第58話 片陰の街

 ここは、世間から離れた

浮浪者が住み着き、強盗、盗難、殺人が

多発する危険な街……。


 そして、男性が好んで

通う店が至る所に点在する……。


 陽の当らないこの街を

人は皆『片陰の街』と呼ぶ。


 大陽が西の空に沈むと、

ネオンの光が一斉に天に向かって放たれる。

 今夜も、この危険な街に誘われて、

世界中から『悪を好む輩が』集まって来る。


 「はじめまして、ようこそいらっしゃいました」

煌びやかな衣装を身にまとったコトが、

店長にエスコートされて、優しく微笑む。

 

 「はい、あがったよ……みんな気張るよ」

 店の厨房では、今日もいつもと変わらぬ

声が響き渡る……。


 「ラーメンおまち……」

 店主から差し出されたラーメンを

美味しそうに食べるレイ……。


 「ああ、わかった……」

 スマホを耳に当てた武蔵が微笑む。


 いつもと変わらぬこの街の日常……。

 「はぁ、はぁ、はぁ……」

 かび臭い、湿気をおびた古いアスファルトを

駆ける靴音……。


 カンカンカン……

鉄錆の匂いがする階段を下りる隼人……

階段下に立つと、夜空を見上げ、

遠くから聞こえて来る靴音に耳をすますと、

優しく微笑んだ。

 

 近づく足音が、隼人の前方で止まると、

満面の笑みを浮かべた鈴香が

隼人の腕の中に飛び込んできた。

 「ヒカル……」と呟く隼人。

 片陰の街の一角で、

抱き合う男女……。

 それは隼人と鈴香の姿……。


 私は、彼の横顔を見たあの瞬間、

彼に運命を感じた。

 

 彼とならどんな場所でも生きていける。


 だから、私は陽の当らないこの街で……


片陰の街で……


彼と一緒に『ヒカル』として生きていきたい……。



 武蔵が握るメイドから手渡された手紙には

そう綴れていた……。

 

 

 そして今夜も、片陰の街で……

新たな物語がはじまる……。



  ~片陰の街 完~


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