第44話 そして、陽が昇る

 朝が来た……。

 ドリームタウンに温かい陽の光が

差し込むと、緑の木々も緩やかに吹く風に

サワサワと音をたて揺れている。


 「ん~、よく寝たな」

 両手を天井に向け上げると鈴香は、

ベッドから起き上がった。

 早々に容姿を整えるとクローゼットを開けた。

 「え~っと、今日はどの服にしようかな……」

 クローゼットに収納してある沢山の洋服を

見ながら呟いた。


 コンコンコン……。

 「鈴香お嬢様、お目覚めですか?

 失礼致します……」

 遠山家に仕えるメイドが彼女の部屋に入って来た。


 「おはようございます。今日もいい天気ですね」

 にこやかな表情の鈴香が言った。


 「鈴香様、なにかいいことでもあるのですか?」

 メイドが鈴香に声をかけた。

 

 「ええ、今日は神谷社長がお父様に会いに……

隼人……さんが、ここに……来る」

 鈴香がそう呟いた。


 「鈴香様? どうかなさいましたか?」

 鈴香は、激しい頭痛に襲われるとにこやかだった

表情が一変した。

 「鈴香様、お顔の色が悪いですよ。

すぐ、主治医を呼びますね……」

 メイドは慌てて、受話器を耳に当て、

コールボタンを押そうとした時だった。


 カチャ……

 メイドが押そうとしたコールボタンを

鈴香が静止すると、首を横に振った。

 「鈴香……様?」

 メイドが鈴香の顔を見ると、苦しそうな

表情の鈴香が、

 「大……丈夫だから。

 それよりこのこと透さんには言わないで……」

 「でも、鈴香様のお身体に変化があったら

報告するように命じられておりますので……」

 「お願い……彼に心配かけたくないの……」

 鈴香はメイドの身体に倒れ込むように、

両腕を掴むと、必死で懇願した。


 すると……


 「誰に心配かけたくないのですか?」

 と声がした。

 苦しそうな鈴香が振り返ると、

そこには鬼神が立っていた。

 

 「透さん……どうしてここに……」

 鬼神の顔を見た鈴香が膝をつき倒れ込んだ。

 鬼神が駆け寄り彼女を抱き起こすと、

 「鈴香さん、大丈夫ですか? 君、主治医を

呼んで来てくれ」

 とメイドに声をかけた。

 メイドは、頷くと慌てて部屋から出て

主治医を呼びに行った。


 一方、同じ頃……

昇る朝陽を背に受け、ドリーム・タウンの

外れにある小高い丘に隼人とレイの姿はあった。


 「はい、兄貴これ……」

 レイが隼人にUSBを渡した。

 隼人はそれを内ポケットの中に入れた。


 「レイ、朝早くから悪いな」

 「いいよ、これぐらい。

 それより、本当に一人で大丈夫なの?」

 不安そうにレイが言った。


 「あぁ、一人の方が色々都合がいいんだ」

 「都合がいい?」

 「レイ、今日、俺はあのタワーの

最上階にいる遠山財閥の会長に面会できる……

正面から堂々とあのタワーに入れるんだよ。

 それに、アイツ等俺が遠山会長に会うのを

よく思っていない。おそらく事を起こすなら

今日だ……」

 「あ! だから、あのタワーの見取り図が

欲しかったってわけだ」

 「そういうこと。あのタワーの何処かに

ヒカルもいる。住居フロアがあるって言ってたから。

 ヒカルを連れ出せるチャンスなんだ。

 色々調べてくれてありがとうな」

 

 レイにそう告げると隼人はバイクに

またがった。


 「兄貴!」

 レイが隼人のもとに駆け寄ってきた。

 「兄貴、これ……」

 そう言うとレイはポケットから何かを取り出し

隼人のスーツの襟元につけた。

 「ん? なにこれ……ネクタイピン?」

 隼人が聞くと、

 「小型の盗聴器だよ……

気休めにしかならないけど

その……なんかあった時のお守りだよ……

兄貴、相手は極悪非道な奴等だから、いつどこで

仕掛けてくるかわかんないから。気をつけて」


 「ああ、わかってる。

そろそろ完全に陽が昇る……じゃあな……」


 隼人がバイクのエンジンをかけた。


 「兄貴、無茶はしないで。それから、死ぬなよ」

レイが叫んだ。

 隼人は、無言で微笑むと右手を軽く上げ、

バイクを発進させた。


 風を切り走り出したバイクは、

一路、ドリーム・タウンを目指して走り出した。

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