第38話 鈴香が住む街

 「鈴香さん、お元気そうで

何よりです。

 一時は心配しましたのよ。

 村山様から療養ということだけ聞かされて、

お見舞いもご遠慮してって言われて……

 その後、お身体は大丈夫なのですか?」


 高くそびえ立つビル群の狭間にある

緑豊かな公園。

 広場のベンチに座る鈴香の友人が

心配そうに彼女に話しかけた。


 「ええ、もうすっかり……

透さんがいいお医者様を紹介してくださって

毎日治療を受けたお陰で、すこぶる健康です」

 

 鈴香がニコッと微笑んだ。


 「いいですわね。鈴香様には透様という

素敵な婚約者がいらっしゃって……

噂に聞くと、鈴香様が療養中の間、

お傍を離れず、ずっと付きっきりだった

とか……。

 あんな、素敵な男性が傍にいて

くださるなんて……羨ましい」


 「そうなんですけど……

私、体調不良になったこととか、

療養中のこととか、思い出せなくて」


 「まぁ~、思い出せないくらい

お身体を崩されていたのですね……」

 涙目になる友人に鈴香は、

 「でも、ほらこの通り大丈夫です。

 もう完璧に治りましたから」

 と微笑んだ。


 雲一つない空は青く……

 まっすぐに空に延びるタワー。


 ここは、富と名誉と地位を

得たものだけが住むことを許される街。


 誰もが憧れる……夢の街……。

 『ドリーム・タウン』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る