ちょっとええか?裏
オフィス街を待ち合わせ場所に向けて歩く。
久々のオフやからって家でのんびりしすぎた。
待ち合わせの時間に間に合うかわからん。
少し焦りながら曲がり角を曲がる。
すると、誰かとぶつかった。
いつもやったら気配感じるんやけどな。
今日は焦ってるからしくじったわ。
反省しながら、ぶつかった相手を確認する。
相手は僕より少し背が低いサラリーマン。
年齢も近いんやろか。
まぁこのお兄さんも疲れてはるんやろう。
今日は金曜日やしな。
ぶつかった衝撃でズレてしまった眼鏡を戻しながらそう思った。
そのとき、見えてもうた。
このお兄さん、疲れてるんやろうけど…
憑かれてもいるわ。
流石に見過ごせへんと思った僕は、お兄さんに声をかける。
「お兄さん…ちょっとええか?」
すると相手の男の人は少し下がって、腰を90度に曲げて「すみませんでした!」と謝ってきた。
いや、お兄さん。
謝るんは大事やけどな、お兄さんの方が大変やねん。
そう思って僕は話を続ける。
「いやいや、お兄さん。謝罪はええねん。それより、ちょっと時間あるか?」
するとお兄さんは「はい…大丈夫です…」と答えてくれた。
なんかえらいしょぼくれてるけど、今は気にしとる場合やない。
目の前の憑かれてるお兄さんを、僕はほっとかれへん。
「そら良かった。んじゃ、ちょっと着いてきてぇな」
そう言って歩き出す。
祓うにしてもここじゃあかん。
大衆の目につくとこで魔術
そやから人目の少ないところ探さなあかん。
そう思いながら、後ろのお兄さんを気にしながらオフィス街を歩く。
すると、ちょうどいい人気のない路地を見つけた。
僕は簡単な人払いの結界を張りながらその路地を中ほどまで進む。
「ここら辺でええかなぁ」
そう呟きながら僕は振り返る。
すると、お兄さんは
「えっと…どのくらいお渡しすればいいですか?」
そう言いながら財布を出しとった。
僕は驚きすぎて疑問がそのまま口から出てもうた。
「お兄さん…何で財布なんか出してはんの?」
「え…お金を取るためにここに連れてきたのではないんですか?」
僕は思わず
いや、お兄さんからしたら笑い事じゃないんやろうけどな。
全部話してもいいんやけど…一般の人に話しても怒られるんは僕や。
せやから、「ちゃうちゃう!ただ人目が少ない方がええからここに連れてきたんや」と言って財布をしまってもらう。
そしてある程度ぼかしながら話を聞いてみる。
あんな見た目やけど、一応聞いてみな何かわからんからな。
「お兄さん、最近悩みとかないか?妙な事とか」
そう聞くと、お兄さんはよくわかってないんか気のない返事が返ってきた。
でもちゃんと聞かなあかんから「何でもええから言ってみ」と念を押す。
するとお兄さんは
僕はその症状を整理しながらさらに話を聞く。
「ここ数日身体が重うて、頭がぼーっとするなぁ……それ、いつからや?」
「えっと…月曜ぐらいからです」
「なるほどなぁ…。お兄さん、最近妙なとこ行ってないか?」
「妙なとこ?」
「せやなぁ…人が寄り付かんとことか」
「えっと…先週の土曜日、大学時代の友人たちと肝試しに山奥の廃墓地に行きました…」
あぁ、そりゃあかんわ。
思わず「あぁ…やっぱりなぁ…そりゃあかんわお兄さん」って口から出てまうぐらいには。
そりゃそんなとこ行ったら、こんな
…このお兄さん憑かれやすい体質なんやろか。
いや、今はそんなこと考えてる場合やない。
とりあえず祓わなな。
僕はそう思ってお兄さんにお願いをする。
「…んまぁええか、とりあえず目ぇ閉じてくれるか?」
「は…はい?」
やっぱりお兄さんは見えてないからか現状がようわかってないみたいや。
説明はできひんから「お兄さん、ええから早う」と言って急かす。
するとお兄さんは、目を閉じる。
あと歯も食いしばっとるなこれ。
別に歯は食いしばらんでもええねんけど…まぁ、気合い入れてくれた方が霊の方に引っ張られへんからええか。
僕は眼鏡を外す。
さっきまではうっすらとしか見えてへんかった、お兄さんの後ろに大きな黒い影が今はちゃんと見える。
黒い影は一番上に大きな顔があってお兄さんよりもサイズが大きい。
あと他にも人の顔が
うすうす思っとったけどこれ、結構強い霊なんちゃうか?
いや、今はそんなこと言うてられへん。
他にも見えてまう前に祓わなな。
お兄さんに憑いてる霊をまっすぐ見据えて、右手を銃の形にして構える。
今日はオフやったから魔道具は持ってへん。
だから素手だけでやらなあかん。
「何で憑いてるは知らんけど、悪いけど祓わしてもらうで」
そう呟いてから右手の指先に魔力を集中させる。
「人に仇名すこの世ならざるモノ。僕のこの一撃で、お帰り
そう呟きながら、僕は魔力の塊を指先から放つ。
霊の1番大きな顔の眉間を狙って。
僕の魔力の弾丸は一直線に霊の眉間へ向けて飛んでいき、霊を貫いた。
そして霊は霧散した。
…いやいや、あんなけ存在感あったのにこれで消えるんかいな!
いくら言葉紡いで威力上げたとはいえ、大きさと存在感にしては早く消えすぎやろ!
もしかして…分霊かなんかやったんか?
そうなると…面倒やなぁ…。
絶対、協会に報告入れなあかんやん。
でもそれは後回しや。
とりあえずお兄さんの状態を確認せな。
そう思って僕は眼鏡をかけてからお兄さんに「もう目ぇ空けてええで」と声をかける。
目を開けたお兄さんは何か「腑に落ちへん」って顔をしてる。
特になんも変わってないんやろか。
もう霊は祓ったし、気配も残ってないんやけどな。
そう思いながら「身体、どないや?」と声をかける。
するとお兄さんは両方の掌を見てから、肩とか足とか手首とか動かしてる。
「さっきまでと…全然違います」
「そら良かった!」
お兄さんは嬉しそうな声でそう言った。
それにつられて僕も嬉しくなる。
見えないモノに困ってる人を助けたい。
だから僕は街中で憑かれてる人見かけたらほっとかれへん。
そう思ってるとお兄さんは「何をしたんですか?」と聞いてきた。
こればっかりはほんまに言ったら僕が怒られるからなぁ。
それに、好奇心は猫を殺すとも言うしな。
もし教えてもうて今度はもっとヤバいこと。
それこそ、死なれたら困る。
そうなったら今祓った意味がないわ。
そう思って、僕はちょっと脅かすことにした。
「お兄さん…世の中にはな、知らん方がええことが
「は…はい…」
「これに懲りたら、もう
そしてこれ以上聞かれないために「ほら、わかったならもう行きなはれ」と言いながらお兄さんの肩を掴んで、180度体を回転させる。
そして来た方向に向けて背中を押す。
お兄さんが数歩前に進んだのを見て、僕も背中を向ける。
そして僕自身に認識阻害の魔術を使う。
これでお兄さんは僕のことが見えへんはずや。
もうこんな
そう思いながら、僕はお兄さんと反対方向に歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます