第26話 約束ですよ

 コトが、片陰の街を出て数日が経過した。

  

 着信音が鳴りスマホを耳元にあてた隼人。

 「レイ、どうした?」

 「兄貴、大変だよ。Kと村山が、

この街に現れた……もしかして……」

 レイからの電話を切った隼人は急いで

ヒカルのもとに向かった。

 

 店の厨房で働くヒカル……。

  

 今日も変わらぬ厨房に昼休憩を知らせる

ベルが鳴った。

 皆は、一斉に手を止めると、休憩に入る。

 親分格の女性がヒカルに話かけた。

 「ヒカルちゃん、先に行ってるよ」

 「はい、私もこれ洗ったら休憩します」

 元気よく答えるヒカルを見ると女性は、

微笑むと厨房を出て行った。


 一人残されたヒカルは、洗い物を済ませ、

厨房を出ようとした時だった……。

 裏口から、息を切らした隼人とレイが

厨房に入って来た。

 二人を見たヒカルは、

 「隼人さん、レイ……どうしたの?」

 と不思議そうに聞いた。

 「ヒカル……大丈夫か?」

 隼人が声をかける。

 「大丈夫って?」

 「怪しい奴等が来なかったか?」

 「ううん。誰も来なかったけど……」

 

 ヒカルが隼人とレイにそう伝えた

その時だった。

 「誰が、怪しい奴等なんですか?」

 声と同時に厨房のドアがゆっくりと開くと、

そこには、Kと村山……そして黒服の男が

数人立っていた。

 

 隼人は慌てて、ヒカルの腕を引き、

自分の後ろに隠した。

 その光景を見たKは、急に心配そうな顔をして

厨房の中にいる三人の前に駆け寄ると、

 「灯台下暗し……まさか、こんな近くに

いたなんて……よかった。

 本当に良かった……」

 とKの表情と態度が一変した。


 「鈴香? なんだよそれ……」

 レイがKに聞き返すと、涙目のKが彼等に言った。

 

 「知らないんですか? 知らないなら教えて

あげましょう。

 彼女の名前は、遠山鈴香さん。

 彼女は、あの、ドリーム・タウンの最上階

にいる遠山財閥のご令嬢。

 そして、財閥会長の一人娘です……」


 「ヒカルがドリーム・タウンの住人?

財閥のご令嬢……」

 隼人が呟いた。

 驚く隼人を見たKがさらに話を続ける。

 「そして、私は、鈴香さんの婚約者、

鬼神貿易の鬼神透です……よかった。

 鈴香さんが無事で……」


  Kが、隼人の後ろにいるヒカルの顔を

覗き込んだ。

 「おまえ、何やってるんだよ……」

 隼人がKの腕を掴んだその時、


 「透……さん」

 Kの顔を見たヒカルが呟いた。

 彼女の言葉に驚いた表情を見せた

Kは、隼人とレイを押しのけると、

 「はい、私です。鬼神透です。

 鈴香さん……」

 と言うと彼女を抱きしめた。


 Kとヒカルの様子を見ていた隼人のもとに

村山が近寄って来ると、隼人の耳元で、

 「交換条件だ。あの女を返してほしければ、

明日の午後2時に迎えをやる。鈴香様と一緒に

私達のところに来い。わかったな?」

 とささやいた。


 その場に立ち尽くす隼人に、

Kがニコッと笑うと、

「隼人君、レイ君、どうもありがとう。

無事に彼女を見つけることが出来たよ。

 そうだ。君たちにお礼をしないと……

 鈴香さん、明日の二時に迎えを出しますので

ドリーム・タウンに戻りましょう。

 会長も心待ちにされることでしょう。

 そして、君たちも一緒に必ず来てください。

 私とあなた達との約束ですよ」

 と言うと、村山に合図をした。


 村山が、ヒカルにアタッシュケースを

渡した。

 「これは、何ですか?」

 ヒカルが村山に尋ねた。

 「着替えと、コスメの道具です。

その身なりでは、会長が驚かれますので。

それと、その茶色に染まった髪の毛も、

色を落としてもとの黒髪に……」

 と言うと、カラー材が入った小箱を

手渡した。


 「では、私たちはこれで……

せっかくの休憩時間を申し訳ありませんでした。

 鈴香さん、せっかくあなたを見つけたのに

明日まで会えないなんて……。この鬼神透、

悲しみでいっぱいです。

 明日、ドリーム・タウンでお待ちしております」

 と言うとKを先頭に村山、黒服の男達は

厨房を出て行った。



 車に乗り込んだKこと、鬼神と村山。

 村山が鬼神に聞いた。

 「流石、婚約者……一目で彼女が

鈴香様とわかるとは……。俺があの時

わかっていれば、もっと早くに……」

 「気にするな……」

 「それで、鈴香様の記憶は?」

 「私のことは理解しているようだが、

まだ完全に記憶は戻っていない……

 好都合だよ。彼女が完全に記憶を

取り戻すまでに、達成させなければな……村山」

 「はい、わかりました」


 「さぁてと、鬼は、隠れていた人を

見つけ出した。見つけ出された人は、

この後どうなるんでしたっけ? 

 さて、次は、鬼に捕まってる人の

所に行きましょうかね。

 車を出せ!」

 鬼神がそう呟くと、車はゆっくりと

発進した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る