第27話 コトの記憶

 片陰の街から戻った鬼神は、コトが生活する

タワーの部屋に戻って来た。

 自動ドアが開き鬼神が部屋に入って来た。

 ソファーに座ると彼女に、

 「コトさん、何か作ってくれないか?」

 と言った。


 コトは、棚のガラス戸を開けると、中から

高級酒を取り出し、氷が入ったグラスに注ぐ。

 「どうぞ……」

 と言うと鬼神に手渡した。

 注がれた酒を一気に飲み干した鬼神、

 カラン……氷が解ける音がした。


 彼は、コトを隣に座るように視線を送と

彼の視線に従うように、コトは鬼神の隣に座った。


 「コトさん、いいことを教えてあげましょう。

 尋ね人が見つかりました。

 あの街で……。

なんと、あなたがいた店の厨房に……

ヒカルという名前で働いていましたよ」

 鬼神の言葉にコトの顔色が変わった。

 

 「そんな、顔をしないでください。

 あなた達には感謝していますよ。

 彼女をあの街に留めていてくれたのだから。

 それから、彼女の名前はヒカルではなくて、

遠山鈴香という名前で、このタワーの最上階の

住人、遠山財閥のご令嬢で私の婚約者です」

 

 「え……ヒカルが?」

 コトが呟いた。

 「その様子じゃ、あなたですね。

彼女をあの身なりにしたのは……。

 私達を欺くために……」

 

 「ヒカルは、記憶が戻ったんですか?」

 コトが彼に尋ねた。

 「私のことは、思い出してますよ。

 まだ、すべてではないですがね……」


 「すべて思い出してはないのですか?」

 「はい、そうですね。

 私達にとって不都合なことは

思い出していないので……」


 「不都合なこと?」

 「そうですね。見てはいけないものを

見てしまったとか……そして、記憶を消された

こととか……」

 「記憶を消されたって……どういう意味?」

 「まぁ、記憶を操作したって方が正しい

でしょうね。

 おっと、今夜はしゃべりすぎました。

 明日は、隼人君とレイ君が

鈴香さんを連れてこのタワーに来ますよ。

 あなたを取り返す代わりに鈴香さんを

私のもとに返すのを条件にね……」


 「あなた……何者?」

 コトが呟いた。

 「私の名前は、鬼神透。

 表の世界ではそう呼ばれています」

 「表の顔?」

 「そうですね……そして裏ではK……と

呼ばれています」

  

 「あなた…… ヒカルに何かしたのね。

だから、彼女は記憶を失くした……」

 コトが鬼神を睨みつけた。

 「おやおや、そんな怖い顔をして、

コトさん、美人が台無しですよ。

 これからあなたには、今私がお話したことを

忘れていただきます」

 「え……?」

 鬼神が微笑むと、自動ドアが開き

村上と白衣を着た男が入ってくると、

コトを抑えつけ上着の袖をまくり上げた。

 「な、なにするの?」

 叫ぶコトに鬼神が微笑むと、

 「言ったでしょ? 不都合なことは

忘れていただきますって」

 

 その後、白衣を着た男は、コトに

液体を注射した。

 「私に……何をしたの……」

 コトが呟いた。

 「心配いりませんよ。

 身体には何も影響しません。

 そうですね、この量だと記憶が

少しだけ無くなる。

 ただ、それだけです」


 鬼神の言葉を聞いたコトは、

意識を失った……。


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