第22話 ふたりの夜と二つの影

 次の日の夜、荷物を持ったヒカルが

隼人の部屋を訪れた。

 「どうぞ……」

 隼人が一言話すと、

 「お世話になります……」

 ヒカルが短く返事を返す。


 「コトは、大丈夫だった?」

 「少し……いや、かなり大変だった」

 「そうか……コトは激情型だからな……」

 「興奮すると、自分でも何を言ってるか

わかんなくなる……」


 「確かに……でも、コトは隼人さんのことが

大好きなんだよ……。それだけはわかる」


 「そうか……」

 そう言うと隼人が微笑んだ。


 「ヒカル、シャワーとか勝手に浴びていいぞ!

それから、寝るのはベッドを使え……」


 「ありがとう。でも隼人さんは?」

 「俺? 俺はソファーで寝るよ」

 「でも……ずっとソファーじゃ……疲れちゃう」

 「じゃあ、ベッドで俺と一緒に寝るか?」

 「えっ……それは……」

 隼人の言葉に驚くヒカル。


 「馬鹿! 冗談に決まってるだろ……

何、本気にしてるんだよ……」

 そう言いながら、冷蔵庫から缶ビールを

取り出した隼人、ブシュッとフタを開けると

冷えたビールを一口、口に含んだ。


 「わかりました……寝るだけなら……

同じベットでも……いいですけど……」

 ヒカルからの発言に口に含んだビールを

噴き出しそうになる隼人……。


 「馬鹿! おまえ、何言ってんの?」

 「だって……私だけベッド使うなんて、

隼人さんに悪いし……

 だから、寝るだけならいいです」

 ヒカルの言葉に呆れた隼人は、

彼女の頭に手を乗せると、

 「あのな、ヒカル……男は、時として

寝るだけじゃすまなくなることがあるんだよ。

 だから、こんなこと、うかつに言っちゃだめだ。

 ヒカルはベッドを使え。わかったな……」

 と優しい口調で言った。


 「はい……わかりました」

 「よし! じゃあ、シャワー浴びてきな」

 隼人からそう言われ、ヒカルはシャワーを浴び

浴室から出て来ると、ソファーに横になり、

寝息を立てている隼人の姿に、ニコッと微笑むと

彼に毛布を掛け、自分もベッドに横になり毛布を被った。

 ヒカルは、さっき、隼人が自分の頭にのせた

彼の手の感触がまだ残っているのを感じていた。

 夜も更け、二人は深い眠りにつく……。

こうして、ヒカルは隼人の部屋で生活を

始めることになった。



 静まり返った路地裏の、隼人が住む部屋を

見つめる黒いふたつの影……。


 「Kさんが言っていた気になるヤツって

アイツのことですか?」

 黒服の男が村山に尋ねた。

 「ああ、ひとりは神谷武蔵の息子……

そしてもう一人はあの店のナンバーワンの女だ」

 村山がそう呟く。

 「アイツ等が彼女のことを知ってるって

いう証拠はあるのですか?」

 「俺も、Kに聞いたが、証拠はない……

ただ、彼の直感だそうだ……」

 「Kさんの直感……」

 黒服の表情が青ざめた。


 「そうだ。彼の直感……とにかく、

あの隼人と女の周りにいる人物を調べろ!」

 「さっき部屋に入って行った女は?」

 「あの女は、俺が確認した。

 似ても似つかない女だから大丈夫だ」

 「わかりました。では、あの女意外を

調べます……」

 黒服の男は村山にそう告げた。

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