第54話 敵と味方

 「はぁ、はぁ、はぁ……」

 バキューン、パン……パン……

 発砲音を耳に、専用EVを目指す隼人。

 ヒカルから渡されたリモコンを操作し、

専用EVに乗り込んだ……。

 追手の傭兵が銃を構えるが、

隼人の引き金を引くタイミングが

わずかに勝ると、彼等の銃が床に

弾け飛んだ……。


 その隙を見てEVのドアを閉めると、

隼人は、最上階のフロアを目指した……。


 「こっちだ……」

  鬼神から腕を掴まれ最上階フロアに

連れて来られたヒカル……。

 フロアには、ヒカルの父、遠山会長と村山

がいた。

 鬼神の豹変した態度に驚いた遠山が

 「鈴香……」

 と叫けぶと、

 「鬼神君……どういうことだ?」

 と語気を強めた。


 鬼神の後ろに傭兵部隊が

走り込んで来ると、村山と遠山の方へ銃口を向けた。


 「お父様、透さん……彼はお父様を

騙していたんです。ラボで開発されているのは

新薬ではなく……人の記憶を操作できる薬です。

 その薬を開発するために治験者に何回も薬を

打ち続けています。中にはすべての記憶を

消されて廃人のような状態の人もいました。

 私は、偶然にその現場を見てしまい、

鬼神に記憶を消す薬剤を投与され続けてきました。

 この男は、この遠山財閥を隠れ蓑にして、

薬剤を密輸して、財閥ごと乗っ取るつもりなんです」


 「だまれ……この女(アマ)……」

 鬼神がヒカルの頬を叩くと彼女が、

床に倒れ込んだ。


 「鈴香、遠山貴様~、

娘にむかってなんてことを……」

 憤る遠山に鬼神が挑発するように、

彼女の髪を掴むと、

 「なんだ……記憶が戻ってるじゃん。

せっかく、会長を殺して、

鈴香、おまえのすべての記憶を消して俺だけの

ものにするはずだったのに……

ははぁ~ん、さっきのやつは演技だったんだな」

 と言うと鬼神は彼女を踏みつけた。


 「私は、記憶を消されてなんかいない……」

 ヒカルが呟いた。


 「なに? どういうことだ……」

 鬼神が彼女の顔を睨みつけた時だった……。


 パーン、パーン。

 銃声が最上階の部屋に鳴り響いた。


 全員がの視線が一点に集中した。


 遠山と、村山の後ろに、隼人が立っていた。


 「おまえ、どうやってここに……」

 驚く鬼神はすぐに、

 「さては直通EVを使ったな。

この女の仕業だな」

 

 ドカッ……

 ヒカルに蹴りを入れる鬼神……。 

 「う……う」

 床に倒れたまま、ぐったりするヒカル。


 「ヒカル……」

 大声で叫ぶ隼人。


 その光景を見ていた村山が、

鬼神の隣に歩み寄って来た。


「おい、彼等を始末しろ……」

「あぁ、わかった」


 鬼神の言葉に、村山はゆっくりと

遠山と隼人の前に進むと、ニコッと

微笑み、くるっと向きを変え、

鬼神の方向へ銃口を向けた。


 銃口を向けられた鬼神が

「どういうことだ……村山」

 と呟いた。


「悪いが、そういうことだ……」

「貴様! 裏切ったな……もしかして、

おまえが、この女を片陰の街に逃がしたのか?」


「ご名答! 薬を打たれた鈴香様を、あんたらの

目を盗んで車に乗せてあの街に連れて行った。

 あの街に入りさえすれば身を隠せると思ってな。

 そして、俺は何食わぬ顔をして鬼神、あんたと

合流したのさ……」


 「おのれ~、村山~、おまえら、

そいつらを殺せ……」

 

 彼の叫び声と同時に、

村山が、隼人に拳銃と閃光弾を投げた。

 閃光弾を受け取った隼人は、傭兵と鬼神に

向かってそれを投げ入れた。


 ピカっ……

 鋭い閃光が辺りを包み込んだ……。

 隼人は遠山の腕を引き上げ、

会長専用の大きな机の下に彼を押し込むと、

調度品が飾ってある棚や本棚を倒してフタをした。 

 閃光が無くなると、彼等は一斉に発砲してくる

ことを想定している隼人と村上が、

次の手を考える……。


 「ここで、奴等を確実に始末しろ。

鈴香、おまえは俺と一緒に来い」

 ぼやける視界の中で、鬼神がヒカルをつれて

数人の傭兵と一緒にフロアから出て行くのが

見えた。


 物陰に隠れた隼人と村上……

 パン、パン、パン……

 「アイツ等、容赦ないな……」

 

 パンパン……バキュン……

 「う……うう」

 一人の傭兵に隼人の撃った弾が命中し

床に倒れ込んだ。


 「ほぉ~、意外と銃の使い方が上手いな」

 感心する村山……。

 「それは、どうも……

いままで散々人を欺いといてよく言うよ」

 隼人が言った。

 

 パン……パン……パン。

 「でも、よく私が味方ってわかったな」

 「確信はなかった……

でも、美雪の言葉で全てを理解した……」


 「彼女に聞いたのか」

 「あぁ、すべてじゃないけど……

 今は、あんたと一緒にいること。

それから……幸せだということ……」


 パンパンパン……

鳴り響く銃声……。


 「元カノと感動の再会か……」

 「あんたね~、この状況で俺に

喧嘩売ってんの?」

 「そう怒るなよ……」

 「でも、あんたになら、

美雪任せていいのかもな」

 「もちろんだよ。俺が全力で彼女を守るよ。

君も全力で守りたい人を見つけたんだろ?」

 「そうだな……」

 隼人が呟いた。

 「倉庫街……制圧完了」

 インカムから聞こえて来たのは、

喫茶店のマスターの声。


 「了解、58階フロア制圧完了。

只今より54階から58階の4フロア

並びに最重要機密スペースの爆破を

実行する」

 インカムに向かって言葉を発する

美雪……。

 

 彼女の足元には、クタクタになって

動けないレイとコトが座り込んでいた。


 「小型爆弾設置完了しました」

隊員が美雪のもとに報告に来た。


 美雪が頷くと、レイとコトの顔を見て、

 「レイ、コト……私とあの専用EVに乗って

最上階にいる隼人と村山のところに、

これを届けに行くよ。

 多分、時間的にもう限界だと思うから……

隊員は残党がいないかどうか再度確認

する任務があるから……」

 そう言うと、美雪は、拳銃と弾薬、

機関銃を指差した。


 座り込んでいたレイが立ち上がり、

コトを引き上げると、

 「よし! コト、最後の大仕事だ」

 と言った。


 レイとコトと美雪は専用EVに乗り込むと

最上階を目指した。

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