第50話 再会
隼人の前に突然現れた
かつての恋人、美雪……。
驚きを隠せない隼人は、
「美雪……生きてたのか?」
と聞いた。
「うん、しっかりと生きてる。
今は、村山と……彼と一緒にいる」
「村山……と……一緒に?……」
「彼は、あなたが思ってるような
人じゃない……」
「でも、ヤツは鬼神の手下で……」
美雪が隼人の口元を手で覆うと、
「いい、隼人、今から私が言うことをだまって聞いて。
この部屋には、監視カメラが二か所設置してある。
もともとは倉庫として使われてたから、
音声は拾えない。監視カメラが
角度チェンジする時に数秒間空白が出来る。
その間に私が拘束を解除する。
その後は、私を人質にしてこの部屋から逃げて」
彼女の言葉に驚いた隼人だったが、
「美雪……ここは、何階だ?」
と彼女に尋ねた。
「ここは、51階の鬼神が経営する会社の
フロアの中の一室……部屋を出たら、前方に
自動ドアが見えるから……」
「そうか……部屋を出たらまずは敵が潜む
空間を通って、上にあがっても敵だらけって
ことか……すげぇ~な」
「幸運にも今の時間は、このフロアには人は少ないわ。
あなたの監視もドアの向こうの二名だけ。
隼人、昔から強運の持ち主だったでしょ?」
美雪は隼人にそう告げると、彼の目の前に片手で
持った注射器を掲げて見せた。
「美雪……何すんだ?」
無表情になった美雪が、監視カメラの死角側に
立つと……
「安心して、これはだだの鎮痛剤よ……
強力だからこのタワーの最上階に行き着くまでは
効力が保てると思う」
そう言うと、美雪は隼人の腕に薬剤を注射した。
「どう? 痛みは……」
「すげ~な。速攻効き目ありだな……」
「動けそう?」
「あぁ、ばっちりだ……」
隼人の表情を見た美雪は、監視カメラの角度
チェンジの数秒を利用して隼人の拘束を解いた。
「隼人……これ……村山から預かった。
あなたに渡せって……」
美雪が白衣の下に隠していた拳銃を取り出し
隼人に渡した。
「美雪……どうして……村山って一体」
「詳しいことは今は言えない……
でも、彼はあなたの敵ではないことは確かだから。
隼人……私を信じて……」
美雪が隼人を見上げ呟いた。
「わかったよ。美雪……おまえを信じるよ」
「じゃあ、行くぞ」
隼人の声に美雪が頷いた。
ドン……。
「キャ~、助けて……」
美雪の悲鳴が部屋の中から聞こえてきた。
彼女の悲鳴を聞いた黒服の男が二人
拳銃を構えて部屋のドアを開けた。
黒服の前には、隼人に拳銃を突きつけ
られた美雪の姿……。
「この女、殺されたくなかったら、
大人しく銃を置きな……」
隼人がそう呟くと、黒服の男は
互いに視線を交わし銃をゆっくりと床に
置く……ふりをした。
パーン、パーン、パーン、パーン……
部屋に響く四発の銃声……
黒服の男が二人、床に倒れ込んだ。
隼人は、黒服が反撃してくることを
想定して、彼等が銃を下げた瞬間に
彼等の左右の肩を撃ち抜いた。
「これで、銃やナイフは握れないだろ?
お兄さんたち、せっかく銃を持ってるんだから
これは俺がもらっていくね……」
そう言うと、隼人は床に落ちた二丁の拳銃を
拾い腰に差し込んだ。
二人の男の手足を結束バンドで固定し、
彼等の通信機器を破壊した隼人が、
部屋を後にしよとした時だった……
「隼人……あなたが助けに来た女性は
無事だから安心して。59階の彼女の部屋にいる」
「そうか……」
隼人が呟いた。
「隼人……死なないで」
彼の背後から抱きつく美雪……。
「俺は、死なないよ……なぁ、美雪……
おまえ、今、幸せか?」
隼人の言葉に、美雪は微笑みながら、
「うん……とっても幸せだよ……」
と答えた。
「そう……か。ならよかった……。
美雪……ごめんな。あの時、助けてやれなくて」
隼人はゆっくりと振り返り、
美雪の目を見て優しく微笑むと、
部屋から駆け出して行った。
「隼人……私も、あの時……
あなたに助けに来てほしかった……
私は今でもあなたのことが……」
そう呟き白衣を脱ぎ捨てると、
その場から立ち去った。
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