第39話 ショコラと微笑み
「突然に、失礼致します。
実はこの先で、我々の会社の新製品
試食会のイベントを行っております。
よろしければ、お二人にご試食など
お願いできれば……と思うのですが……」
スーツ姿のシュッとした男性が
鈴香と友人に声をかけた。
「新製品の試食?」
友人が男性に聞いた。
「はい……我が社の新製品を是非……」
「できれば、ご協力させていただきたい
のですが……この方は、遠山財閥のご令嬢
鈴香様……。
新製品のご試食だなんてご遠慮なさってください」
「遠山財閥のご令嬢とは大変失礼致しました」
男性は会釈をして、その場を離れようと
した時だった……。
「あっ、待ってください」
鈴香が男性を呼び止めて聞いた。
「試食品って、どういうもの?」
男性が立ち止まり振り向くと、
「ショコラ……です」
「ショコラ……」
鈴香が呟いた。
男性は優しく微笑むと、
「甘い物は、お好きですか?」
「はい……」
「そうですか……
この先のキッチンカーで、職人が
手作りしておりますので、
よろしければ……」
目を輝かせ、友人の顔を見る鈴香。
「わかりました。おつきあい
しますわ……」
そう言うと、鈴香と友人は
男性の後について行った。
鈴香と友人が男性の後をついて行くと、
彼の言う通り、広場には一台のキッチンカーが
停まっており、外に面した作業カウンターでは
一人の男性職人がショコラを作っている光景が
見えた。
広場には、テーブル席が設けてあり、
そこには、沢山の女性がショコラの試食を
しているのが見えた。
二人は、男性から席に案内され、
椅子に座ると辺りを見渡した。
「女性ばっかりですね……」
友人が小声で言った。
「失礼致します。
ご試食用のショコラプレートでございます」
綺麗な女性スタッフが、二人の前に
試食用のショコラを置いた。
「うわぁ~、綺麗……」
思わず呟く鈴香と友人。
置かれたプレートの上には、
色鮮やかな、そして、美味しそうな、
ショコラが並んでいた。
二人がそれぞれにショコラを
口に入れると、口の中に広がる
ほのかに苦いカカオの香り……
そして、遅れてやってくる
ふわっとした甘さが食べた者の
全体を包み込む……。
「美味しい……」
鈴香が呟くと、女性スタッフが微笑み、
「ありがとうございます。
よろしければ、我が社の一押しの
ショコラを職人が目の前でお作り
しますが……いかがですか?」
と言った。
「はい。喜んで……」
そう言うと、鈴香は席を立ち上がり
キッチンカーの方へ歩いて行った。
キッチンカーの前には、数人の
女性が並んでいた。
「ねぇ~、あのパティシエ、イケメン」
「そうだね。でも、あの女性スタッフも
スタイル抜群の美人だし……モデルみたい」
「でも、何と言っても、私達に声をかけてきた
あの社長よね……シュッとして、それでいて
どこかワイルド……」
鈴香の前に並ぶ二人の女性が口々に三人
の話をしていた。
そうこうしているうちに、鈴香の順番が
回ってきた。
パティシエが彼女の前で器用に、
独創的なショコラを作りあげていく……。
「お嬢さん、どうぞ……特別なショコラです」
キッチンカーの中から新作が置かれたお皿が
差し出された。
鈴香はショコラを受け取ると、目を輝かせた。
「綺麗な……ショコラ」
お皿の上にのせられたショコラは、
まるで、太陽の光にあたったようにキラキラと
ヒカル金粉が散りばめられていた。
「この、ショコラの名前は、『HIKARU』」
パティシエがそう呟いた。
「『HIKARU』……。まるで誰かの名前
みたいですね」
鈴香がそう言うと、スーツ姿の男性が
「ええ、その通りなんです。この名前は
我々の大切な仲間……の名前なんですよ」
と優しく微笑んだ。
「そうですか……。その方が羨ましいです。
こんなに素敵な方々に想われて……
ショコラ、ありがとうございました」
鈴香も微笑むと、友人のもとに、
戻って行った。
席に戻った鈴香に友人が言った。
「鈴香様、この会社、今、とても人気が
ある物凄く有名なお店みたいですよ。
数ヶ月前に突然彗星の如くこの街に
現れたようです。
今じゃ、全世界も注目する急成長した
会社みたいですよ」
「ふぅ~ん。そうなんですね」
「鈴香さん、バレンタインデーも近いし
このショコラを特注で透様に贈られたら
いかがかしら?」
「そうですね……」
そう言うと、鈴香は『HIKARU』と
名付けられたショコラをパクっと口に入れ
るとほっぺたに両手をあて、幸せそうに
微笑んだ。
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