その後、やってもうた

 この路地は反対側もまた別の通りに出れるようやからな。

 僕はこっちからここを出よ。



 …というか僕、冴と待ち合わせしとったよな?

 ……もしかして僕…ヤバい?


 そう思ってポケットからスマホを取り出す。


 時間はとっくに待ち合わせを過ぎてた。


「あかんわこれ!僕殺されてまう!」

「誰に殺されるって?」

「あ」


 僕はその聞きなれた声に慌てて顔を上げる。

 そこには僕と同じように正装姿の同僚、古堅ふるかた さえが立ってた。

 どう見ても怒ってる。


 冴は怒らせたら怖い。

 長い付き合いやから嫌というほどわかってる。

 だから僕は慌てて口を開く。


「さ、冴ちゃ~ん!今日も偉い別嬪さんやなぁ!」

「その呼び方と話し方、やめて」


 …既に手遅れやわ、これ。


「で、何してたの」

「あ、いや…これはやなぁ…その…」

「まぁ見てたからわかってるけど。さっきの、見掛け倒しだったの?かなり大きそうだったけど」

「な…いつから見とったんや…」

徹也てつやが霊を祓う前から」

「なんや…そんな前から見とったんかいな…」


 どうやら完全に無駄な足掻きやったらしいわ。

 見られたもんは隠されへん。

 僕は腹をくくって「で、どうだったの」と聞いてくる冴に話すことにした。


「見た目と存在感は大きかったんやけどなぁ…なんかあっさり消えたわ」

「つまり…分霊とかの可能性があるのね。あの人、どこであの霊あれを?」


 やってもうた。

 「山奥の廃墓地」ってことだけ聞いて、ちゃんとした住所聞くの忘れとった。

 でも住所聞くの忘れたって言ったら…冴にどえらい怒られる。

 何て言ったらええやろか…。


 そう悩んでると、先に冴が口を開いた。


「…聞いてないのね」

「あ、いや、違うんや冴ちゃん。」

「じゃあどこなの」

「そ、それはやなぁ…」


 僕がそう言うと、冴はため息をついた。


「まぁいいわ。徹也が適当だから私が面倒見させられてるわけだし。ほら、行くわよ」

「行くって…予約の時間は過ぎたやろ…?」

「えぇ。誰かのせいでね。それに行くのは支部よ。慰安会は中止。

 あの霊の本体がいるなら祓わないといけないでしょ」


 冴はそう言って路地から出て夜の街へ歩き出す。


 僕は「ちょっ!待ってな冴ちゃん!!」と言いながら後を追いかける。




 僕たちの職業はなり手が少ない。

 下手したらいつ死ぬかわからんからな。



 それでも僕は、見えないものが原因で困ってる人を助けたい。



 だから僕、武内たけうち 徹也てつやは魔術師をやってる。

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「お兄さん、ちょっとええか?」 Remi @remi12

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