーで学習済みだよな?」
「はい。そうですね」
「1度に植林をした場合、木材として使えるようになるのは大体みんな同じくらいのタイミングになる」
「まあ。栄養に偏りがなければそうなっちゃいますね」
リトルハムは俺の話をきちんと聞いてくれている。現状、このダンジョンにいる俺の部下の中で最も頭が良いのがリトルハムである。
もし、リトルハムに理解できない事象であれば、それはもう他のモンスターには絶対に理解できないことと一緒である。
「適切に成長してくれたタイミングで一気に樹を伐採するとこの植林場に樹がなくなってしまうだろう?」
「意図的に残そうとしない限りはそうなりますね」
木を残すことのリスクも一応はある。それを説明しよう。
「樹は再現なく成長してしまう。そうなると伐採と加工が大変になるし、大きな樹に栄養が吸われて他の樹が育ちにくくなる欠点がある」
「だから、樹を残すのは悪手だから、残しすぎることもできないから一気に伐採するのが正解ってことですか?」
「ああ。そうなると木材が手に入るタイミングが集中してしまうし、そのタイミングの感覚も長くなってしまう。そうなるとなにが起きるのか」
ここからが本題である。
「まず、木材が余った時にその木材を活用できなくなる。木材も保管する場所が必要なのはわかるな?」
「はい。ダンジョンのスペースは無限じゃありませんから」
「使わなかった木材を持て余すことになるが、後の木材不足に備えてまた植林をしなければならない」
「木材は使っている内にいつかは減るものですからね」
「しかし、木材の使用量の目途が立たなければ、木材を植える量を試算しにくいんだ」
リトルハムは少し考えてる。そして、答えが出たのか口を開いた。
「多く植えすぎた場合は更に倉庫を圧迫するし、少なく見積もった場合は木材が足りなくなってしまいますね」
「そう。まさにそれ。でも、俺がこれからやろうとしている植林は、Aグループの苗を植える。その苗がある程度成長したらBグループの苗を植える。こうすることで伐採のタイミングをずらすことができるんだ」
「あ。Aグループの伐採をした後に、Bグループの樹が次の伐採を近い内に控えているってことですか?」
流石リトルハム。話の要領を得ている。
「ああ。そうなると、木材を保管するスペースも節約できるし、今ある木材と植えている苗の本数を元に、次に植えるCグループの苗の株の数を調整することができる」
「あ! 倉庫にある木材と植林場にある将来、木材になる樹と2カ所で実質的に木材を保管できるから、倉庫を圧迫しませんね」
「木材不足を感じていればCグループの苗を増やせばいいし、そうでないなら減らせばいい。伐採のスパンを短くするとこういうメリットがあるんだ」
木材を無駄に余らせるということは、苗を植える分のDPを無駄遣いすることと一緒である。DPはこれから先も、かなり貴重になってくるので無駄遣いは避けたい。
だから。初回から植林場のスペースをある程度余らせて後で調整が効くようにするのが実は正解な行動なのだ。
「というわけで、リトルハム。俺たちはこれから、木材の量を調整する必要がでてくるわけだ」
「そうですね」
「そうなってくるとその量を俺の一存で決めるのも危険すぎる。リトルハムと相談しながら、必要な木材の量を試算して、適切に植林していきたい」
「はい! イビルハム様の補佐ならお任せください。私がちゃんと計算し尽くしてごらんにいれましょう!」
正直、1人でなんでもかんでも決めるとその責任が全て俺に乗っかかることになる。それはそれで避けたいところではある。
リトルハムも巻き込む形になると思うけど、こいつもこいつで中間管理職で、がんばってくれているので俺が知らない情報を知っているかもしれない。
ダンジョンの規模も大きくなってくると俺1人で抱えきれるほどの情報量じゃなくなるからな。
今でも結構ギリギリだし、これから先ダンジョンを拡張すれば完全にパンクをしてしまう。
だから、リトルハムの補佐も必要なのである。
まあ、実際のゲームだと主人公である勇者は方針を決めるだけで、後は勝手にダンジョンの住人が調整してくれるのでそこまでする必要はないんだけど……
俺の場合は、まさにその調整役という立ち位置に転生してしまったので、かなり大変な立場である。方針を決めてくれる勇者もいないので、 ダンジョンの方針も俺が決めないといけないし、やることがまあまあ多い。
でも、これで木材問題は解決できそうだ。こうして1つずつ問題が解決してくのをなんだか楽しくなってくる。
木材問題を解決したら……しばらくは急に解決しないといけない問題もなくなるな。
ということは、俺の好きなようにダンジョンを拡張できるってわけだ。農業は結構発展してきたし、やっぱり次は手を付け始めた水産をどうにかしたいかな。
今のところみんな獲れている魚を順番に食べてくれてはいるが、モンスターが増えていけばいずれ魚を食べられないことを不満に思うやつも出てくるだろう。
せめてモンスター全員分の魚をまかなえるようにはなりたいな。
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