第56話 戦いの果てに
タワーの屋上に鬼神に
連れて来られた鈴香……。
目の前には、ヘリコプターが
離陸の準備にとりかかっていた。
ヘリの前には、10人程の傭兵が
鬼神と鈴香を出迎える……。
「こっちにこい。これに乗るんだ」
「いや……離して……隼人さん、助けて」
抵抗する鈴香に鬼神が、
「いくらあがいても無理だよ。
アイツは、今頃私の部下に、銃弾をぶちこまれて
いるだろうからな……」
とヒカルの耳元で囁いた。
「そんな……」
力を失くし座り込むヒカル……。
傭兵が両サイドから鈴香の腕を掴むと
彼女を立たせた。
バキューン、バキューン……。
鈴香の両サイドの傭兵が座り込んだ。
「あいにく……まだ死んでないんだな~」
隼人が叫んだ。
「隼人さん……」
鈴香が彼の名前を叫ぶと、
豹変した鬼神の形相と共に彼が握りしめて
いた拳銃の引き金が一気に引かれた。
パンパンパン……。
数発の発射音が聞こえた。
身をかがめた3人の隙を見て、
鬼神が鈴香の腕を握り、強引にヘリに
乗せようとすると……
バーン、バーン、ズドーン、ズドーン。
下の階から激しい爆破音が聞こえて来た。
傭兵が鬼神のもとに駆け寄ると、
ラボの全フロアが制圧され、機密事項の
薬剤のデータ、貯蔵プラントを含む
すべてが爆破されたことを報告した。
半狂乱状態になった鬼神は……
「おまえら、皆殺しだ。タワー全体を破壊しろ」
と叫んだ。
ドドド……ドドド……ドドドド。
突然、鬼神と傭兵の前に浮上してきた
ヘリコプターが姿を現した。
パキュン……プス、プス……。
パキュン……パキュン。
開いたヘリのドアから、凄腕スナイパーが
傭兵を次々に狙撃する。
傭兵は、一斉に散らばると、攻撃を開始した。
隼人たちのもとに村山と美雪が駆けつけた。
屋上で繰り広げられる銃撃戦……。
鬼神が所有するヘリコプターの離陸準備が整った。
激しく回りだすプロペラ音……。
鬼神は鈴香をつれて乗り込もうとする……。
嫌がる鈴香が、鬼神を振り切り、
隼人のもとに向かって走り出した。
スナイパーは、咄嗟にヒカルを狙う傭兵を
撃ち抜く……。
美雪と村山も、同様に傭兵に狙いを定め
銃を連射させたが……
隼人に駆け寄る鈴香に銃口を向けた鬼神……
それに気がついた隼人が、彼女を受け止め
彼女から少しだけ身体を横にずらすと、
銃を構え、彼女の肩越しに引き金を引いた。
パン……パン……
二発の銃声が辺りに響き渡った……。
「隼人……さん?」
その場に膝ざまづいた隼人は、
そのまま、地面に倒れ込んだ。
「ははは……ざまあないな……死んでやがる」
鬼神が高らかに笑った瞬間……
「うぐっ……ぐはっ……」
鮮血を吐いた鬼神がその場に大の字に倒れた。
隼人が撃った弾丸は、鬼神に命中し、
致命傷を負わせたのだった。
その後、傭兵たちは、武蔵部隊によって
制圧され、一人残らず逮捕された。
「隼人さん……隼人さん……」
隼人を抱きかかえ、泣き叫ぶ鈴香……。
そこへ、レイとコトが歩み寄ってくると、
「兄貴、いつまでそうしてるんだよ」
「ちょっと~、死んでないんだよね?」
と呆れ顔で呟いた。
「え?……生きてるの……?」
鈴香が目を大きく見開き隼人の顔を
見ると、微笑みながら隼人が目を開けた。
「隼人さん生きてるの? 撃たれてないの?」
驚く鈴香。
「えっと、その……撃たれたんだけど、
これ……に命中したみたいで……」
そう言うと隼人は、上着をめくり懐の
サバイバルナイフを見せた。
「え……え~」
驚く鈴香……。
隼人が懐に忍ばせていたサバイバルナイフに
食い込むように命中している弾丸……。
隼人の脇に座り込んだ村山が、隼人の懐から
弾丸の刺さったサバイバルナイフを取り出すと、
「鬼神の射撃能力とこのナイフに感謝するんだな」
と呟いた。
「本当、昔から悪運だけは強いんだから……」
腰に両手を当てた美雪が呆れながら言った。
「隼人さん……よかった、よかった」
涙を流しながら隼人を抱きしめる鈴香。
「痛ててて……ヒカル痛いよ」
隼人の言葉に慌てて彼の身体から
自分の身体を離す鈴香。
心配そうに彼の顔を覗き込むと……
「隼人さん、大丈夫? こんなに怪我して」
と呟いた。
「あぁ……美雪の言った通り、屋上に辿り着いた
途端に鎮痛剤の効き目が切れたみたいで……
今はもう、身体のあちらこちらが痛いよ」
隼人が苦笑いをした。
隼人の頬に、そっと手をあてたヒカル……
「隼人さん……また会えてよかった」
それに応えるように、優しく微笑んだ隼人も、
「ヒカル、俺はいつだっておまえを守るし、
どんなことがあってもおまえを助けにくる……
そう……決めたんだ」
隼人は、自分の頬にあてられた鈴香の手を
握ると傷だらけの身体でゆっくり起き上がり、
鈴香を抱きしめた……。
抱き合う二人を遠くから見つめる遠山……。
そして、彼の肩にそっと手をおく武蔵。
「久しぶりだな……武蔵……。
今回はお前の息子に助けられたよ。
おまえは養父といってるが、
本当はおまえと彼女の子供なんだろ?」
遠山が呟いた。
「ああそうだ。あれは俺の本当の息子だ。
仕方ないんだよ。彼の母親との約束でな……
危険な任務を子供にはさせたくない……
って言われてな。だから、父親の存在を消して
彼女が一人で育てているように装っていた。
でも、彼女が任務中に亡くなって……。
その後、隼人を引き取り、同時期に
街に流れ着いた女性を建て前上、
後妻にしたが、そいつは18歳の隼人に
手を出した。
俺は、その女性を風俗に売り飛ばした
ことにして、あの街から追い出した。
そして、彼女との約束を守るために、あの子に
防衛と攻撃の手段やあらゆることを教え込んで
わざと私から遠ざけた……」
「でも、彼は立派に成長し、
自分の力でのし上がり、このドリーム・タウンに
一人で乗り込んできた……
名実ともに地位と名誉を身につけた
戦闘員として……一人の女性を助けるために」
遠山が微笑んだ。
「ははは……彼は喧嘩が強い、
ショコラ会社の社長……一般人だよ」
武蔵が微笑んだ。
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