第34話 開き始める真実の扉
「隼人、ここに置いとくよ」
隼人の部屋を訪ねて来たコトが、
テーブルの上に袋に入った食料を置いた。
「サンキュ。コトいつも悪いな」
「いいのよ。これくらい。それより、
レイからは連絡あったの?」
コトの質問に首を横に振る隼人。
「そう……レイがここを出て、
一週間か……」
そう呟いたコトがその場に
しゃがみ込むと両手で頭を抑えた。
「コト……どうした? 頭痛いのか?」
心配してコトの顔を覗き込む隼人。
「大丈夫……すぐ直るから……」
そう言うとコトはニコッと笑った。
その時だった……
隼人のスマホに着信の合図……
画面には、『非通知』の文字。
隼人が、スマホを耳に当てた。
「隼人君……久しぶりだね」
電話口から聞き覚えのある声がした。
「村山……」
呟く隼人に答えるように、
「君にいいことを教えてあげよう。
実は、私達がいるタワーに一匹の
ドブネズミが紛れ込んでね……。
捕まえて駆除しようと思ったんだよ」
「おまえ……レイをどうした」
「駆除しようと思ったんだが、
お優しいK様が、殺さないでいいって……」
「おい! 答えろよ。
レイをどうしたんだよ」
「まぁ、焦らないでくれよ。
捕まったネズミは、もといた場所に
たった今、捨てたところだよ。
安心しな……ちゃんと生きてるぜ」
「おまえら……」
語気を荒げる隼人に村上が一言、
「いいか……真実を知りたければ、
おまえも、あのタワーの最上階まで
辿りつくことだ……」
そう言うと村山は電話を切った。
ドサ……、
ブオーン……。
車の発進する音が聞こえた。
隼人が慌てて、ドアの外に出ると、
黒塗りの車が猛スピードで走り去った。
そして、階段の下には、地面に横たわる
血だらけのレイの姿……
「レイ……」
隼人は彼の名前を叫ぶと、勢いよく
階段を駆け下り、彼を抱き起こした。
「あ、兄貴……」
腫れあがった顔で隼人の顔を見上げる
レイ……。
「レイ、レイ。しっかりしろ!
今、ドクターの所に連れて行くからな」
そう言うと、隼人はレイを肩に担ぎ、
急いでドクターのもとに向かった。
診療所にレイを運んだ隼人とコト……
「ドクター、レイは大丈夫なのかよ」
興奮する隼人に向かってドクターは
「あ~もう、気が散るではないか……
コト、レイの治療が終わるまで、隼人を
この部屋から連れ出せ……」
と言った。
コトに手を引かれ、処置室から出て行く
隼人……。
それを見届けたドクターは、
「まぁ~、それにしても派手に
やられたもんじゃ。どれ……」
と言うとテキパキとレイの傷の処置を
始めた。
数十分が過ぎた頃、処置を終えた
ドクターが外で待つ隼人とコトを呼んだ。
処置を終え、処置台で眠るレイを見た
隼人がドクターに聞いた。
「レイは大丈夫なのか?」
「命に別状はない……。まぁ、完全に
回復するまではひと月ってとこかな……」
「そうか……よかった」
安心する隼人とコトにドクターが呟いた。
「それにしても、不思議じゃ……」
「なにが? 不思議なんだ?」
「レイの傷のことなんじゃが、すべて
急所を外してあるんじゃよ。
普通は、急所を確実に傷つけるもの
なのにな……」
「急所を外した傷……?」
「まぁ、不幸中の幸いってことじゃ」
そう言うと、ドクターは部屋から出て行った。
「隼人……」
コトが、呟いた。
「どうした……」
「私……、思い出した……
ドリームタウンで、K、いいや……
鬼神が私に言ったこと……」
レイがそう呟くと、
眼を見開いた隼人……。
「コト……本当か?」
「本当……」
「兄貴……俺も、わかったよ。
あの街の闇……」
包帯を全身にグルグル巻きにされ、
ミイラ男のように横たわるレイが
呟いた。
「わかった……レイはもう話すな。
コト……鬼神からいったい何を
聞かされたんだ?」
隼人の言葉に、コトがゆっくりと
話し出した。
「ヒカルは、記憶喪失なんかじゃない。
鬼神に記憶を操作されてたの……」
「記憶を操作された? どういう意味だよ」
「詳細はよくわからないんだけど……
恐らく、ヒカルは鬼神の裏の顔を
知ってしまったんだと思う……
彼のもとから逃げようとして、薬を打たれた。
私と同じように……」
「薬を打たれた?」
「そう……なにかわからない液体を注射された」
「注射?」
驚く隼人……。
「その薬は人体には影響しないみたいなの。
鬼神がそう言ってた。
その薬で記憶を操作できるって……
私が打たれた量では、少しだけ
記憶を消すことができるって……。
もし、ヒカルが定期的に薬を
打たれ続けたとしたら、
彼女は彼女自身の記憶が無くなる」
「そんな、記憶を操作できる薬なんて、
この世にあるのかよ。記憶を消せる薬なんて……
倫理的におかしいだろ……」
「兄貴……コトの言うことは間違いないんだ。
あの、ドリームタウンには、秘密裏に
かなりヤバイ取引きをしている組織が存在する。
外貨等を稼ぐ目的に、ヒカルとコトが
打たれた薬が発明された。
その画期的な薬を精製し、闇ルートで
売りさばこうとしている元締めが、Kこと、
鬼神透だ。アイツ、ヒカルに近づき
遠山財閥を隠れ蓑にして、財閥ごと
乗っ取る気だよ……」
レイが、ドリーム・タウンで知った
すべてのことを話して聞かせた。
両手でこぶしを握りしめる隼人は、
「ヒカル……」
と呟いた。
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